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 これまで世界の最前線で働くビジネスマンに接してきた経験からいえば、私は彼らほどの商才はないと告白せざるを得ません。グローバルビジネスに対して、人材育成、経営判断、マネジメントでアドバイスはできても、実際のビジネスで巨万の富を築いた人間のような商才はありません。

 数百億円規模のプロジェクトを抱えて、そのスタートに必要な初期資金を得るため、最前線で動いたことがあります。普通は後方支援ですが、その時は自分の双肩に重い責任がのしかかりました。なぜなら、そのプロジェクトが十分に練られたもので、高い収益性も確保できることを説明し、投資家たちを説得できなければ、プロジェクトが始まらない状況だったからです。

 そのために会った欧米や中東の投資家は100人近く、その仕事のおかげでジェットセット(自家用ジェット所有者)たちとも会合を重ねました。

 プロジェクトそのものは、投資家たちが条件とした内容を日本の事業者側に国際性がなく、満たすことができず、欧米の投資家が関心を持ってくれたにも関わらず、頓挫しました。しかし、経験そのものは私にとっては有益でした。

 その時思ったことは、世界一流の投資家たちの事業を読み込む凄まじい集中力でした。彼らは非常に多くの引き出しを持っていて、あらゆる可能性を短時間で考え抜く力を持っていて、舌を巻くことは多くありました。

 そのプロジェクトでは、プロジェクトの実現の可能性を事前に調査・検討するフィジビリティスタディにも当然ながら数千万円を費やし、手元には国際常識として十分な資料が準備されていました。

 実際、投資家たちからは高い評価を受け、関心を示してもらえました。私がグローバル人材育成に携わる上で貴重な経験でした。交渉には 対人能力はもとより、聴く力、論理性、客観性持って話せる力、 多様なものの見方や価値観を受け入れ、 説得でなく、相手の立場や利益に集中する必要があります。

 投資家はハイリスク・ハイリターンの原理は熟知しています。同時にハイリターンの投資先にしか興味はありません。判断に必要な様々なことを考え抜く力の凄さに感心するとともに、自分には彼らほどの才能はないと実感しました。

 多くのコンサルは知恵を貸すだけで、意思決定者にはなりえません。知恵を提供していくらの世界です。ところは数十億の投資をする人間たちは、常にそのことを考え、集中力や持続力が研ぎ澄まされていくわけですが、生まれつきの部分も大きいと思います。

 無論、彼らはまず、お金が好きです。その部分も私には縁遠いといえます。人の動かし方、進捗の管理、モチベーション、エンゲージメント、コミュニケーションスキル、対人力などには興味があっても、すべてお金のためというのは自分には馴染まない話です。

 金儲けのための特別な集中力、持続力はもろ刃の剣です。その才能は使い方を間違えればとんでもないことにもなるからです。きっと振り込め詐欺などの経済犯罪者も商才はあるでしょうが、間違った方向に使われているということです。

 手段が目的化し、案外、手にした大金の使い道がつまらないことも多いことを見てきました。欧米には貴族文化が残っているので、貴族趣味の金持ちは多いのですが、頭をかしげることも少なくありません。

 それにそんな商才もないのに株に投資し、約7,000万円失った日本人にパリで出会ったこともあります。その人がいうには、四六時中株価の変動をパソコン画面で見続ける生活が続き、大切な人生をギャンブルに費やしてしまったようなもので後悔だけが残ったそうです。

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