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 ヘンリー英王子夫妻が主要公務から退くと表明した衝撃のニュースは、何よりもエリザベス女王ら英王室トップとの相談がなかったことが、英王室に怒りと戸惑いを与えているようです。13日に行われた女王を中心として対応を話し合う家族の集まり「家族サミット」の結論が注目されます。

 エリザベス女王の声明では、ヘンリー王子の経済的自立と王室の公務から退くことを認めるとして、移行期間に入る旨が伝えられています。今後、さらに具体的な結論を出すには時間が掛かりそうです。

 君臨すれども統治せずの英女王ですが、世界最年長で最も長く女王の座にいるエリザベス女王は、何度も王室の試練を乗り越えてきました。近くはダイアナ妃がチャールズ皇太子と離婚し、さらには事故死した時の対応を巡って、対処を間違い、国民からの強い批判に晒された事例があります。

 BBC放送は、主要王族の「引退」は異例の事態であり「家族サミット」は王室の伝統や在り方を変え得る「歴史的」なものとなりそうだと報じました。東部ノーフォークにある女王の邸宅で開かれた「サミット」の参加者は、女王のほかヘンリー王子本人(妻メーガン妃はカナダから電話で)、王子の父チャールズ皇太子、兄ウィリアム王子だったとしています。

 ヘンリー王子夫妻が表明している「主要公務から退き、働いて金銭的に自立する」との夫妻の意向を受け、今後の夫妻の英国での地位や役割、財政問題などについて話し合われたとされる家族サミットですが、制度が違う日本であれば天皇家が集まって、皇室の伝統やあり方を議論するなどありえない話です。

 警備費用などの経済支援については宮内庁と政府が協議する問題ということで、英国の場合の結論を英政府がどのように処理するかも注目されるところです。

 王室引退はメーガン妃が王室内から受けたいじめや、英国のイエローペーパーによる人権を無視したパパラッチ報道で精神的に追い込まれたことが報じられていますが、問題なのは王位継承順位6位という高位のヘンリー王子に引退をどう受け止めるかという問題です。

 議論は、王室としての公務はしないが、地位は保持し、警備を含め、税金を使った経済支援を続けるというのも国民が受け入れにくい一方、王室から完全排除し、民間人としてしまうのは、高位王位継承者を減らすだけでなく、人気の高いヘンリー王子を完全追放し、黒人の血を引くメーガン妃を排除する人種差別との批判も免れません。

 エリザベス女王は日本人が理解しやすい王室の役割と義務を最優先に考える人物で、個人の本音を超えた公人として、国体保持と英連邦の君主としての役割に徹していることは日頃の言動からも伺えます。

 しかし、その子供のチャールズ皇太子はダイアナ妃と結婚しながら、カミラ女史との交際を続けた過去があり、アンドルー王子は児童売春疑惑で公務を退いています。

 夫妻の「爆弾宣言」に、12日付サンデー・タイムズ紙によると、ウィリアム王子は友人に「悲しい。人生でずっと弟と支え合ってきたが、もうそうすることはできない。僕たちは離れた存在になってしまった」と胸中を吐露しています。ダイアナ妃に共に育てられ、苦労を共にしてきた兄としては正直な感想と言えるでしょう。

 エリザベス女王の意向を受け、公人としての義務を果す王室メンバーは今、減る一方です。伝統やしきたりという形だけで形骸化が進めば、英王室の存続は危うくなることが予想されます。それはお金の問題だけでないはずです。

 フランス的にいえば、個人の自由がノブレスオブリージュ(高貴の義務)の意識を上回るという話です。階級社会を続ける英国では労働者階級の通俗的好奇心を満たすイエローペーパーが盛んで、王室はしばしば、その犠牲者になるわけですが、メーガン妃には到底消化できないものなのでしょう。

 そこには彼女の無知もあったでしょうし、個人の自由最優先のリベラルなアメリカ文化の中で育ち、英王室の目的である英国の威信と発展という公的目標を理解し、共感することができなかった部分もあったと思われます。ただのシンデレラストーリーと受け止めていた可能性もあります。

 ようやくブレグジットの実現が見えてきた英国ですが、今回の問題で英王室並びに英国民は、国体に関わる重要な選択を迫れていることだけは確かと言えそうです。

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