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  新疆ウイグル自治区のモスクに集るイスラム教徒

 英BBCがイスラム教徒の多く住む新疆ウイグル自治区でウイグル人住民を大量身柄拘束し、強制収容している実態を放送して以来、中国政府の推し進める人権を無視した社会統制政策が非難を浴びています。日本はそうでもありませんが、宗教や民族弾圧は国際社会においては深刻な問題と受け止められ、外交やビジネスにも影響を及ぼしています。

 米中貿易戦争の重圧を受ける中国は、かつてアメリカと大西洋同盟を組んで世界を支配した欧州とアメリカの切り離しに余念がなく、ブレグジットに揺れる欧州連合(EU)加盟国の分断に動き出しています。ところが警戒するEUでは、ウイグル族弾圧問題は見逃せない人権問題になっています。

 中国共産党が統治体制維持において最も嫌う思想・信教の自由は今、中国の進める21世紀の大経済圏構想「一帯一路」の拡大の妨げになっている問題です。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、ウイグル自治区の首都ウルムチに300余りあるモスク(イスラム教礼拝堂)に政府が設置したデジタル監視カメラについて、中国政府からその正当性を主張する書簡を受け取ったことを報じています。
 
 中国政府の主張は、先月ニュージーランドのクライストチャーチで起きた極右の若者によるモスク襲撃事件を受けた措置だとしており、あたかも国内のイスラム教徒を保護する目的だといわんばかりの主張でした。まさにイスラム教徒の大量拘留とは矛盾する説明だったといえます。

 WSJは「現・元住民の話、衛星画像、現地取材から、チュルク語系イスラム教徒の同化政策が新たな段階に入ったと判断した」と報じ、「ウルムチ近郊のウイグル族居住地域の大型再開発事業がウイグル移民の住宅の取り壊しや商店などの閉鎖につながり、ウルムチでのウイグル族の生活の中心が根こそぎにされた」と報じています。
  
 ウイグル族居住地域の大型再開発事業は、地元の発展のためとの理由をもとに、中国当局が古い建物を取り壊し、ウイグル族の生活基盤を奪い取っているもので、開発事業とは名ばかりのウイグル族への弾圧が目的と見られています。

 無論、中国政府にしてみれば、新疆ウイグル自治区独立派の動きは長年の頭痛の種です。そのため、政府は新疆の数千カ所にハイテクな交番を設置し、秩序維持と市民監視のためにビッグデータを活用し、当局は市民の携帯端末の写真やメールなどのデータ検閲まで行っているといいます。

 長年、中国政府が奨励して同地域に送り込んだ漢民族が今では多数派を占め、漢民族への同化教育が行われているわけですが、イスラム教徒たちにとって、共産主義の世界観は絶対に相いれないものがあり、効果をあげていません。
 中国政府は、BBCが取材して以来、世界のメディアが報じることとなった強制収容所の存在も否定しており、ウイグル人を中国社会に溶け込みやすくする「職業訓練センター」だと主張しています。その収容所には、最大100万人のウイグル族やチュルク語系イスラム教徒が拘束され、共産主義への転向を試みているといわれます。

 天安門事件後にフランスに亡命した反政府活動家の1人は、私の取材に対して「毛沢東時代には、大量の反政府的思想を持つ者を虐殺した過去もあり、今は収容所で改心させようとしているだけ、人権が配慮しているといわんばかりだ」と指摘しています。

 この大がかりなイスラム教徒への弾圧は、特にイスラム聖戦主義を信奉する過激派にとっては、最も不快なことの一つ。シリアやイラクで足場を失ったイスラム国(IS)の戦士は、リビアをはじめ、世界中に散ったといわれていますが、中国政府は国内でのテロを過去のどの時代よりも警戒しているのも確かです。

 これまでもテロは散発している中国ですが、強力な監視統治体制を持つ中国は、イスラム過激派にとっても手ごわい相手で簡単にはテロを実行できていない現実もあります。しかし、ウイグル族やチュルク語系イスラム教徒への弾圧が強まった今、ISが放置するとは考えられません。

 中国政府が監視体制を強化し、同化政策を今後も推し進めることは確実と見られることから、イスラム過激派が中国を標的とする可能性は、ますます高まっているといえそうです。