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 ユーロ2020決勝がイタリア代表vsイングランド代表が11日にウェンブリー・スタジアムで行われ、1-1で120分を終了。PK戦の末、3-2でイタリアが優勝しました。1以上の行動規制でため込んだストレスを発散したユーロ2020でしたが、イングランドは試合に敗北しただけでなく、市民の陰に隠れていた人種差別の本音が露呈し、後味の悪い1大スポーツイベントになってしまいました。

 3人のプレーヤー全員がPK戦でシュートを失敗し、外したアフリカ系英国人のマーカス・ラッシュフォード選手、カリブ・トリニダードトバコ出身のジェイドン・サンチョ選手、アフリカ出身のブカヨ・サカ選手に対して、SNS上で激しい人種差別的非難がおきたことで英警視庁が捜査を開始しました。

 当局は「容認できない」と表明し、ガレス・サウスゲート監督は「それは私たちが表すものではない」と述べました。さらに「私たちは人々を結びつけ、代表チームと関係を築くことができるという光の灯台であり、代表チームはすべての人々を代表し、一体感を維持する必要がある」と語ったことが報道されました。

 イングランドは1966年のワールドカップで優勝して以来、メジャートーナメントで初めて決勝戦に到達し、PK戦でイタリアに敗北しました。その悔しさは想像を絶していることは理解できます。そのような状況でPK戦を外した選手へのサポーターの怒りはよくある話です。

 しかし、人種差別による選手への攻撃は一線を越えたものでした。「このイングランドチームは、ソーシャルメディアで人種差別的に虐待されるのではなく、英雄として称賛されるに値する」とジョンソン首相は述べました。そのジョンソン氏はユーロ2020が始まった当初の言動では人種差別について真剣でなかったことも指摘されています。

 イングランドやドイツ代表チームはこれまで、フランスやオランダなど強豪チームが多人種の混合チームだったのに対して、白人主流でした。英国とドイツは白人の優越性を今でも強く信じている人が多いことで知られています。

 文明の優位性にこだわる欧米人の中でも彼らはキリスト教文明を生み出した白人が他の人種を圧倒していると信じ続けてきました。今回のことで思いだすのは2006年のワールドカップでのベルリンでの決勝戦で、フランス代表のジダン選手がイタリア代表のマテラッツィへの頭突きした出来事です。

 フランス代表は1998年のフランス大会の時でもアフリカ移民の選手が非常に多く、ジダンもマルセイユ生まれのアラブ系移民でした。事件はマテラッツィ選手が試合中、ジダンに再三彼の家族を馬鹿にする発言を繰り返したことに我慢できず、ジダンが彼に頭突きし退場になったことです。ストライカーを失ったフランス代表は敗北しました。

 ところがフランス国民はジダン選手に対して人種差別的非難をするより、その行動は立派だったと称え、逆に人種差別的な暴言を吐いたマテラッツィ選手を非難し、当時のシラク大統領もジダンを擁護しました。ただ、未だにマテラッツィ選手が何をいったかはっきりしていないともいわれています。

 今回はPKを失敗した3人に対して、黒人系だったことを非難の材料にした英国の1部国民のみっともなさの露呈で敗北感は余計に深まった形です。

 ここで問題になっているもう一つの問題はソーシャルメディアです。いまのところ、ソーシャルメディアは、サッカー選手の人種的虐待を取り締まる試みで、うまく機能していません。非難を行ったアカウントを閉鎖してもすでにネット上に流れてしまったからです。

 つまり、違法な虐待言動を取り除くための自動化されたシステムでは、迅速な削除は難しいという事です。事実フェイスブックは、今回のことですでに多くのアカウントを削除し、人種差別的言動を非難する一方、多くのサッカー関係者は政府に新たな法律を作ることを求めています。

 Instagramは「私たちのテクノロジーは完璧ではない」と認め、報告が多かったため、人間のモデレーションチームが決定をレビューできなかったことを明らかにしました。

 私が今回のことで想起したのは、私が東洋経済オンラインに投稿した記事の中で、メーガン妃が異文化適応で失敗したことを書きましたが、逆にいえばメーガン妃が遭遇した壁は想像を絶するものだったともいえます。

 白人が8割を占める英国でそれも白人やアングロサクソンの優越性を信じる人が未だにいる実態が露呈した形です。それも黒人選手の背景には白人が彼らを奴隷にしてひどい境遇を与えた経緯も無視できません。

 ただ、仮に日本代表チームに在日韓国人が混じっておいてPK戦で失敗しても、人種差別的虐待は絶対に起きないという保証は、日本にないのも事実だと思います.

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