
フランスの複数のメディアは今月2日、19歳の青年がテロを計画していたとして9月27日に国内治安総局(DGSI)によって身柄を拘束され、1日にテロ準備罪で起訴されたと報じました。報道によると男は仏西部ルアーブル出身で、来年4月20日のアドルフ・ヒットラーの誕生日に大量殺戮の形でテロ攻撃を行う計画を立てていたそうです。
男が住んでいた住宅から押収されたノートの書き込みから、標的は男の通っていた高校と近くのモスクだったとしています。さらに1999年に米コロラド州コロンバイン高校で発生した銃乱射事件で教員や容疑者を含む計15人が死亡したテロに匹敵するテロを実行したいと考えていたことが明らかになりました。
捜査関係者によると、男はヒトラーを崇拝する人種差別主義者の「白人で民族主義的な戦闘員」だったとしています。さらに幼い頃からいじめに遭い、孤独な若者で現在は失業中で母親と継父と一緒に暮らしていたといいます。
逮捕後、男は「過激なイスラム主義と戦うのに国は十分なことをしていない」、「外国人の犯罪は増加する一方だ」と主張し、移民への嫌悪を露わにし、ネオナチに傾倒していることも確認されました。
一方、捜査当局は、学校で嫌がらせを受けていたことから男の友人となった18歳の女子高生の捜査から、男に行き着いたとしています。その女子高生は、男とは真逆のイスラム過激主義に傾倒し、昨年、復活祭の時に高校とカトリック教会を攻撃する計画を立てていたことが発覚し、昨年4月に逮捕、起訴されています。
この状況から分かるように、いじめや差別を受け、孤立して育った未成年者が、思春期に日頃の不安や怒りからネットなどを通じ、自分のルーツをもとに極左や極右、ネオナチ、イスラム過激思想に染まる例は多いということです。あるいは最初に不良グループのギャング団に入り、そのギャング団を利用する犯罪組織やネオナチ、イスラム過激派組織に繋がる例が明らかになっています。
彼らはネオナチもイスラム聖戦思想も意味が深く分かっているわけではなく、いじめや差別で自分に価値を見出せなくなった若者が使命感を持つことで、日頃自分を迫害足ていると思われる移民や白人、カトリック教会などを標的にテロを実行しようとしているのが実態です。
フランス内務省は、この30年間でフランスでテロが頻発している実態を分析した結果、不良化した若者で構成されるギャング団と犯罪組織、テロ組織が密接に連携していることを突き止めたとしています。
フランス北部リール郊外のルベには通称「ルベ・ギャング」と呼ばれるイスラム強盗団の事例にあるように、新盗賊と分類された彼らがテロ組織の資金源になり、テロ実行犯の供給源になっていると分析しています。
その歴史は1990年代半ばから「ギャング・テロリズム」と称され、強盗を通じて組織犯罪に関わるグループで特徴づけられ、在仏イスラム教徒の間では、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の戦闘に参加する在仏アラブ系移民の若者がいたことが挙げられます。
郊外で発生した新盗賊と組織犯罪、テロリズムの間の混成は、「ネオテロリズム」とも呼ばれています。この新型テロリズムは、同じ環境で育つ中、ある時点で狂信の道に切り替えることを選んだ若い男女の行動として表れています。
彼らは暴力のエスカレートによって、窃盗などの軽犯罪のレベルを超え、重武装などで行動することで自らを高揚させ、社会における革命者としての存在価値を確信する行動として、テロ攻撃を計画し、実行していると見られます。その背景には、特に麻薬密売によって生み出される資金と権力闘争が影響を与えています。
30年前にフランスで生まれたこの現象は、長い間、大都市郊外の荒廃としてだけ扱われ、諜報機関や政府による真剣な全貌分析と取り締まりには繋がらなかったことを仏内務省は認めています。
1996年以降、内務省はテロ行為の加害者のセル(テロ組織細胞)についてのプロファイリングを行い、1996年に把握されたルーベ・ギャングのように、25年の間、ハーフ・ギャング、ハーフ・テロリストがさまざまな警察のファイル間を行き来する中、その全貌と真相分析ができていなかったといいます。
思春期にハーフ・ギャング、ハーフ・テロリストになる若者が多い背景には、マイノリティにしか分からないフランス社会の無関心、差別的な側面があります。フランス人でさえ、自由平等友愛精神を守るのに苦労しているのに、その努力をしないマイノリティーへのいら立ちが、社会を差別的にしています。
一方、ハーフ・ギャング、ハーフ・テロリストらは、テロ組織、犯罪組織、ギャングの密接な連携を隠ぺいすることも巧妙になっており、脅威とみなされ、危険人物として監視リストに挙げられていない人物がテロ実行犯になるケースが増えています。
そのため、大都市に暴力をもたらしている新盗賊であるギャングが組織犯罪に参加し、イスラム過激思想との繋がりを持つ現在の実態から、新盗賊や新テロとの戦いにおいて優先任務は監視強化にあると当局は結論付けています。
仏司法警察中央局の推定によれば「大都市で起きるギャングによる事件に登場する容疑者のほぼ40%が犯罪組織やテロ組織と関係を持つか、持っていたことが確認されている」としています。逆にいえばテロ容疑の逮捕者の大半が、過去に窃盗、麻薬密売、暴力事件の被告として有罪判決を受け、収監された経緯がある例が多いということです。
2019年に国家情報長官は「犯罪組織やテロ組織を背景とした犯罪は、特定の地理的地域のセキュリティ管理レベルを弱体化させ、逆にヨーロッパを含む地域でのテロリズムを促進し、彼らの見えにくいネットワークは、武器、虚偽の文書や資料、資金を提供または供給する手段として使われている」とし、監視とプロファイリングの分析強化を急ぐ考えを示しました。
今後、警察と諜報機関によって発せられたすべての警告が、意思決定者によって正確に把握され、国家の安全保障を脅かす可能性のある脅威に適切に対処できるようにしていくとしています。ただ、今でも1万人のイスラム過激派の監視リストがあり、監視は手一杯な状況なのでハイテクを駆使した監視体制、それも個人の人権に配慮しながら強化していく必要があります。
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