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 今、1日のうちにサステナブルという言葉を聞かない日はありません。それほど投資家のみならず、多くの人々が高い関心を寄せています。同時に投資家はESG(環境・社会・ガヴァナンス)で企業を見つめる度合いが高まり、世界の大きな流れになっています。

 しかし、この10年、その流れが本格化する中、投資家を始め、人々が企業価値をはかる尺度の変化に対して、ESGという新しい概念には世界共通の基準が存在しておらず、企業側がサステナブルな戦略を表明し、ESGを重視していると強調しても、それを推し量る尺度はまだまだ発展途上です。

 たとえば電機メーカーがサステナブルに貢献する製品に力を入れているとアピールしながら、その企業はガバナンスにおいて大きな問題を抱え、さらには品質管理で虚偽報告を繰り返し、不正経理まで行っている場合もあります。加えて投資家にとっては、耳障りのいいフレーズより、収益性、リターンが気になるところです。

 そこで問題になるのが、トータルな取り組みです。日本には近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしの商売哲学があります。「商売は、世の為、人の為の奉仕にして、利益はその当然の報酬なり」という近江商売十訓の第1項はESGでいう「社会貢献」に相当するものです。

 しかし、ESGは、はるかに経営の中身に踏み込んでいます。たとえば近江十訓の5項に「無理に売るな、客の好むものも売るな、客の為になるものを売れ」という訓示があります。では「客のためになる」とは何か、環境問題を考えた場合、プラスチックゴミを出さないことは環境破壊を防ぐことに繋がりますが、その場合、ビニール袋の利便性より、マイバッグの手間を客に課すことになります。

 企業は商売のために犯してきた環境破壊や顧客に対する嘘などの悪習を改めながら、収益も伸ばしていくことは容易ではありません。たとえばアパレルのグローバル企業ユニクロは、中国で強制労働が疑われる新疆綿を使っているとしてアメリカで輸入がブロックされましたが、安価で品質とセンスの良さで消費者に受け入れられているユニクロにとって中国市場は重要です。

 仮にユニクロが製造拠点や綿の供給元を中国から変更し、中国人消費者にも悪い影響を及ぼせば、世界で最も収益率の高い中国市場を失ってしまいます。

 近江の商人哲学が言及していないガヴァナンス問題に至っては、たとえばパワハラは長時間労働の強制、下請け業者への不当な圧力など、ブラック企業は大企業ほど多いといわれています。この改善も容易なことではありません。

 米経済紙などの指摘によれば、米国でサステナブル投資は、2019年末時点で何らかのサステナブル投資戦略を用いて、あるいはESG問題で株主決議を求める機関によって運用されていたのは、米国のプロが運用する全資産のおよそ3分の1に相当し、2年前に比べて42%増加したと指摘しています。

 多くの投資家が投資を通じて環境問題や社会に貢献できると考えるようになったことは歓迎すべきことです。しかし、企業にとっては収益性に繋がるかどうかは存続に関わる問題です。このサステナブル投資を呼び込む大きな時代の変化の中で知恵を絞り、トータルなリセットできるかどうかがポストコロナの重要課題であることは疑う余地がありません。

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