安倍前政権で日本の存在感を世界に示せたことで、菅新政権への海外の注目度もある程度高いといえそうです。前政権の路線踏襲が基本路線としていますが、近隣の日本との関係が重要な中国、韓国からは、改めて新政権の動きが注視されています。
インド太平洋の発展は日本の国益に合致します。同時に戦後の日本の信頼回復に繋がるという大義名分もあり、さらに近年は覇権を強める中国の封じ込め外交も重なり、莫大な資金援助、技術協力、人材協力を繰り返してきました。官民上げて海外投資といえば、インド太平洋重視は変わっていません。
しかし、相手国の発展に応じ、その姿勢は変える必要があります。その意味でアメリカ、欧州の対中外交には学ぶべきものがあると感じています。相手が途上国、新興国である場合は、支援の側面が強く、技術供与や人材供与は当然のように行われます。
多くの途上国は政治が不安定で民主主義が成熟していないだけでなく、独裁国家や社会主義という日本と異なった統治システムを採用している国もあります。そのため、権力者の都合で頻繁にルールが変えられたりします。さらに個人も組織も遵法意識に乏しく、ルールを守る保障もありません。
特にアジアはルールより人間が上に立っている場合が多く、人間同士の信頼関係だけで動いている場合があります。それもいつも裏切りに注意が必要です。かつての日本も1990年代前半まで、大企業が反社会性力でもある総会屋を使い、株主総会を管理する海外企業には理解不能な慣習が存在しました。
既得権益を守り、超内向きの論理で動いていた日本は経済発展と同時に市場開放のための規制緩和をアメリカから迫られ、透明性を高めるためにも総会屋を一掃する方向に舵を切ったのは1990年代のことです。つまり、アメリカでいえば大企業がマフィアとの関係を持っていたようなもので、日本ではその関係を切ったのは1990年代に入ってからでした。
今回、欧州と中国が年内の投資協定の合意をめざし、欧州連合(EU)のミシェル大統領、欧州委員会のフォンデアライエン委員長、議長国ドイツのメルケル首相が、中国の習近平国家主席と首脳会談を行った際、欧州側は3つの条件を出しました。
1つは中国政府が公正な競争を妨げる多額の補助金を中国企業に出しているのをやめること、2つ目は知的財産権を盗み取るのをやめること、最後は新疆ウイグルへの宗教弾圧、人権弾圧及び香港市民の言論の自由を封殺するのをやめることでした。
興味深いのは、中国側は「内政干渉」と反発しながら、欧州とのパートナーシップを強調しているのに対して。欧州側は途上国ならともかく、世界第2位の経済大国を自負する中国が欧州と対等の関係を望むなら、欧州で受け入れられない事項については変更してもらう必要があるという姿勢を鮮明にしたことです。
日本もアメリカが日本に市場開放と規制改革を迫ったことで、前近代的な慣習を一掃し、より透明性を高め、グローバル化への参画、国際的発言権の確保に繋がったわけです。結果、日本はアメリカのパートナー国として信頼される国になり、戦後の国際社会での信頼回復にも繋がりました。
その日本も大国志向の強い中国や日本への対抗意識が強い韓国に対して、かつてのアメリカの日本に対する姿勢や、今の欧州の対中外交のように「パートナーになりたければ、一定のヴィジョンとルールの共有は必須で、それなくしては対等な付き合いはできない」という毅然とした態度が必要です。
資金、技術、人材支援の段階を終え、先進国が守るルール、守るべき価値観を中韓に求める段階に入っています。欧州首脳は中国との投資協定は「相手を変えるチャンス」と見ています。呼び水を十分与えられた中国、韓国は発展したことで、次の段階に入る運命にあるということです。
それは日本が戦後辿ってきた道でもあります。人の物を盗むだけでは先進国になれず、地味な必死の努力なくして、世界が認める一流国になれないという信念を日本側が持つことが重要と思われます。恩恵を受けとることに慣れ、先進国に対して甘えの中にある中韓を自立させるのも日本の役割です。
もし、中韓がそれを拒み、自分たちを変えようとはせず、今までどおりの関係を望むなら、日本は対等なパートナーシップを拒否すべきです。それに中韓のみならず、多くのアジア諸国が民主主義を成熟させ、ルールを守るようになれば、日本にとって繁栄のチャンスにもなります。
間違っていることを間違っているといえる外交、それを相手に納得してもらうコミュニケーション力、共に発展するための価値観やヴィジョン、ルールの共有を生命視する姿勢を明確にすることを管政権に望みます。
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