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  パリ・カルチェラタンに登場したPichiAvoデュオ作のストリートアート


 新型コロナウイルス対策で、緩めだがロックダウン中のパリでは、散歩の範囲は10キロ圏内、時間は無制限で町を歩き回ることはできますが、美術館などは閉館しています。これほど長くルーヴル美術館などが閉館するのは第2次世界大戦以来です。

 パリ・カルチェラタンの中心サンミッシェル通りに今年3月20日に姿を現したのは、巨大なフレスコ画風のストリートアート。テーマはギリシャ神話に登場する海のニンフ、ネレイド、海と地震を司る神、ポセイドン、勝利の女神、ビクトワールをカラフルに描いたものです。

 ストリートアートといっても、どこでも見かけるような原色スプレーで殴り書きされたものではなく、確かな古典技法と今風の色彩で描かれた力作です。反社会的意味合いのヤンキーたちが喜びそうなものともいえず、パリの街並みに活気を与えています。

 落書きアートは夜中に誰かが密かに描いたものがほとんどですが、昼間の現場での制作風景も公開され、コロナ禍でストレスをためるパリ市民にはいい刺激でした。ヨーロッパ人はこの手のイベントが大好きです。

 場所は、昨年6月に閉店したパリ・カルチェラタンの創業1938年の古本屋のブールニエ書店があったサンミッシェル大通り20番地の角。今は内部のリノベーションのためパネルで覆われた幅182メートル、高さ6メートルの壁面にPichi Avoデュオという2人組のアーティストが描いたものです。

 スペイン・バレンシア出身のピチアヴォは、古典的技法に習熟しながらも、都会の環境で現代的なセンスを融合させたユニークな作品で知られています。彼らはファインアートとデザインの訓練を受け、バレンシアのグラフィティ・アートシーンで出会い、2007年にデュオを結成したそうです。

 彼らは、グラフィティとクラシックアートを通して自分たち自身を表現する方向に向かい、スタジオの外と内の両方で、絵画、彫刻、インスタレーションに取り組み、幅広い多様な素材を用い、絵画的アプローチを取り入れながら制作を続けているアーティストです。古典的テーマが何度も登場しますが、あくまでストリートアートという形をとっています。

 2015年以来、彼らはニューヨークの伝説的なハウストン・バウリー・ウォール(2017年)を含む、国際的な都市芸術の主要な会場のいくつかでプロジェクトを実施しており、ヨーロッパ出身のアーティストによる最初の本格的な米国進出ともいわれました。

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  スペイン・バレンシアの火祭りに登場した巨大彫刻は最終日に燃やされた

 2019年にはバレンシアの火祭りのために高さ26メートルの記念碑的な彫刻を制作し、カルメン公共文化センターで展示会を開催した後、中央広場に設置され、ちっと印象派微妙でしたが、祭りの最後に作品は燃やされました。

 さらに同年4月には著名なポルトガルのストリートアーティスト、Vhilsと共同で、同国ポルト市に世界で2番目に大きな壁画を制作しています。

 今回の制作を終えた後のインタビューで「私たちは古典芸術が大好きで、好きなように物事を組み合わせることも、落書きも大好きです。私たちにとって、2つの混合物は常に良いカクテルを提供する」と述べています。

 芸術的な認知や批評家の評価、国際的な人気も獲得しており、都市空間を豊かにするストリートアーティストとして高い評価を受けています。2週間のライブ制作の期間、新型コロナウイルスの封鎖措置でストレスを溜めるパリ市民には楽しみの一つとなりました。

 「私たちは観客ともつながり、彼らは最初に落書きに困惑し、次第に古典的な要素を追加することで安心したようだ」とピチアヴォの2人が話しているのを聞くと、アメリカより一般のフランス人は保守的と言えそうですが、一方でフランス人は芸術的クオリティにはうるさいともいえます。

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  リヨンの有名はだまし絵で覆われた建物

 フランスには全国各地に紹介すれば1冊の本ができるほど、建物の壁面のだまし絵やストリートアートが日常生活に溶け込んでいます。私が長く住んだブルターニュのレンヌでも、たとえ物の壁に窓から人が顔を出しているだまし絵が不通にありました。

 グラフィックデザイナーの故福田繁雄さんは、生前、アトリエにお邪魔した時、「ヨーロッパでは、芸術的な遊び心が定着している。町のあちこちにだまし絵があって楽しい」といっていた話を思い出します。

 それにペンクラブでお会いした作家の故安部公房さんの傑作「壁」では壁に囲まれ絶望した状況の中で壁に絵を描く衝撃的な展開がありますが、壁はコロナ禍で現実化しています。芸術は遊び心と活力を与えていると言えそうでその存在は健在です。

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