White_Cliffs_of_Dover_02

 最近、周囲のフランス人からよく聞く話は「コロナは終わりそうにない。これから人類はどこに向かうのか全くまったく予想ができない。」「先進国ほど問題を抱えることになっている」というコメント。このとはフランスに溢れる移民たちへの冷たい視線にも反映されている。

 極右の新星、エリック・ゼムール氏が大統領選に出る可能性が高まる中、人気の背景には1980年代に台頭したジャン=マリ・ルペン氏が創設した極右の国民戦線が支持を集めた時に似た現象がある。しかし、今回は反共だったルペン氏と違い、世界情勢が変化する中、移民の多さで国体が本当に揺るがされている現状への危機感に共感する支持者が多い。

 マクロン現大統領と来春の大統領選の決選投票で競り合うとされていた右派・国民連合(前身は国民戦線)のマリーヌ・ルペン氏が影を潜め、ゼムール一色のような状況だ。理由はルペン氏は党の基盤が強くなったことで政権党をめざし、よりバランスの取れた政策を打ち出していることが、マイナスになっているからだ。

 世界中でポピュリズム政治家が台頭する流れの中で、極端な主張をしなければ選ばれない空気はますます濃厚だ。国民に不満や不安が広がるほど、救いを求める有権者は極端な意見がすがり付こうとする。保身に走る有権者にとっては、耳障りの言い理想主義より目の前に抱える課題を荒っぽくでも解決してくれる指導者を望むものだ。

 ゼムール氏の発言が説得力を持つのは、あまりに増えた移民たちが持ち込んだ自由や民主主義、法治国家、さらには正直さや誠実さとは無縁の人々が急増したことだ。貧しい国でなりふり構わず生きてきた移民には、公衆道徳は皆無といえる。嘘をつくこと、人を騙すことに良心の呵責を感じない人に市民社会のルールを教えるのは不可能なのかもしれない。

 そんなことを外国人である筆者でさえ感じるわけだから、理想主義を追求してきたフランス人にとっての不快さは想像に難くない。その一方でキリスト教の価値観から受け継いだ寛容さや人権意識もあり、移民を排斥する人々も受け入れるべきという人々も普遍的価値観と現実の間で葛藤している。

 これはフランスに限ったことではない。2015年に100万人の移民を受け入れたドイツも北欧諸国もイタリアやスペインも同じ状況だ。ポーランドに押し寄せる中東移民に欧州連合(EU)加盟国が冷淡なのは、ベラルーシの独裁者ルカチェンコ氏が意図的に移民を送り込んだことだけではなく、もう移民はたくさんだという世論が存在している。

 フランス北西部カレーの浜辺からゴムボートで命がけで英仏海峡を渡ろうとして中東からの不法移民少なくとも27人が命を落としたことで、フランスでも英国でもメディアは一斉に連日のように議論が行われている。両国の責任のさすりつけ合いは醜いが、互いに不法移民拒否の姿勢は同じだ。

 今はコロナで余裕を失った欧州は、これ以上移民問題で国が複雑になることは誰も望んでいない。特に西洋文明を受け入れないイスラム教徒への警戒感は高まるばかりだ。自分たちの将来がコロナで見えなくなった今、寛容さや人道支援は影を潜めている。

 そんな事情を知らない移民、難民たちは今も豊かな生活を求めて、欧州をめざして移動している。この状況は誰にも解決できる問題には見えないところが恐ろしいところだ。

ブログ内関連記事
難民救済に及び腰のEU アフガン駐留20年の失敗が欧州の分断をもたらしている
スペイン領セウタに押し寄せる不法移民 スペインの領土問題でコロナ禍後の移民流入への懸念
アメリカをめざす移民集団、国際社会は国民を窮地に追い込む国家になすすべがない