フランスのマクロン大統領は12日、感染力の強い新型コロナウイルス変異株「デルタ株」の感染者増加による第4波に備える対策をテレビ演説という形で明らかにしました。方針の大筋は現在解除が進む行動規制の再導入よりも、ワクチン接種の徹底とワクチン接種証明書の活用を徹底することでした。
ワクチン接種については医療従事者及び、高齢者などの介護施設で働く関係者に対してワクチン接種を義務化し、9月15日までに2度の接種を終了する方針を明らかにし、義務化に伴い、従わない場合の罰則などが今後検討されるそうです。
ワクチン接種義務化は、アメリカ陸軍当局が最近、9月1日からコロナ感染症のワクチン接種を義務化することを決定し、空軍や海軍それに退役軍人省などにおいてもワクチン接種義務化へ向けての検討が開始されています。その一方で義務化されていそうな中国は義務化されていません。無論、社会主義国特有の政府と国民の暗雲の呼吸はあるとは思いますが。
フランスでは医療や介護従事者の中にワクチン接種を拒むケースが少なくなく、まずは説得を試みながらも従わない場合の休職処分、罰金、解雇などが検討されるとしています。
マクロン大統領は演説の中で、「一般国民のワクチン接種の義務化も検討したが、現時点では国民を信じ、義務化しないが、感染拡大で医療がひっ迫すれば検討する」と述べ、国民の接種義務化の可能性にも言及しました。
今回の発表で、夏の長期バカンスに突入しているフランスでは、数か月前から規制が段階的に緩和されてきた状況にいったんストップがかかることのように見えますが、マクロン氏は「事態は制御されているが、今行動しなければ、感染者は大幅に増え、入院件数が増えることにつながる」と警鐘を鳴らしました。
ワクチン義務化についてのカスタネ―ル仏首相の発言は、政府の基本的考えを示しています。彼は「多くの人々のために努力する人々が、努力を拒否する人々の犠牲者にならないようにする必要がある」「国民から自由を奪っているわけではない」と述べました。
今回のワクチン義務化の方針について、右派の国民連合のマリーヌ・ルペン党首などが「国民から自由を取り上げ、国家を死に追いやる」などの批判は起きていますが、想定内といえます。それより、あれほど個人の自由を主張するフランスで、左派、右派、中道問わず義務化を支持する声があることです。
たとえば、社会党のクシュネール元外相で保健相も務めたベルナール・クシュネル氏は国境なき医師団創設者の1人で、医療業界では著名人です。彼はワクチン義務化を支持しています。彼は今回、「予防接種は個人的な問題ではない」「それを拒否することは裏切りだ。法律が必要」「公衆衛生はそれを要求する」といいました。
ワクチン接種義務化の議論では、他の国会議員数人からも「予防接種ではすでに11の接種が義務化されている現状から当然だ」と指摘する声が聞かれます。さらに集中治療室の責任者の医師の一人は「介護士へのワクチン義務化だけでは不十分」と主張しています。
つまり、ワクチン義務化擁護者にとっては、国民の命を守るという意味で合理的な方法だという事です。それに対してウエストフランス紙は患者や高齢者に身近に接する感染リスクの高い看護師や介護士でワクチンを拒否している人々にインタビューしています。
彼らの理由の第1はワクチンの信頼性の欠如でワクチン開発の時間不足、データが不十分だとか、新型コロナウイルスの正体が判明していないのにワクチン義務化は無理があるという意見です。次は政府に対する不信感で抵抗の意味も込めて接種を拒否している例です。また、自由への侵害を主張する人もいます。さらに自分なりに徹底した予防策をとっているので十分という考えもあります。
無論、メディアには出てきませんが、介護士には移民系が多く、一般人でもアラブ系、黒人系の接種が進んでいないことが指摘されています。これも接種が進まない現状の一つでしょう。政府はそんな事情も踏まえ、強制力のある義務化を進めようとしているという事です。
ただ、高齢者施設では、世話をされている側が不安を訴えている場合は少なくありません。彼らこそ施設や介護士を選べない弱者です。フランスのことなので、抵抗する人は出てくるでしょう。接種を拒否し職場を離れる人も出てくる可能性もあります。
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