Dieppe_(France,_Normandy)

 フランスのローマ・カトリック教会における性的虐待に関する委員会の報告書が10月5日に公表されて以来、フランスは暗い日々を過ごしています。

 1950年代から現在までに聖職者による小児性愛の犠牲者になった数は推定21万6,000人に上るという衝撃的な事実が明らかになり、調査委員長を務めたジャン=マルク・ソーヴェ氏はカトリック教会の「残酷な無関心」と非難しました。

 私の周辺では、フランスで最もカトリック信仰の強いブルターニュ地方出身の妻が「フランス人なら想像できる数字だ」と驚きもなく、受け止めています。「欧州を代表するカトリック国だったフランスでの醜態は、教会の信頼を地に貶めた」というフランス人も少なくありません。

 通称ソーヴェ・レポートと呼ばれる調査報告によると、1950年から2020年にかけて、子供の時に聖職者によって性的虐待を受けた現在18歳以上の犠牲者数は推定21万6,000人に上るとしています。さらにカトリック教会が運営する学校のカトリック信徒の教師、青年教育指導者などによる犠牲者を含めれば、被害者は33万人にのぼると指摘しました。

 委員会は、カトリック教会の責任を認め、教会の刷新及び司法が動き出すことが予想されます。泣き寝入りを続けてきた被害者が、調査委員会の地道な調査で真実を語り始め、司法の記録を丹念に調べ上げることで事態の深刻さが明らかになったとしています。

 ソーヴェ委員長は、何よりも長年の隠ぺいを招いた教会内の階級的体質を非難し「施設が機能不全に陥っている」と指摘しました。委員会は、これまでに合計11万5,000人の司祭や他の聖職者のうち2,900人から3,200人の虐待者の証拠を掴んだとしています。

 同委員会は、同国及び他の国での度重なる聖職者による性的児童虐待の虐待スキャンダルを受け、2018年にフランスのカトリック教会から調査を依頼されて発足し、教会、裁判所、警察の犯罪記録と被害者への聞き取り調査に基づいています。

 私の妻は「フランス人なら、これは氷山の一角にすぎず、口を閉ざしている聖職者やエコールリーブル(カトリック教会が運営する私立学校)の教師や職員は、まだまだいるはずと思っている」といっています。

 仏メディアは古い事例の場合は、起訴するには時効になっているものが多く、裁くのは困難だろうと指摘しています。一方、この報告を受け、フランスのカトリック教会や総本山のバチカンがどう動くかが注目されます。

 フランスの教会幹部は「被害者への賠償は天文学的数字になることが予想される」といっています。その場合、ただでさえ信徒が激減し、町の教会の建物や美術品を切り売りしているのが、もっと本格的に売却するしかなくなる可能性は高いといえます。バチカンの支援も必要でしょう。

 さらにローマ・カトリックが突き付けられている問題は、妻帯を禁止された男性のみが聖職者になる慣習そのものです。修道院制度も限界かもしれません。すでに神父の隔し妻が正妻として認める運動を起こしている国もあるほどです。

 女性の教会関係者が「神父も性欲は子供を産み、家族を営むためにあることに気付くべきだ」といったコメントが印象的でした。特に小児性愛や青年相手の性的虐待という倒錯は、私から見れば殺人としか思えません。映画「沈黙の行方」にあるように児童虐待、性的虐待が自殺や殺人に繋がることは明白です。

ブログ内関連記事
伝統保守の国次々リベラル化 LGBT、妊娠中絶や同性婚合法化に動く保守的国々のなぜ
保守・リベラル英仏の違い 革命か名誉かは未だに国家の生業に影響を与えている
ロンドンの評価の高いカトリックの学校が示す入学の条件が矛盾に満ちている
フランスから教会が消えていく



コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット