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 アメリカにトランプ政権が誕生したことで米中貿易戦争が加速し、コロナ禍でサプライチェーンが寸断され、国際輸送費が高騰する中、安全保障の観点からも製造業の国内回帰現象はますます重要さを増しています。フランスでもサルコジ政権の2007年以降、maid in France回帰は経済の重要テーマです。

 来春に大統領選を控えたフランスでは、各候補者の公約に仏企業の生産拠点のフランス回帰は欠かせないテーマで、特に雇用創出という点でこのことを口にしない候補者はいません。

 スキーシューズや質の高いスニーカーで知られるフランスのSALOMON社は、リヨン南方約40キロの人口1,200の村アルドワに超近代的な最新鋭のスニーカー製造工場を1年前に建設し、現在、たった10人の従業員だけで1日に450足のスニーカー製造を行っています。仏公共TVフランス2も2度も取材し紹介しています。

 同社によれば、現地生産実現に向け、模索を続けている中、地元の繊維製造会社Chamatexの提案もあり、パートナーシップを実現し、両社がルーツを持つアヌシーと同じオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏にあるアルドワに新製造工場Advanced Shoe Factory 4.0(ASF 4.0)の建設にこぎ着けたといいます。

 ASF 4.0は、AI制御されたロボットによる完全自動化製造システムを完備したスマートファクトリーで、設計、製品化、運用のノウハウはパートナーのChamatex社がもたらしたとしています。もともとリヨン周辺は絹織物産業の集積地で19世紀から技術開発の先頭を走ってきた歴史があり、そのイノベーション気質が靴製造工場にも生かされたといえます。

 同社のフットウェア担当バイスプレジデントのギヨーム・メイザンク氏は 「ChamatexがASF4.0プロジェクトで提携するというアイデアを提示された時、私たちはそれを、私たちの生産の一部をフランスの本拠地に近づけ、靴作りのスキルをフランスに移転する絶好のチャンスと考えた」と述べ、「製品の開発サイクルの短縮だけでなく、輸送の温暖化ガス排出量削減にも期待しました」と言っています。

 1980年代に操業した繊維メーカー、Chamatexは、両社の歴史的なコラボレーションとそれによって得られる技術的ノウハウから提携を提案したといいます。現在、 ASF 4.0工場で製造されたSalomonシューズの多くは、2020年春夏シーズンにデビューしたCross / Proトレイルランニングシューズ用にで、材料にChamatex製素材が使用されています。

 Cross / Proは足の形や足のホールドを好みに合わせて調整できるマルチフィットテクノロジーを備えた4ウェイソックスのような機能を備えており、足の固定に定評があるといいます。ロボット工学を使用してSalomonのアヌシーデザインセンター内でパーソナライズされたランニングシューズを製造することも可能にしているといいます。

 3つのブランドのシューズ製造を担うこの比較的小規模なこの企業は取引先が増え続けているといいます。強みの一つはMade in Franceです。それもリヨンの最先端の高いテキスタイル技術と融合していることも強みです。Salomonシューズはヨーロッパ全体に供給されています。

 同工場の目標は、2025年までに年間50万足のシューズを生産することで、これらの靴の50%はSalomonブランドになるとし、 残りの半分は、他のいくつかのChamatexフットウェアパートナーのために作られるとしています。 

 さらに2025年までに二酸化炭素排出量を30%削減し、2050年までのカーボンニュートラルをめざすことを主眼に置いていると同社担当者は述べています。

 ただ、フランス及び欧州メーカーの靴製造拠点が中国に移動して長い年月が経ったために、ソールの製造技術がヨーロッパに存在せず、結果的にソールの供給はアジアに依存している問題があることを同社は認めています。そのソールの製造をフランスに取り戻すことへの意欲も同社は持っているといいます。

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