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 秋以降にいきなりフランスの政治の世界に登場し、正式に来週の次期大統領に立候補を表明したエリック・ゼムール氏は、もとはジャーナリスト。名門パリ政治学院を出た優れた頭脳とフランスの歴史への知識の豊富さと米トランプ前大統領に似た人々の感情に訴える雄弁さで人気を集めている。

 世論調査では極右政党の国民連合党首マリーヌ・ルペン候補とマクロン現大統領に次ぐ支持率を争っているが、政党を持たず、政治家経験もない有力候補の登場は、フランス政治史にはない新しい現象だ。それもそれほど過去に知名度が高かったわけでもない。

 ゼムール氏は、ルペン氏が自分の政党の勢いが増す中、政権与党をめざし、極端な右寄り政策を緩めているのに対して、父ルペンのように激しくイスラム移民の増加に警鐘を鳴らしている。イスラム移民を追放することで国家の根本的再建を呼び掛けている。

 当然ながら人道主義の左派及び極左は、ゼムール発言に激しく反発し、彼の勢いをそぐのに必死だ。ところがコロナ禍で将来への不安を抱え、治安が悪化し、わが物顔で町を闊歩する移民たちへの不快感は高まるばかりで、もともとイスラム嫌いのフランス人の中にはゼムール氏に共感する人も少なくない。

 マスコミ出身のゼムール氏の戦略は今のところ成功している。彼は本を出版し、問題発言を繰り返すことでSNS上で議論が盛り上がり、本が売れ、ポピュラリティは急上昇した。

 さらに他の候補者が口にしていなかった移民問題や治安問題へのゼムール氏の強いメッセージで注目が高まったのを見て、他の候補者が一斉にこれらのテーマを口にするようになったのもおかしな現象と映っている。

 国民が何に最も関心を持つかという点で、フランスでは毎回、失業問題が大きなテーマになっているが、ゼムール氏はフランス企業の生産拠点を中国からフランスに戻すことを主張し、移民家庭に割かれる国家予算を削減すれば、雇用創出は簡単だと訴えている。

 何の生産性のない移民たちが、フランスの手厚い社会保障を受け取っている状況を変えるだけで、国家予算の20%は節約でき、手つかずの道路インフラなどへの投資に充てられると主張している。トランプやジョンソン英首相がブレグジットで叫んでいた内容に似ている。

 さらにフランスは1980年代からミッテラン政権のもとで左傾化が進み、人道支援の名を借りた移民大量受け入れだけでなく、過剰な福祉を行い、引き返せないほど国家予算はひっ迫している。その左傾化でフランス人が持っていたカトリックの価値観も弱体化し、イスラム教徒の国家が乗っ取られる危機に晒されているとゼムール氏は主張する。

 フランス人はイスラム移民がフランスへの同化を拒んでいるだけでなく、テロを実行し、国家を分断し、ひいてはフランスのイスラム化を企んでいると見る国民も少なくない。その危機感に直接答えるゼムール氏への期待度は高い。

 これまでの政治家は国民に約束しても任期中に実行するのは30%程度と見られている中、ゼムール氏なら多くを妥協なく実行するだろうと期待する人もいる。

 とにかく500人の自治体首長の支持がなければ、正式候補者にはなれないため、政党を持たないゼムール氏の課題は、まずは正式候補者になることだ。今後、イスラム過激派のテロでも起きれば、ゼムール氏には追い風になる可能性もある。

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