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 欧州メディアは、フランスの高級ブランドのディオールの使用した中国女性の写真が、アジア人に対して欧米人が抱く偏見をそのまま表現しているとして、中国のインターネットなどで批判されました。その後、撮影した中国人ファッション写真家が自分の「無知」について謝罪する事態となっています。

BBCが報じたディオールの問題となった中国人女性の写真

 話がややこしいのは、欧米を代表する世界的なブランド会社が、欧米人が抱く昔ながらのアジア人女性に抱くイメージを、そのまま写真として使用しただけでなく、その写真を撮ったのが中国生まれ、中国育ちの中国人写真家というところです。

 この一件、ディオール社は想定外の中国からの批判に驚き、写真を取り下げ、写真家本人はSNS上で謝罪する事態になりました。なぜ、批判が起きたかといえば、その女性の腫れぼったい小さな目は恐怖を与えるようなイメージが醜い印象を与え、中国の一般人を不快にさせたからでした。

 無論、ディオールが弁明しているように広告用写真ではなく、芸術写真だったといい、中国人の中にも「かっこいい」「何の問題もない写真」という人もいるようですが、ディオールは23日夜、SNS上の自社アカウントで、「これまでどおり、中国の人々の思いを尊重している。(中略)何らかの間違いが起これば、指摘を受け止め、適宜それを正していく」と書きました。

 問題の写真は今月12日、上海の展示会で掲示が始まりました。直後から中国のインターネット利用者が同国のソーシャルメディア、微博(ウェイボ)で次々と批判の書き込みがあり、のちに現地メディアも取り上げ、写真の撤去、写真家本人の謝罪に発展したと伝えられています。

 興味深いのは写真家が欧米人なら、中国人に対する昔ながらのステレオタイプのイメージを表現したとして批判されても理解しやすいのですが、写真を撮ったのは生粋の中国人だったという点です。

 実は歴史的に中華思想を信じてきた中国人は、世界の中心は中国であり、中国から離れるほど野蛮人が住んでいると理解していました。そこに中国共産党の独善的思想教育が加わり、その内向き志向は世界でも群を抜いています。

 中国は経済大国として頭角を現して以来、過去にも増して国際社会から、さまざまな意味で批判を受けています。ところが中国人の多くは、国外の蛮族の批判にしか聞こえておらず、香港人や新疆ウイグル族への人権問題で批判されても「内政干渉」と一蹴するのも「蛮族が何をいうか」という受け止め方です。

 最近の例では、中国の女子プロテニス選手、彭帥(ポン・シューアイ)さんが今月2日に、共産党最高指導部メンバーの前副首相と不倫関係にあったと実名で告白する長文をウェイボに投稿し、その後、彭帥さんが行方不明になり、その後の政府当局の対応で疑惑が深まる騒動がありました。

 このような問題は枚挙に暇がありませんが、歴史改ざんで自らの正当性を主張することの多い中国では、中国共産党に対して都合の悪いことは国内向けに隠蔽するのは普通だし、彭帥さん騒動も北京冬季五輪を控えていなければ、闇に葬られるようなことだったはずです。

 つまり、中国にとって国際社会を牛耳ってきたアメリカを中心とした西洋文明そのものが敵であり、アメリカの世界支配を終わらせる野望が燃えたぎっているのが中国です。そのため国際社会(欧米社会)からの批判は一考にも値しないものです。

 ところが国際社会で認められないと、これ以上、上には行けないため、経済的優位性と五輪などで国の評価を高めることが戦略上重視されています。自由と民主主義を信奉する自由主義陣営の大国は、中国が大国になるためには国際社会のルールを守る必要があるといいますが、中国の目的は世界支配であり社会主義に世界を染める以外の目的はありません。

 超内向き志向からすれば、国際的評価は国内評価に比べれば大したことのないものです。ただ、中国は政治経済文化のあらゆる面で国際評価を気にしているのも事実です。

 今回の騒動の中心にいる写真家のチェン氏は声明で「ほぼすべての批判的コメント」を検討した結果、謝罪する必要があると感じたと述べ、「私は中国で生まれ育った。自分の国を深く愛している。芸術家として、自分の作品を通して中国文化を記録し、中国の美を紹介する責任をしっかり自覚している」としています。

 さらに「中国の歴史について学び、関連のイベントにもっと出て、イデオロギーを改善させる。(中略)自分の作品を通して中国について語るよう努力していく」と、イデオロギーに言及している辺りが中国らしいといえます。さらにいえば中国の」身から出た錆ともいえます。

 このような騒動が起きるたびに当事者が自己批判し、思想再教育が必要という姿をみると、70年安保当時の極左幹部が路線対立で劣勢に立たされるメンバーに「自己批判しろ!」といっていたのを思い出し、背筋が寒くなる思いに襲われます。

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