世界銀行が示す高齢化率(総人口に対する65歳以上人口の比率)の世界比較は、国の将来性という意味で興味深いものがあります。中でも高齢化率が10%を切るブラジル、トルコ、ベトナム、インドは、それぞれの地域の成長株として、熱い視線が向けられています。
高齢化率が最も高い日本は27.47%でイタリア、ポルトガル、ドイツなど欧州諸国が後に続き、アメリカも15.80%とけっして低い方ではありません。ロシア、中国も10%以上なのに対して、人口の多い国の成長株であるインドは6.18%と非常に低いのも注目点です。
私の書著に推薦の言葉を寄せていただいた元経済企画庁長官で作家の故堺屋太一氏は「日本は結局、少子高齢化に適切な政策をとれなかった」と、亡くなる前に政府を批判していました。高齢化率は、平均寿命の伸びと共に出生率と関係していますが、日本は教育費の高騰と男性中心の勤勉信仰がライフワークバランスを極端に圧迫していることが原因しています。
高齢化率が低い国にはそれぞれの国に事情がありますが、たとえばベトナムの場合は、ベトナム戦争で、ある世代以上の死亡率が異常に高いのが主な理由です。インドは平均寿命の伸びなどで高齢化率は確実に上昇しており、2030年には10%を超えると試算されています。
興味深いのはトルコで、同国はイスラム圏としては最も西洋化、世俗化が進んだ国の一つで、女性の社会進出が進んでいることが、高齢化率が高めているとはいえ、未だに低く抑えられています。欧州連合(EU)の加盟をめざすトルコは、EU現加盟国に比べ、極端に高齢化率が低い、若者の国であることをアピールしています。
トルコの場合は地域差が大きく、イスラム教保守派の多い東部は出生率が高く、リベラルな中央アナトリア地域より西側は出生利率が低いという事情もあります。無論、トルコも高齢化率は伸びていますが、ヨーロッパ諸国とは比べられない低い数値です。
現時点で高齢化率が低いことは、経済成長に有利なことは確かで、一方で若者層が経済を牽引し、高齢者への社会保障負担率も低いために、経済成長に集中できる強みがあります。英金融大手HSBCホールディングスが毎年発表する「世界で住みたい・働きたい国ランキング」の2019年版で、昨年22位だったトルコが7位に急浮上しています。高齢化率の低さは魅力を放っているといえそうです。
無論、トルコは不安定なシリアと直接国境を接し、クルド人問題を抱え、ロシアとの隣接する難しい地域に位置しています。EUとしては、2016年のクーデター未遂事件の政府の事後対応がいき過ぎだと非難し、クルド人への圧政にも眉をひそめており、EU加盟には極めて消極的です。
しかし、トルコは東西冷戦時代に隣接するソ連への防波堤として1952年NATOに、1961年にはOECDに加盟しています。最近はロシアの兵器購入でアメリカから非難されていますが、NATOの重要な基地であり続けています。
トルコ政府の目標は、2023年(共和国建国100周年)までに,世界第10位(現在の経済規模及び輸出額5,000億ドル)に入るとしています。最近はロシアとのビジネス関係を強化する動きも出ており、トルコ自動車工業会(OSD)によると、今年8月の自動車生産台数は5万2,242台となり、前年同月比10.7%増加しています。
シリア問題やテロが終息し、内政問題が落ち着けば、若い国である強みを生かし、トルコは成長が見込まれるポテンシャルの高い国として、さらなる注目を集めることが予想されます。
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