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 この数十年間、何度も強調されながら、日本には生産性向上の意識がなかなか定着していません。少子高齢化に伴い、働く主力となる生産年齢人口が減っていく中で、慢性的な人手不足、働き方改革、最低賃金の上昇、更には原料物質の高騰・デフレ傾向などで、利益率の向上に苦戦する日本企業は増える一方です。

 その意味でも生産性を高めることは自明の結論であるにも関わらず、その具体策を見いだせていない企業は少なくないのが現状です。OECDの調査でも 日本の時間当たりの労働生産性はOECD 加盟 37 カ国中 21 位、 日本の 1 人当たり労働生産性は 26 位と成長しているとはいえ、極めて低いのが現実です。

 世界的に見て先進国の中でも長時間労働や過重労働に対する抵抗感が最も少ない日本では、生産性よりも最後まで責任を持って仕事をやり抜くことが重視されてきた歴史が長いので、私の調査でも、長時間労働を問題視するサラリーマンは少ないのが現状です。

 たとえば私が最近実施した調査で「日本人は長時間労働で知られ、過労死まで起きているが、海外でその理由を聞かれたらどう答えるか」という質問に対して、一部上場企業の社員でさえ、最も多かったのは「日本人は仕事を最後までやり抜く精神が強いので結果的に長時間労働になる」という答えでした。

 さらに管理職クラスに対する調査で「あなたの部下が同じ仕事の結果を出すのに時間の長短を問題視しているか」という質問については「効率性や生産性向上の重要性は理解できるが、時間の長短で社員を評価はしていない」という答えが多かったのも事実です。

 時代の趨勢としてはデジタル化が進む中、少数精鋭で高いパフォーマンスを出すことに優先順位があるはずですが、生産性の低い社員を抱え込んで改革もできていない企業は少なくないのが現状です。

 政治は有権者に耳障りのいい政策を打ち出すのが常ですが、今回の日本の衆院選でも「分配」という受けのいい政策を各党が打ち出しています。これに対して財布のひもを締めるのが仕事の財務省の事務方トップの矢野事務次官が総合雑誌で異例の警告を発しています。

 しかし、世界一国民の理解度が高いといわれる日本で、世界一の借金をさらに増やすことを懸念する国民も少なくないことが予想されます。政治家が選挙で生産性向上に言及しないのは、少数精鋭で人員削減のリスクがあるからでしょう。スキルの低い人の失業に繋がるようなことには触らないのが賢明というところです。

 岸田新政権は欧米のメディアでは中道左派といわれています。つまり、どちらかというと大企業より中小企業、弱者に重点的に分配する左派に近い考えを持っており、景気回復なくして財政再建なしのアベノミクスとの多少の違いを打ち出すことに重きを置いているように見られています。

 新政権への株価のご祝儀相場がなかったのも、その影響と見られています。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は「岸田ショック療法、日本経済には必要なし」の記事の中で、格差を気にする岸田政権に対して市場は警戒感を表していると指摘しました。

 「外国人株主の比率も2012年の26.3%から拡大し、今年は30.2%に達している。これは、コーポレートガバナンス(企業統治)改善の兆しと、投資家に優しい規制環境が後押しした結果だ」として、アベノミクス効果をWSJは高く評価しています。無論、賃金上昇が鈍いことは認めており、岸田政権への期待もにじませています。

 興味深いWSJの指摘は「格差の拡大に目を向けることは重要だが、高齢化が進み、何十年にもわたって成長が鈍化している日本では、成長と生産性の向上に重点を置くべきだ」「競争とガバナンスを強化し、より生産性の高い投資を奨励する政策は、企業に賃金引き上げを強要したり、先進7カ国(G7)の基準では既に富の分配が比較的平たんになっている国で直接的に再分配しようとしたりするよりも、おそらく労働者を助ける効果が高いだろう」との見解です。

 米保守のWSJらしい指摘ともいえますが、私は賛成です。選挙の時だけ弱者に寄り添う姿勢を見せるのは偽善です。たとえば昨年、コロナ禍支援策で、当初は生活困窮者に30万円支給という政策が批判され、一律1人10万円を給付しました。ところがそのお金を高い割合で預金に回していたことが明らかになりました。

 弱者に寄り添うのは容易なことではないことを物語っています。まずは競争力を増すためにために、ガバナンスを強化し、生産性を向上させることに政府も注力すべきですが、それでは格差を心配する人々が納得しないという訳です。

 どんな家族でも稼ぎ頭がいなければ成り立ちません。豊かな生活を実現するには効率よく稼ぐ必要があります。稼げる人間が稼ぎ皆が恩恵にあずかるのが家族です。それに短時間で高収入がいいに決まっています。得た収入から税金を払い、その税金が弱者に回される仕組みだけでなく、善意を持つ富裕層が直接、弱者を支援する精神も育てる必要があるでしょう。

 イエス・キリストは、朝一番から働きに来た者と夕方から働いた者に同じ報酬を主人が与えるたとえ話をしています。これを共産主義の再分配理論に転化した人もいますが、仕事で楽をしたか苦労したかではなく、働いてくれた人に対する主人の感謝の気持ちに注目したたとえ話でした。

 本来、好循環は人間の善意に支えられて初めて機能するものだと私は考えています。スキルが高く恵まれた人が稼いだ金を循環させるには、困った人を助け、共に喜びを分かち合いたいという善意が必要です。政府が無理やり強要する話ではないはずです。

 コロナ禍からの経済復興は、スキルの高い元気な人たちに活躍してもらうしかありません。同時に彼らに善意を促す仕組みを作ることでしょう。

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