bio

 フランス政府は環境対策で、さまざまな政策を打ち出し、努力してきました。フランスの強みはなんといっても世界一原子力発電の比率が高いことです。どんなに省エネ技術が発展しても化石燃料を燃やして電源を確保する以上、地球温暖化を抑制することはできないからです。

 しかし、電気自動車(EV)普及率は欧州連合(EU)の中では劣等生に属し、最新の調査でも約12%でそれも役所など公的機関の使用率が高く、公道でEV車を見かけるのは稀です。EV先進国のノルウェーは、なんと普及率77.5%と驚くべき数字です。

 実はフランスで2018年に黄色いベスト運動が起きた発端は、炭素税引き上げによるガソリン価格の高騰への反発でした。CO2排出量の多いディーゼル車を市場から締め出すために高い税でディーゼル燃料価格がガソリン価格に迫り、家計を圧迫し、その反発が反政府運動に繋がりました。

 フランスでは都市部を除き、移動に車は不可欠です。それも長距離移動も日常的で燃費は極めて重要です。そのためディーゼル車が普及し、燃料費への関心は極めて高いのが現状です。そのため、環境対策に熱心だったオランド前政権から受け継いだカーボンプライシング政策を進めただけなのに、大変な抵抗に遭い、今秋も黄色いベスト運動が再燃することに政府は戦々恐々としています。

 つまり、地球温暖化対策より生活が優先というのがフランス人の考え方です。最近、フランスの親せきの夫婦が車を買い替えましたが、ガソリン車だったので「なぜ、EVか、せめてハイブリット車を買わないのか」というと、「価格が高いし、本当ならディーゼル車を買いたいぐらいだ」という答えが返ってきました。

 彼らは黄色いベスト運動活動家でもなく、経済的に困っているわけでもありませんが、フランス人特有の慎重さが表れています。その彼らは「自分たちはなるべく地元でとれた野菜や果物を食べるようにしているので、環境問題に貢献している」と自慢げです。

 実は彼らも他のフランス人同様、オーガニック愛好家で、有機食材の消費は全体の半分を超えています。フランス公益団体・有機農業開発促進機関、Agence BIOの今年3月に公表された調査報告によると、フランスの有機食品の市場規模は2020年、132億ユーロ(約1兆7160億円)で消費者の57%が以前より有機食品を購入したと答え、58%が地元の農産物を積極的に購入したと答えています。

 コロナ禍で広がった健康不安の中で消費者は自分の口に入れる食品に敏感になっていると同機関は分析しています。消費規模は前年比でも10.4%上昇し、5年連続で増えており、人口が約2倍の日本の有機食品消費の6倍以上に達しています。

 同時に地産地消の消費も進んでおり、輸送で排出される温暖化ガスを抑制する効果も生んでいます。安全で新鮮な食材購入と温暖化対策が結びつくなら、喜んで取り組むという構えです。有機食材はまだまだ3割ほど価格が高いのですが、自分の健康のためならお金を使ってもいいというわけです。

 Agence BIOによれば、フランス人の71%が自分と家族の健康、そして地球環境への配慮のため、月に1回以上Bio農産物を購入していると回答しています。また、購入層は若者の間にも拡がり、20年前とは違い、様々な年齢層、人種の人々が購入しており、ワイン市場に至っては、Bioワインは最も成長している分野とされています。

 どこの国でもいえることかもしれませんが、環境対策といっても自分と家族に犠牲を強いるような環境政策は実施が難しいのが現状です。しかし、温暖化によるダメージは予想を超えており、最後は市民のモラルの問題になるわけで、良識が問われているのも事実です。

ブログ内関連記事
誰が気候変動対策に巨費を投じるのか 古い経済モデルが通用しなくなった現実
サステナブル投資の期待度と現実 環境よし、社会よし、ガヴァナンスよしのトータルな企業戦略
EUのカーボンニュートラルの賭け 人は本当によりきれいな空気のために金を払のか
収束しないジレ・ジューヌ運動 国民に手紙を書いたマクロン仏大統領のビジネス的政治手法の失敗