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 会社は通常、経営理念や行動方針を標榜し、政党は政治理念に政治家が集まって形成されます。ところがコロナ禍で理念が通用しない現実に直面するケースが増え、葛藤が続いています。日本はその点では理念より現実優先の実用主義の国なので、コロナ禍にしなやかに対応できているのかもしれません。

 たとえば、アメリカのバイデン政権は、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)の指摘によると、バイデン米大統領と与党民主党は、国内経済や政府と国民の社会契約について、広範な革命的変化に意欲を示す一方、コロナ禍による経済ショックからの回復で国民から支援の必要性を迫られ、大きく揺れているとしています。

 党内対立は、バイデン氏と民主党がめざす「ビルド・バック・ベター(より良き再建)」計画法案について表面化しました。同計画は、社会保障と気候変動対策の強化を目指すバイデン政権の肝の部分ですが、ニューディール政策以来最大の社会変革とまでいわれ、急進派のサンダース議員などが主導する反大企業、反資本家の社会主義的理念に支えられたものです。

 ところが、莫大な予算を必要とする同計画は、下院でもめにもめています。共和党は当然反対ですが、民主党内にも今、国民が望んでいるのはコロナ禍で傷んだ生活を再建するための支援だという意見が勢いを増していることです。インフレ懸念も逆風になっているとWSJは指摘しています。

 理念で動く傾向が極めて強い民主党ですが、彼らの打ち出すバラマキともいえる政策は財源の根拠にも欠け、たとえ下院を大幅な妥協で通過しても上院でどうなるのか「見通しは立っていない」とWSJはいいます。このまま理念にこだわれば、1年後の中間選挙で民主党は大敗する可能性も指摘されています。

 ドイツでも次期中道左派連立政権を形成する社民党や緑の党がワクチン接種、マスク着用義務など厳しいコロナ対策に反対する中、1日5万人を超える新規コロナ感染者を記録し、感染予防対策の緩和の主張はあえなく取り下げました。米民主党以上に政治理念にこだわるドイツの左派政党もコロナの前にあえなく政策転換です。

 一方、企業理念は日本の精神文化によるところが大きく、アメリカでは逆に明文化されていないケースが目立ちます。それは企業メッセージという形を取ることが多く、米経済誌「フォーチュン」の2021年『世界から最も称賛される企業』ランキング1位のアップルは「Appleの主な目的は、人々の日常生活を豊かにする製品を作ること」が企業メッセージです。

 アップルはこのランキングで5年連続1位ですが、日本企業は100位までにトヨタ(31位)、ANA(68位)、ブリジストン(95位)の3社だけです。彼らの企業理念に共通するのは企業として、企業の一員としてのあり方、世界的な視野、地域の中での役割、企業として何を提供するかです。

 立派な企業理念がビジネスを成功させるとはいえませんが、企業活動の基礎になるものであるのは確かです。いわば企業の背骨です。理念や行動方針に反することは行うべきでないということになります。日本の大企業数社で発覚した会計改竄や、検査ミス不履行も企業の行動方針に反することです。

 コロナ禍は政治にも企業活動にも厳しいストレステストを強いているように見えます。その中には理念や行動方針そのものを見直する謙虚さも含まれています。そこには人間の力ではどうすることもできない事態への対処も含まれています。

 注目される様々な最先端のテクノロジーがコロナ禍を完全に抑え込んだという話は聞きません。科学万能主義の限界なのか、人がコロナ禍を想定していなかったことの結果なのか、はたまた心の問題なのか、興味深いのは世界のメジャーな宗教でさえ、コロナ禍へのメッセージがないことです。

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