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 新型コロナウイルスのパンデミックに襲われたフランスは、教育現場で対面授業が行えなくなるなど、昨年来、1年9カ月の間、教育現場は混乱しました。最も懸念されるのが年間を通じて生徒に定められた学習内容の達成度ですが、今年の教育省の調査ではコロナ禍のマイナスの影響はほぼ払しょくされたようです。

 フランスの教育省が毎年実施している到達度テストの結果が11月になって発表され、教育省は公式にコロナ危機のマイナス影響がほぼ払しょくされたと評価しました。この到達度テストは、小学校入学時、小学4年生への進級時、そして中学校入学時に行われています。

 全体的な結果をみると、コロナ危機の影響が大きかった前学年(2020年9月に始まる)と比べて、2021年9月に始まった現行年度の生徒は全体として良好であり、危機前の水準に復帰しています。問題地区の学校と他の学校の間の格差も危機前の水準まで戻ったと報告されています。

 2017年に大統領に就任したマクロン氏は教育への意識が高いことで知られ、彼の著書『革命』の中で、最も具体的な施策が述べられていた分野の一つが教育改革でした。マクロン氏は移民家庭の子供たちを念頭に「生徒の5分の1が読み書きも計算もできないまま小学校を卒業する」と指摘しました。

 フランスが抱える経済格差と教育格差は、日本ではあまり指摘されないテーマですが何が問題化といえば、フランスの掲げる社会平等に矛盾しているからです。大学まで授業料を無料にしているフランスは、教育は経済格差の犠牲にさせないと高らかに歌っています。

 でもそれは、一般的なフランス人家庭が対象で、なおかつ生徒の勉強へのやる気があるかどうかにかかっています。勉強が嫌いな子ども、努力しても成績が上がらない子供へのサポートは極めて希薄です。結果的に落ちこぼれは多いわけです。

 フランスの合理的考えによれば飛び級と落第生度が長年導入されているので、学習到達度はそれで調整できるという理屈ですが、移民家庭はそもそも親がフランス語もできず、十分な教育を受けていないために、子供の勉強をサポートできない状況にあり、落第を繰り返すうちに義務教育もドロップアウトし、イスラム過激派のテロリスト予備軍になるケースもあるのが実情です。

 15歳時点での学力を調べるPISAの平均スコアが世界トップクラスの日本に比べ、習熟度レベル別の生徒分布を見ても、レベル7のうちレベル2以下に42%の生徒が分布するフランスは、日本の27%とは比較になりません。これは移民を抱える多くの先進国で同じ状況にあります。

 1980年代、首相だった中曽根氏が「アメリカは黒人などがいて教育水準が低い」といって世界から批判されたことがあります。多民族国家の価値観を持つ欧米諸国は日本や韓国、台湾のような国家の学力を競う国々とは、まったく異なった事情にあります。

 ただ、日本で経済格差が教育格差につながっていないかというと、世帯年収と小学校6年生時点での国語と算数の正答率は、ほぼ正比例しているのが現状です。そこには貧困家庭の親の育児放棄を含む、教育意識の低さや教員のサポート不足も指摘されています。

 マクロン氏は教員への定期的な研修の強化、落ちこぼれをなくすためのサポート強化を打ち出しました。マクロン政権は来年3月に任期を迎えます。モンテーニュ研究所は2021年8月に、教育分野におけるマクロンの5年間の任期について、かなり前向きな報告を発表しました。

 政権で講じられた「一般的なレベルを上げ続ける」ことと「数学の回復」を意図したブランケール教育相の狙いは、コロナ危機の際にも「学習の継続性確保」、学校では「機会均等を確保するために、少人数制の恩恵が与えられた」ことを評価しています。課題はインクルーシブ教育の実現としています。

 2019年秋の調査では、教育困難者の割合は2015年に比べ減少し、コロナ禍で停滞したものの、回復に転じていると指摘されています。無論は教育改革の効果を見るには5年、10年単位で精査する必要がありますが、特に教員の研修プログラムは当初、組合の抵抗に遭いましたが、受け入れられるようになっています。

 日本人が知らない欧州の教育認識の一つは、階級社会の過去を持つ影響から階層別の能力の固定化があることです。その認識を変え、子供の個性や可能性を信じる教員と親のマインドセットは始まったばかりで、次期政権に教育改革がどう受け継がれていくかは注目すべきところです。

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