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 中国を初め、東南アジア諸国では、この10年、日系企業で訓練を受けたナショナルスタッフが、現地に進出している欧米企業や、現地の成長企業に転職する動きが止まりません。ベトナムに生産拠点を置く日本の中堅企業で、1年間日本の工場で訓練を受けたベトナム人の大半が帰国後、他社に転職しているという話で相談を受けました。

 海外の日系企業内では想定外の離職が至る所で起きており、特にアジアでは頻度が高いのが実情です。ほとんどの転職理由は報酬にあるといわれていますが、管理職をめざす優秀な人材では、キャリアパスが明確な欧米企業が好まれる実態もあるのも事実です。

 では、欧米の競合他社は、なぜ日系企業より高い報酬を支払えるのでしょうか。当然、考えられることは効率性や生産性が高いために、より少ない人数で高いパフォーマンスを出しているからに他なりません。では、その効率性や生産性は誰がもたらしているのでしょうか。雇われたナショナルスタッフがもたらすケースは少ないでしょう。

 つまり、生産性をもたらしているのは、彼らを指導するリーダーが生産性を上げる方法や知識を持っているからです。グローバル化が進む世界では。以下に多文化環境で生産性を高めるかは重要な課題で、そのために有能なナショナルスタッフを採用し、育てることに力を入れています。

 最近、新卒採用で入社し勤務4年目に入った某日系大手企業のベトナム人スタッフのKさんは、会社内でソフト開発に取り組む傍ら、上司から担当の仕事以外に生産性を向上させるミッションを与えられており、毎日、9時、10時まで働いているそうです。

 その話を聞きながら、Aさんにそのようなミッションを与えているのは、果たしてその人物を育てる目的なのか、それとも大まじめにその責任を与えているのか疑問に思いました。職人文化の色濃い日本の企業は、最初から専門職でキャリアを積むよりも、異なった分野で様々な経験を積ませながら、会社側は、その中から管理職を選抜するシステムが一般的です。

 そのため、生産性を向上させるというような重要な任を管理職が部下に担わせている例もあります。そこで実際に生産性を上げられれば、係長、課長への道が開けるかもしれないということですが、そうではなく、最初から現場の一兵卒として働く社員に、自ら生産性を上げる努力をさせているだけという場合もあります。

 どの会社においても少ない人数で、それも短期間で結果を出すという生産性が求められている今、生産性向上は喫緊の課題です。経験重視の日本では、学習能力が高く、長時間労働を厭わない日本人が中心ですから、ある程度のパフォーマンスを発揮できますが、異文化ともなると、パフォーマンスを出すこと自体簡単ではありません。

 つまり経験だけでは生産性が上がられず、働く人たち全員の心理を読み込み掌握し、一人一人のモチベーションを上げ、チームワークを向上させ、効率性を追求する必要があります。それは現場の人間が考えることではなく、リーダーが考えることです。

 より少人数で短期間にパフォーマンスを出すために適切な人材配置と組織設計をすることから始まります。ところが多くの日本から送り込まれるリーダーは叩き上げで経験しかなく、ビジネススクールで教えるような生産性向上の方法論やグローバルマネジメントの知識はない場合が多いのが実情です。

 本来、日本国内でも生産性を向上させるという重要な改善は、少なくとも課長以上のリーダーが、部下から意見を聴取しながら、自ら考え抜いて行うべきものでしょう。今はなんでも現場にまかせればうまくいくという風潮がありますが、実はスキル不足の中間管理職が多いという実情もあります。

 その意味で、リーダーの仕事内容を再考し、下が上を支えるのではなく、上が下を率いるリーダーシップに意識を切り換え、職務内容をリセットすることが急務と思われます。