新型コロナウイルスで世界最長の封鎖措置を行ったイタリアは今、段階的緩和に動き出している。学校閉鎖を学年末の9月まで継続されることを決めたイタリアでは、数人単位での保育所利用や屋外での少規模サマースクールの開催の検討に入っていることが伝えられています。
前代未聞の半年の学校閉鎖は、戦争さながらの様相ですが、夫婦共働きが当り前のイタリア社会で子育てを行う多くの世帯からは悲鳴の声が上がっています。教育の遅れをどのように穴埋めするのかも課題です。乳幼児を抱える親は身動きがとれない状態です。
世界何処も同じ事情を抱えていますが、全国紙コリエレ・デラ・セラは今月2日、政府が6月から幼稚園と保育所を利用する0〜6歳児の超少人数保育を認める方針であることを伝えました。
同計画では、定員は3〜6名で時間交代制で通園、園内に入る際に検温し、徹底消毒されたおもちゃしか使用できないようにし、園児はマスクを着用しないが、教師や保育士は着用が義務づけられる。9月までは使用していない小・中等学校の校庭や消毒を徹底すれば体育館の使用も可能。重要な点は子どもたちが、できるだけ長く野外で過ごせる環境を整備することとしている。
さらに9月からの授業再開についても、学校の再開方法を検討する専門家委員会のパトリツィオ・ビアンキ委員長は、学校制度の大変革が必要になるとの見解を明らかにし、老朽化した校舎の修繕と各家庭で学習が可能なインターネット環境の整備を進めることを推奨。さらに、多くの授業を屋外で行うことも提案しています。
これはコロナ禍との付き合いは長期化するとの認識がベースにあり、感染終息で元の状態に戻すのではなく、向う5年間に渡り、3,000億円以上の予算を投じて教育政策の大変革を実行するという明確な意思が示されたものです。
フランスでも、12人から15人の少人数を前提に段階的に5月11日から授業を再開する流れですが、フィリップ仏首相が「コロナとは長い付き合いになる」という認識を示しており、マクロン仏大統領も教育には強い思い入れがあるため、今後、大胆な教育改革が打ち出されることが期待されています。
イタリアの教育改革では、長期的に密を避ける意味でも、多くの授業を野外で行うことを提案、教室も、従来型の生徒20人が机を同じ方向に並べて授業を受けるのではなく、最大10人を限度とする少人数クラスで机を半円形に並べて座る形式に変え、時差登校も提案しています。
つまり、これは数カ月の臨時措置ではなく、コロナとの長い付き合いを前提にしたもので、世界で2番目に多い感染死者数を出したコロナウイルの恐ろしさを知るイタリアならではの後戻りしない決意を表した取り組みともいえ興味深いものがあります。
翻って日本を考えると、未だ出口戦略が政府から示されない中、緊急事態宣言を5月末まで延期することだけが明らかになっていますが、専門家も長期戦(日本では戦争アレルギーなので”長丁場”)との認識を示していますが、国家や社会、教育のあり方を抜本的に改革するチャンスとは受け止められていないように見受けられます。
日本の教育のあり方の課題は、集団教育から個別教育への切り替えといわれながら、集団教育で育った世代が教育界を覆う中、改革は進んでいません。今回のコロナ禍で自宅での遠隔授業が世界では進んでいますが、日本は自治体の予算では遠隔授業を整備するためのタブレットの配布などもできず、まったく進んでないようです。
遠隔授業は個別授業でもあり、教師の生徒に対する個別の丁寧な対応が鍵を握ります。私自身も教育に関わる現実からすれば、個別に学習内容の理解度を教師が確認することの重要性は痛いほど分かります。人間の成長は個人個人で異なるので、極端にいえばフランスのように、その学年でマスターすべきものが基準点に満たなければ、留年させるぐらいの丁寧さが必要です。
密という意味は、少子高齢化で廃校になった学校が日本全国にあるはずです。そのスペースを活用して超少人数クラスを運営することも可能でしょう。日本は悲しいかな弁当に象徴されるように箱の様な小さなスペースに詰め込む文化があり、いい面もある一方、余裕はありません。密を避けるという意味では詰め込みは絶対回避すべですが、逆にスペース確保は人間に余裕を生む利点もあります。
これからは校舎の設計にもコロナ禍対策は影響を与えるでしょう。広い開放的空間、風通し、外とのアクセスの良さなど、様々な工夫が生まれるはずです。コロナ禍で人口が集中する大都市の弱点が露呈したことで地方で余裕を持って子育てしたいという動きも出てくるでしょう。
同じ状態には戻れるという甘い考えを排し、コロナ禍を期にリスクに強いだけでなく、より教育効果を上げる教育政策の抜本的に改革の検討をスタートさせるべきではないでしょうか。
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