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 台湾がアジアで初めて同性婚を法的に認め、注目を集めました。海外メディアには好意的報道も少なくないのですが、台湾社会は本当に同性婚を受け入れたのでしょうか。大学の教え子で台湾に15年以上住むカンボジア系フランス人は「フランスより状況が悪化するのを懸念している」といっています。

 フランスでは2013年2月に同性婚解禁法案が可決し、同年5月18日に施行されて丁度、6年が経ちました。実は非営利団体「SOSオモフォビー」によれば、2018年のLGBTへの身体的攻撃を含む侮辱や差別的被害件数が過去最多だったことが報告されています。同性婚合法化が成立した2013年もLGBT攻撃は過去最大に高まったフランスですが、それをも上回る数字です。

 無論、調査は法律相談や目撃情報をもとにしており、今まで泣き寝入りしていた人々が声を法的手段に訴えるようになったり、一般市民の意識が高まり、目撃情報を報告するようになったために数字が増えたことも考慮しなければいけません。

 はっきりしていることは攻撃者が訴えられた場合、不利な立場になる可能性は以前より高まったということですが、それでも、当時、同性婚合法化と同時に論じられた同性カップルの養子合法化に猛反対した人は、同性婚を禁じるカトリック教徒よりは、教会に行かない普通のフランス人の方が多かったのも見逃せません。

 合法化が決まってから数年は、フランスでは自治体の首長が同性婚の婚姻届を拒否する現象まで起きました。実際に正式に法律婚となった同性カップルが社会的差別を受けたり、侮辱されるといったことは今でも起きています。つまり、完全に市民権を得たとは言い難い状況です。

 台湾の今回の議会裁決では与野党ともに造反者が出て、与党・民進党は1人が造反、12人が欠席。野党・国民党は7人が賛成したと報じられています。実際、民進党の支持基盤である中南部の農村地帯は同性婚への拒否反応が強く、地元選出議員は反対票を投じ、棄権した議員も同じような状況だったことが考えられます。

 この問題は、誰も表立って反対を表明する人は、それほどいません。自分がマイノリティーに対する差別主義者と思われたくないからです。台湾はフランスと違い、同性愛そのものを禁じるカトリックの影響は少ない一方で、伝統や伝統宗教は反対の立場です。

 そこでキーワードとして出てくるのは「寛容」と言葉ですが、これは努力目標であって、価値観と寛容さは、常に難しい関係です。それに宗教や伝統的価値観の根拠が薄い場合でも、生理的に受け付けないという嫌悪感をどう自分の中で処理するかという問題もあります。

 台湾は、長く島に住み着く原住民と大陸から逃げてきた人々によって構成され、伝統的価値といっても曖昧なものがあります。国家としては歴史的価値観の支配が薄い国ともいえます。ただ、中国は歴史的に特に福建省に同性愛者が多いといわれ、台湾人には福建省出身者は少なくありません。

 興味深いのは、この台湾の同性婚合法化を見て、中国、ロシアはどう思うのかということです。中国共産党一党独裁に心血を注ぐ中国では、社会秩序を保つ弊害になるものは取り除かれます。しかし、歴史的には文化大革命時にLGBTを犯罪とした以外は、今でも取り締まる法律はなく課題を残しています。

 ロシアは同性愛そのものが、7つの大罪の一つなので、宗教以前に社会的にはありえないとされているので、合法化は遠い話だと思います。

 それはともかく、台湾社会はLGBTに寛容な社会に変わるかといえば、フランス同様、今回のことでできた社会的亀裂は、今後も尾を引きそうです。同族意識の強い台湾では、同性で婚姻届けを出す者が出た場合は、法以前に一族の恥として排除される可能性は高いといえ、これからが本番といえそうです。

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