
欧州での新型コロナウイルスの感染者の急増が止まりません。同時にオランダ、ベルギー、オーストリアなどの各政府が打ち出す国民の行動制限に対しての抗議デモも激化しています。日本で死亡者ゼロを記録するのとは対照的です。感染急増の背景に何があるのでしょう。
専門家の意見は、どの国でも同じでワクチン接種率、マスク着用の徹底、ソーシャルディスタンスにあるという点は変わっていません。感染拡大している国の場合、2回以上のワクチン接種が7割前後で停滞していることが指摘されています。つまり、集団免疫が構築されるには十分でないということでしょう。
しかし、ワクチンが万能でないことは2度接種完了者にも感染者が出ていることです。そのため、3度目の接種が推奨されていますが、3度目の接種完了者が7割に達するのは、かなり先の話でしょう。そうなるとマスクと人との距離、つまり3密を避けることの継続も、まだまだ必要です。
世界保健機構(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域局長は「緊急措置を講じない限り、3月までにさらに50万人の死者が記録される可能性があると警告しています。同局長は、それを防ぐ方法としてマスク着用が役立つと主張しています。
欧州では、このマスクがくせ者です。理由の一つは、そもそも日常でマスクをする習慣が全くないからです。それに寒い地域の人々は鼻孔は狭く長い傾向にあります。理由は冷たい空気が肺に入れるために温める必要があるからと指摘する専門家もいます。
マスク着用で息苦しさを訴える人は少なくありません。細くて長い耳孔に加え、鼻が高いこともマスク着用に向かない要素です。だから、厳しい予防規制措置の時でもマスクをしていない人をよく見かけました。ましては規制措置が緩和されたら、まずマスクを外し、開放感に浸るわけです。
人との距離も西洋人には厳しいものです。昔はともかく、近代西洋文化の基本は人との横のつながりです。リモートワークから職場復帰した人々が、まずは喜ぶのは同僚との再会です。仕事に関係のないちょっとしたお喋りが仕事のモチベーション向上に繋がることを会社側は再発見しています。
トップダウンの西洋の組織を見て、縦社会の日本は西洋も縦社会と勘違いする人もいますが、意思決定の権限を認める一方、プライべートでは上司と部下の関係はフラットです。日本のように仕事外でも上下関係を引きずることはありません。基本は横の関係だからです。
握手したり、頬にキスをする身体的接触が頻繁なのは、親愛の情を表す一方で敵でないことを確認する意味もあります。個人主義といいますが、親族や友人との横の関係は非常に重視され、集団で騒ぐのもしばしばです。そのためソーシャルディスタンスも、かなりのストレスを与えてきました。
そして最も重要なことは「自由」です。ワクチン、マスクを含め、個人の選択の自由が妨げられることへの不快感は相当なものです。日頃、人との違いを主張する個性を大切にしている西洋人にとって、それを否定する政府の感染予防措置を、まるでファシズムのように受け止めている人もいます。
そこにもう一つ加わるのが公衆衛生に必須の公徳心が低下していることです。明治維新以降の日本の知識人が欧米社会を見て公徳心を高く評価したわけですが、今、たとえばマスクするのは自分が感染しないための保身であって、人にうつすことを先に考える人はほとんどいません。
無秩序な自由と公徳心の低下という観点からすると日本の方が優れているともいえそうです。無論、日本の感染が再拡大すれば、その理由を考える必要がありますが、日本はせいぜい、居酒屋を規制すれば、羽目を外すリスクは少ないでしょうが、西洋でのマスクなしの密状態でのスポーツ観戦、密状態で踊りまくる音楽フェスなど、感染拡大もさもありなんという印象です。
科学的には感染再拡大の原因を正確に分析するのは困難のようですが、今だにワクチン陰謀説を信じる人は多く、政治不信、科学者不信、製薬会社不信も広がっている状況です。
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