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 英国民の3人に1人は新型コロナウイルスのワクチン接種を少なくとも1回は受けていることが明らかになりました。ロンドンに住む友人は家族全員が2回目の接種を待っている段階です。それに比べてフランスでは周囲に接種を受けた人は誰もいません。

 Our World in Dataによれば、今月27日時点で少なくとも1回のワクチン接種を受けた人の人口に占める割合は、英国が29.6%でイスラエルに次ぐ世界2位なのに対して、EU加盟国で最も高いデンマークで7.2%、ドイツ4.9%、フランス4.4%と圧倒的に低く、英国に大きく溝を開けられています。

 ワクチン接種が進んでいることは英国民の心理に大きく影響しており、ロックダウン(都市封鎖)の段階的緩和が発表されたことも後押しして、旅行会社には夏のヴァカンス旅行やフライト予約が殺到し、海外旅行の需要も急増しており、旅行熱が高まっていることが報じられています。

 英国政府は3月初めから規制を段階的に緩和し、6月にも全規制を解除する計画を発表しており、格安航空会社イージージェットは、英国発航空便の予約が1週間前比で337%、パック旅行は同630%増えたとしています。

 対するEUでは、ドイツがフランスのモゼル県からの入国に制限を設け、ドイツ側に通勤している約2万人のフランス人に影響が出ている状態です。観光が基幹産業のギリシャやオーストリアは、ワクチン接種の免疫パスポートの導入をEUに求めていますが、仏独はワクチン効果が科学的に証明されていないと慎重です。

 一方、2020年の英国の平均住宅価格が約6年ぶりの高騰を記録したことが今月17日の政府発表で明らかになりました。欧州連合(EU)離脱や新型コロナウイルスといったマイナス要因にもかかわらず、内外の需要は堅調だったといいます。

 2020年12月の英住宅価格指数(15年1月=100)は131.9を記録し、前年同月比でも8.5%増で2014年10月以来の高い伸び率を示したといいます。英国はブレグジットの先行き不透明感で不動産価格は低迷し、買い控えも増えていました。 

 EU離脱移行期間の昨年は離脱が明確になったことで不透明感は消え、コロナ禍で都市部から地方に移動する人たちが増えたことも住宅価格を押し上げた要因の一つと見られています。

 もともと英国の不動産価格は国外からの投機目的に左右されており、英国経済が上向くとの予想のもとに住宅を求める「内外の買い手からの需要が供給を上回った結果、価格は必然的に上昇した」とフィナンシャルタイムスは指摘しています。

 投資家の間では、コロナ禍で世界中と比較しても感染者数や死者数が多かった英国の経済立ち直りは米国同様確実との見方があることを示しています。EUを離脱し、身軽になった英国に対する投資家のポジティブな見方が住宅価格にも表れている形です。

 EUのワクチン接種の遅れの原因は、EU域内にはベルギーなど数か国に米ファイザー・ビオンテック製やアストラゼネカ製ワクチンの生産拠点があり、EUや日本を含め世界で急増するワクチン需要に生産が追い付かず、体制整備や流通ネットワークの調整に手間取っていることが挙げられます。

 しかし、そもそも英国が11月にファイザー製ワクチンを承認したのに対してでEUは承認が3週間遅れ、アストラゼネカ製ワクチンに至っては、英国が12月30日に承認、EUは1月30日と一か月遅れでした。EUは日本に似た官僚体制で手続きが煩雑な上、何に対しても慎重です。

 その慎重さは、リスクマネジメントの観点からいうと、変化するリスクに迅速に対応するという意味で柔軟性やスピード感がなく、致命傷を負うこともあり得ます。不確実なリスクへの対応力の高い英米はワクチン開発も承認も事態の深刻さを受け迅速で、EUは遅れを取ってしまいました。

 これは国民性ともいえるものですが、変化への迅速な対応のできる実用主義の英米のワクチン接種はEUを圧倒しています。それに何よりEUの官僚体質、意思決定の遅さ、権威主義を嫌ってEUを離脱した英国は、今回のコロナ危機からの回復で、まるで英国はEU離脱が正解だったといわんばかりで、ジョンソン首相もほくそ笑んでいることでしょう。

 無論、未だ正体不明で変異種が続々と出現するコロナ禍の行方は分からないものが多すぎて、楽観視はできません。英国の立ち直りも一時的かもしれませんが、EUが対応に手間取っていることだけは確かです。EUの迷走はEU産ワクチン供給をめざす日本にとっても無視できない問題です。

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