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 バイデン米大統領の世界デビューは欧州行脚で幕が開き、G7、NATO、米ロ首脳会談で「米国は帰ってきた」をキャッチフレーズに米国の指導力復活を印象づけました。特に世界の主要民主主義国家は、バイデン氏が主導する異例ともいえる中国批判で結束し、世界覇権をめざす中国へ「ノー」を「つきつけました。

 特に主要7カ国(G7)と北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、中国の習近平国家主席が実行する国際ルールを無視した力による現状変更に対して、中国批判の共同声明を発表しました。NATO会議では大西洋憲章の第5条の集団的自衛権をバイデン氏は持ち出し、米国の欧州への再コミットメントだけでなく、中国の脅威が欧州にも関係があるとして、欧州のコミットメントを誘導しました。

 中国は当然ながら、強く反発し、中国外務省の趙立堅報道官は米国が主導したG7声明を「小規模グループ」による見当違いの見解だと批判しました。しかし、この批判は当たらずとも遠からずかもしれません。なぜなら米国と欧州が一体となれば百人力だった東西冷戦時代とは世界は大きく変わっているからです。

 2019年まで駐米EU大使を務めたオサリバン氏は、バイデン欧州外交について「オバマ政権以上に米国は欧州にコミットすることを表明した」と指摘していますが、この老練で東西冷戦時代からの外交通といわれるバイデン氏の世界観が正しいかは別問題です。

 大西洋同盟は18、19世紀からせいぜい20世紀前半に世界秩序の維持で機能していたもので、それも帝国主義による強引な支配は、まさに力による植民地争奪戦を繰り広げ、多くの傷を途上国に残した過去があります。大西洋同盟を持ち出して、パートナーシップを強調しても屈辱に苦しんだ途上国にインパクトがあるかは疑問です。

 それに今は地政学的結束より地域とは関係のないサイバー空間で中国やロシアの脅威は高まっています。欧州はバイデン氏のアプローチを大いに歓迎していますが、マクロン仏大統領はNATO首脳会議後の記者会見で中国の脅威について「侵略してこなければ、われわれとは関係がない」と述べ、旧態依然とした内向きの認識を露呈させました。

 それに世界の舞台は今、大西洋からインド太平洋に移り、米国には日本やオーストラリアとの関係の方がはるかに重要さを増しています。今回のバイデン氏の欧州歴訪は米国の裏庭の整備の旅だともいえ、国際社会による対中批判は、中国が習氏を表舞台に押し上げる共産党創設100周年の祝賀行事を2週間後に控えたタイミングでした。

 中国にとって最も気に入らないのは、そんな時期に中国の顔に泥を塗る行為と受け止めていることでしょう。何より面子を大切にする中国にとって、あと一歩で世界支配が可能となる時期に国際的評価を下げる共同声明が次々に出されたことは不快の極みでしょう。巨大市場を餌に外国からの投資で成長してきた中国にとって、投資が冷え込むことだけは避けたいところです。

 もう一つの視点は、アジア地域と大西洋地域の文化的違いです。G7は日本以外は西洋文明に属し、白人主体です。ところがアジア地域は多文化、多宗教でキリスト教のようなまとまりはありません。そこに世界の軸足が移っている中、異文化の西洋文明のプレゼンスは大きいとはいえないことです。

 それを象徴するのが「貧しい中国に投資し続け、豊かになれば、やがて共産党一党独裁体制はもたない」という考えが欧米には明確にあったことです。ところが結果はその文脈は通用せず、中国は民主化されることなく巨大化しました。これは異文化の読み誤りです。

 特にオバマ政権がけん引した多文化共存主義の考え方は、一挙に中国を太らせ、経済力、軍事力、技術力で世界を圧倒するようになりました。さらに民主主義国家が主張する世界のルールも中国には関係ないし、イスラムのインドネシアにはイスラム法が国家の法律以上に影響を与えています。

 米ウォールストリートジャーナルは、ブルッキングス研究所のライアン・ハス上級研究員が「G7やNATOによる対中批判だけで、中国における習氏の強力な地位が低下することはない」との指摘を紹介しています。さらにいずれ中国の世界における位置づけを再考する時が来るだろうとも言っています。

 果たして欧米諸国が結束しても中国の脅威に立ち向かえるかどうか怪しいものです。その意味で多国間主義が世界秩序と安定をもたらす鍵を握るというのは、リベラル派の幻想にしか過ぎないといわざるをえないといえそうです。

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