グローバル研修で日系企業で働く中国人や韓国人に遭遇することが増える中、彼らが日本人との協業に悩みを抱えている姿に遭遇することも増えました。今から28年前にフランスのビジネススクールで教鞭をとり始めた時も中国人留学生を教える機会は増え、相談を受けることもありました。
さらに中国、韓国に進出する日本企業支援に携わった経験から、さまざまな課題が見えてきました。日本企業は異文化理解が十分でないために、さまざまな失敗を繰り返し、多くを失ってきたのも事実です。
その中で、たとえば「中国人に金を貸したら戻ってこないことを覚悟すべき」というのがあります。同じことが韓国でもあり、借金は人助けだから場合によっては返さなくてもいいという考えに遭遇し、善意が裏切られたと苦い思いをした日本人ビジネスマンも少なくありません。
中国の場合は半世紀以上を共産主義の下で過ごした結果、改革開放に舵を切ったとはいえ、全ての物は共産党政府に帰属し、その政府は人民の母なので、全ての物は人民の物でもあるという観念が文化大革命時に植えつけられ、その観念を引きずっているといわれています。
そのため、事務所にある文具の持ち帰りやプライベートな郵便物を会社から出す等、日本では考えられない公私混同は日常茶飯事で本人たちに罪悪感はありません。その中に豊かな者が困窮者に施すのは当然という考えもあります。ただし、通常は親しい近親者に限られます。
ところが彼らにとっては会社も家族の延長線上に考える傾向があることから、高給取りの日本人上司と親しくなると、日本では考えられないさまざまなことが起きます。たとえば日本でいえば闇金に近いところから金を借りるのに本人の承諾なしに日本人上司を保証人にしていた例もあるくらいです。
そしてよくあるのが上司から直接金を借りることです。日本的には返すのが当り前ですが、これが返ってこない場合が少なくありません。中には紙面で賃借の契約書を交わしていたのに返済されない場合もあります。中国人にいわせれば「法は破るためにある」というのですから、どうしようもありません。
実は韓国にも同じような習慣があります。韓国人同士でも親族の中に成功者が出ると皆、そこにぶら下がり子供の学費や生活費を借り、返さないのも当り前という慣習があります。たとえば離婚した夫から多額の金を借りながら、返そうとしない某皇室と息子が結婚する方向にある母親の例は、韓国から見れば普通のことです。
困った親族や仲間を助けるのは当然という考えがあるわけですが、無論、韓国も中国同様、通常は親族間での話です。日本政府が多額の戦争賠償金を払い、従軍慰安婦の財団に資金を拠出しましたが、財団が解散しても、その金は返さないのは韓国的には問題がありません。
日本では多額の借金をして返済しなければ、その人は社会的信用を失いますが、中国や韓国ではそうではないということです。韓国では親族に金持ちがいると周囲の人は「それじゃ生活は安泰ですね」といいます。大統領が汚職まみれになるのも親族や知人、友人の世話は当然だからです。
政治家や官僚、財閥など権力を持つ者の利権誘導も当然です。1990年代後半、韓国で起きた通貨危機で国際通貨基金(IMF)の支援を受け、その条件として先進国で常識的な規制を適応したら、毎日のように逮捕者が出たのも汚職という感覚すらなかったからで、それは今でも存在します。
よくいえば、家族主義的慣習が残り、公的な支援だけでなく、社会に相互扶助の精神があるようにも見えますが、当人同士だけの論理で公共性も公正さとも無縁です。金持ちの親族や上司に金を借り、返済しないことを恥ずかしく思うこともありません。
アジアには公益性とか、公共意識は希薄です。最小の単位は家族であり、その家族の論理は社会の秩序を維持する法が届かないところにあります。そのために甘えの関係に陥りやすく、時には人間関係が崩れ、犯罪が起きたりもします。
そのような社会とうまく付き合うことができなければ、ビジネスも成功しないわけです。日本人は道徳性が高く、法や決まりを守ることを当然とする常識がありますが、それはアジアでは必ずしも通用しません。だからといって中国人や韓国人のように法は破るためにあるなどという考えを今さら実践するわけにもいきません。
とにかくグローバルビジネスの多くはアウェイで行われるもので、相手の文化慣習を変えるなどというのは至難の技です。20年間、アフリカと南米で過ごした日本の商社マンから「信頼関係を結びことはビジネス上重要だが、絶対に一線を超えて深入りし彼らを過信すべきでないというのが私の教訓だ」と話を直接聞いたこともあります。
これは日本人同士にもいえることで、異文化では尚更ということです。今風にいえば、絶対にズブズブの関係に陥らないことです。善かれと思ってしたことが裏目に出るのは日常茶飯事と覚悟するべきでしょう。それでもやるかどうかはその人の人生哲学、モラルの問題で、それを失えば、全てを失うというのも重要な点です。
ブログ内関連記事
中国人、朝鮮人の変貌を読む 異文化理解に必要な時代の移り変わり
善人に見えて得する東洋人 正体を知らずに騙される西洋人もイメージの上書きが始まっている
懸念されるコロナ後のニューノーマル 憎悪の罠にかかれば異文化理解も問題解決も遠ざかる
コメント