Ecole juive education
  ユダヤ人学校の授業風景 Actualite juiveより

 フランス・パリには、ユダヤ教の教義に従って運営されるユダヤ人のためのユダヤ人学校が65校も存在します。ユダヤ人の親たちの多くは子供をユダヤ人学校に通わせ、富裕層の多い彼らは教育熱心で多くが大学や高等専門大学のグランゼコールに進み、社会の上流層に食い込んでいます。

 12歳まで子供の学校への送り迎えが義務づけられているフランスでは、朝夕の登下校時に親が高級車でユダヤ人学校前に乗り付ける光景は、ユダヤ人が多いフランス南西部トゥールーズなどでも日常化しています。

 欧州最大規模の60万人が生活するフランスのユダヤ人たちは社会の富裕層を形成し、全国に300校ものユダヤ人学校を持っています。

 フランスのマクロン大統領は今月2日、共和国のルールを同国のイスラム社会に周知徹底するため、イスラム教指導者イマームらの養成を国内で行う方針を明らかにしました。目的はイスラム教徒の多いアラブ系移民のさらなるフランスへの同化と、海外から送り込まれる過激思想を持つイマームの排除です。

 マクロン氏が上げた共和国のルールの一つは男女平等で、女性は夫の所有物と映るイスラム文化をフランスは受け入れないということです。2つ目は全ての国民は等しくフランスの公教育を受ける義務があるということです。

 マクロン氏は3歳から保育施設に通い、男女共学で教育を受けるフランスの教育制度への厳しい順守を仏国内のイスラム教徒に改めて求めました。フランスでは現在、約5万人の子供がイスラム系の親の意向で在宅教育を受けており、毎年増加傾向にあります。また、学校で子供が音楽の授業やプールに入ることを拒否している状況もあります。

 フランスには欧州最大でしかもユダヤ人の10倍の600万人のアラブ系住民を抱え、そのうち約500万がイスラム教徒といわれています。ところがユダヤ人学校は存在しますが、イスラム教に特化したイスラム学校は存在しません。

 因みにフランスでは伝統的に私立校はカトリック教会組織が運営する通称エコールリーブルと呼ばれる学校が大半を占め、その数は保育園から高校まで全国で公立学校に迫る数が存在します。大抵の学校は自宅から近距離にあり、パリのユダヤ人学校も同様です。

 つまり、イスラム教徒の子供の大半は非宗教の公立校に通うしかなく、1部の富裕層がカトリック系の私立校に子供を通わせています。イスラム学校がない理由は、キリスト教が支配していた欧州では十字軍の時代からイスラム教は敵対勢力でしかなく、今も欧州社会には警戒感があるからです。

 2015年1月と11月に起きたイスラム過激派による大規模テロを受け、フランス政府は学校内で宗教の授業を強化し、多文化教育を実施してきた一方、フランスでは公立、私立問わず、イスラム女性のスカーフ着用は校内では禁じられています。

 市役所にクリスマスの飾りつけをするのに、公共の場で特定の宗教を強調することは禁じるというのは、イスラム住民には矛盾です。

 マクロン大統領の新方針は政教分離の原則の徹底で妥協の余地がないとしている一方、現存するカトリック系、ユダヤ系私立学校は認知されており、イスラム教徒には不平等感もあります。信仰実践するカトリック教徒が激減する中、信仰生活を実践するイスラム教徒は一大勢力です。

 イスラム教礼拝堂のモスクの数は増えていますが、今後はイスラム教の教義に基づいた義務教育の学校をどうするかが課題です。イスラム教徒の子どもが他教徒から分離した形で集団礼拝や宗教教育の授業を独自に受けることに対しては、多文化共存社会の実現を阻害するという反対意見も強いのが実情です。

 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は旧約聖書を共有する一神教で、それぞれ明確は世界観を持っています。世俗化したキリスト教圏であるヨーロッパでは、英国が少数のイスラム学校を認可しています。一神教は社会のルールである男女平等や人権、法順守、自由といった社会の根幹の価値観に強い影響を与えています。

 多文化共存社会を肯定するのが世界的潮流ですが、一神教は人間や社会の価値観に大きな影響を与えるだけに信教の自由だけでは解決できない問題を抱えています。フランスではイスラム学校の議論は非常にマイナーです。どんなにイスラム人口が増えても議論したくないテーマだからです。

 しかし、既得権を持つユダヤ教、キリスト教徒とイスラム教の不平等は、21世紀の多文化共存社会では避けては通れない問題で、無視し続ければテロが再び頻発することも考えられます。

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