Hotel-Dieu_I_Lyon
  リヨン国際美食館に生まれ変わったリヨン中心部にある巨大な旧オテル・デュー

 フランスといえば、この1年、毎週土曜に恒例となった黄色いベスト運動のデモ。今月はもしかしてゼネストが1995年の1カ月近く続いた時の再来ともいわれ、暗いクリスマス時期にニュースが流れています。加えてもしかすると、この時期を狙ったテロの脅威も高まっています。

 それでも外国人観光客の数は、政府がめざす年間1億人に近づいており、観光大国恐るべしです。その観光の目玉の一つがフランスの食文化。フランス料理は未だに世界に不動の位置を占めており、2010年にはフランスの食文化は世界無形遺産に登録され、さらに世界的評価を高めています。

 モンサンミッシェルを初め、古代遺跡や古城、美しい歴史的村など30以上の有形の世界遺産とともに、美食文化(ガストノロミ)はフランスの重要な観光資源であることは誰もが認めるところ。その中心都市といえば、リヨン。そのリヨンに今年11月26日、リヨン国際美食館がオープンしました。

 フランス南東部に位置するリヨンは、パリからTGVで2時間程、マルセイユと並び、パリに続く大都市で、北側には老舗ワイナリーが並ぶブルゴーニュ地方が控え、リヨンは絹織物で栄えた商人の街でもあり、周辺で取れる豊かな食材と古代ローマ時代からの歴史が持つ多様性から、ガストノロミを育んだ街です。日本でいえば京都のような街です。

 そんな街の観光の目玉にもなりそうな国際美食館が、2020年10月に最初の名誉招待国とした選んだのが日本。特別展「日本食月間」が、日本の外務省、農林水産省などが連携し開催されるそうです。企画展のテーマは「食」で、出展自治体は、食をテーマとして工芸品の展示、販売、ワークショップなどにより、食文化を通じた地域の魅力を発信することが可能ということです。

 単に高級和食の紹介に留まらず、食ブースでは、郷土産品の試食会を行うとしています。特に日本食月間では「伝統と先端と」展が準備され、出展する地方自治体の募集も始まっています。世界で最も和食が定着してしまったフランスでは、サラリーマンの昼食でも和食は極めて一般的です。

 元々の食の目利きとして知られるフランス人は、洗練された和食の価値をいち早く認め、私がインタビューした数名の有名シェフで和食を評価しないフランス人は一人もいませんでした。昨年8月に他界した故ジョエル・ロブションは「日本では優れた料理を安価で気軽に食べられる素晴らしい文化がある」と称賛し、日本でも積極的に出店しています。

 新美食館は、リヨン市内を流れるローヌ川とソーヌ川の間のまさに市内中心部に位置し、17世紀の歴史的建造物であった旧施療院(病院)を5年を掛けて改修した建物。「オテルデュー」と呼ばれる施療院は「神の家」という意味で、中世にパリのほかフランス各地に建てられ、周辺の王侯貴族や修道院が運営するワイナリーから資金が寄進され、貧しい人、難病に苦しむ人を療養する施設でした。

 改装された館内にはには実際に料理のできる実用的なキッチンスタジオやタッチスクリーンによる説明、子供向けの体験スペースなども準備されています。

 ポールボキューズなど、世界的に知られるシェフを輩出したリヨンは、ミュシュランの星付きレストランが多く存在する美食の街。同美食館は複合施設として設立され、5つ星ホテルや商業施設、レストランなどが入り、フランス人も1度は行ってみたい新たな施設となっています。

 昨年から今年初頭にかけ、日仏交流160周年のイベントが様々な美術館、博物館で精力的に開催され、竹細工から現代美術まで多くの来館者を集めました。過去のいかなる時代より日本文化に対する評価が高まる中、文化交流の深まりは日本人にとって嬉しいことです。

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