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 人工知能(AI)は、新型コロナウイルスのパンデミックをどう分析し、どう役立つのか。この危機的状況でAIは確実に膨大なデータと日々刻々と変化する状況から学習しているはず。今は分野を超えた取り組みが必要な時、感染症の専門家だけでなく、公衆衛生、社会リスク、経済リスク、外交など、幅広い専門知識が対応に求められています。

 では、それらをトータルに判断するのは誰かといえば、それは最終的には国の指導者である政治家です。都市の封鎖(ロックダウン)も海外からの入国者を制限するのも、緊急で医療予算を増額するのも、人命と経済活動の間に優先順位を付けるのも、最終的には国家の指導者が決めることです。

 政府にはさまざまな諮問委員会があり、各省庁にも分野ごとの専門知識を持った人材はいますが、意思決定する指導者への提言には限界があります。ある専門家は、大都市のロックダウンに効果がないといい、感染症の専門家は教科書通りの隔離を主張したとしても、現実に隔離された空間でも感染が拡がっているのが現状です。

 フランスでは、パリのロスチルド老人ホームで、国が指針を出す前の2月には、ホーム内の食道などの濃厚接触が考えられる空間を閉鎖し、入居者を自室に隔離し、親族の面会も禁止し、万全の対策をとったのも関わらず、介護士20人を含む80人以上に感染が拡がっています。

 自分の専門分野でさえ、正体不明の新型コロナウイルスに適切に対処できない現実があり、そこに様々な分野の専門知識が必要となると、人間の能力を超えているように見えます。ブラジルのボルソナーロ大統領のように大した危機ではないと考える指導者もいて、本人の危機に対する感性が疑われたりしています。

 そこで期待されるのは、AIの活用です。政治的決断は通常、専門分野の境界を超えたトータルな判断が要求されますが、知識や分析力の乏しい指導者は往々にして信頼できる部下の意見を鵜呑みにしたりします。ところが、その部下も利権とは無縁でなく公正な提言をしているとはいえず、結果的に正しい判断が導き出されない可能性も多々あります。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、これまで既存のビジネスモデルを破壊してきたIT業界が、コロナ危機に取り組んでいる現状を紹介しています。「新型コロナ、IT業界の次なる「破壊目標」」と題した記事で、シリコンバレーにテクノロジーを駆使して感染拡大に対抗する機運を伝えています。

 無論、そこでもビジネスチャンスを見出そうとしているのでしょうが、危機回避をもたらすことができれば、IT業界も評価をあげることになります。「シリコンバレーのハイテクエキスパートが新型コロナウイルスとの戦いに動き出した。感染予測モデルの構築から高齢者向けサービス、医療機器製造まであらゆるプロジェクトに取り組んでいる。」とあります。

 まったく未経験な分野への挑戦なので大きな役割を果せるかは未知数ですが、感染動向を予測するモデルを構築し、ネットで公開しているインスタグラムで働いていた人物は、アメリカの感染者数が3月19日までに1万人に達することを予測し、的中させているとしています。

 「グーグルの親会社アルファベットは、人工知能(AI)部門ディープマインドがワクチン探し、ヘルスケア部門ベリリーがウイルス検出にそれぞれ取り組んでいる。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が立ち上げた慈善団体チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブは、検査の拡大に向けてサンフランシスコの病院と協力している」とあります。

 リスクマネジメントにとって、最も重要なことの一つは正確な情報取得です。正体不明の新型コロナウイルスとの戦いでも、武漢に始まり、膨大な治験が積み上がっているはずですが、それを分析し、なんらかの方策を見つけるには至っていません。

 冷静に科学的に分析する姿勢は重要ですが、WSJは懸念も伝えています。2012年米大統領選でバラク・オバマ陣営の最高技術責任者(CTO)だったコンピューターサイエンティストのハーパー・リード氏の意見として「技術者は自分たちを解決策の一部ではなく、解決策そのものだとみなしがちだ」との意見を紹介しています。

 無論、技術は手段であって、それだけで解決策を決めるのは危険です。しかし、より正確な情報に基づいて判断を下すというのも絶対的に必要です。その意味でAIの分析結果は大いに参考になる意見といえるでしょう。今の技術では、たとえば世界情勢から株価の動向を導き出すことはできていません。

 しかし、単純な人間の経験に基づく感だけよりは、膨大なデータから導き出された予測は有効な検討材料を提供しつつあります。いずれにしろ、1人の指導者が判断するには、あまりにも膨大な専門知識が必要なリスクマネジメントでは、AIの存在価値も確実に大きくなると思われます。すでに軍事分野ではシミュレーションなどに活用されています。

 この数年、個人情報の漏洩やフェイクニュース拡散による政治への悪影響など、批判に晒されることの多いIT業界ですが、人類が遭遇したことのない疫病危機に対して、社会貢献ができれば汚名挽回もできると期待されています。

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