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 隣国の韓国経済の衰退や中国経済が減速する中、日本及び日本企業は今後、どうあるべきかに関心が集まっています。日本企業は1980年代後半から急速に成長した韓国に多額の投資を行い、アジア大陸への足掛かりの拠点を築き、中国進出を加速させてきましたが、今、次の判断が求められています。

 韓国は歴史的、地理的理由もあり、朴槿恵前大統領時代から強烈に中国に接近し、次ぎに登場した文在寅大統領は、北寄りの朝鮮半島統一を夢を見るのに忙しく、経済が分らない両大統領共に経済政策では失政を繰り返し、取り返しのつかない曲面に入っています。

 日本に育てられた韓国の技術を中国が吸収する速度があまりにも早かったために、韓国経済の牽引役のサムソン電子が頼みの携帯端末や半導体市場で苦戦し、減収が止まりません。その中国も経済成長が足踏み状態で、米中貿易戦争の圧力が加わる中、アメリカの同盟国である日本と東南アジアの覇権を巡り、激しい攻防が続いています。

 こんな状況の中、帝国主義時代のヨーロッパの状況と重ね合わせ、世界中に植民地を拡大し、日の沈まない国を築いた英国が、大革命で国の体制を変えたフランスとアフリカや東南アジア、中南米で覇権を争った時代を想起する日本の知識人は後を絶ちません。

 今も黄色いベスト運動で4か月も抗議デモが続くフランスを横目で見ながら、やっぱりブレグジットは正しい判断と思う英国人は少なくないはずです。経済が綱渡り状態のイタリアの混乱や、欧州に対して支配力を強めるドイツを見ながら、英国は「距離を置いた方がいい」との判断が下されているのも事実です。

 しかし、フランス大革命時代を含め、英国と大陸との関係を日本に重ね合わせるのは無理のある話です。それは文明という視点での話ですが、ヨーロッパは長い歴史の中で試行錯誤を繰り返しながらも、法治国家、民主主義、三権分立、基本的人権、社会保障、戦争のない欧州を希求し、文明を成熟させてきた文明国家郡です。

 日本は、かつては文明の栄えた中国を教師とし、明治以降は欧米に学びながらも、独自の文化を温存しつつ、外国の支配を受けず、高度な文明を手に入れた国で、そんな国は今のアジアにはありません。つまり、英国と大陸欧州は、古代ギリシャ、エジプト、キリスト教文明という共通のルーツと価値観の上に文明を成熟させたベースがある一方、日本とアジアにはそれはないといえます。

 アジアに似たような自然観、東洋精神があったとしても、共有できるような歴史的ルーツはなく、世界観、価値観に影響を与える宗教も乱立し、民族の種類も多く、2000年以上続く高度な文明国家は存在しません。特に日本の知識人の最も弱点といえる宗教への無知が、英国と大陸欧州の関係の誤読に繋がっていると思われます。

 日本人が理解不能な態度をとり続ける韓国に抱く違和感と、英国人がフランス革命を見て、フランス人に対して持つ違和感には大きな隔たりがあります。フランス革命の暴挙に出たフランスを見た英国人については、英国の政治思想家、エドマンド・バークの『フランス革命の省察』が知られていますが、英国、フランス両国は主権在民と君主制の間で葛藤する高度な議論が展開されていました。

 つまり、フランス革命の暴挙に対する英国の批判は、単なるわけの分らない野蛮なフランス人としてではなかったことは確かです。そのような状況は日本にも韓国や中国にも存在せず、ベースになるような共有できる価値観も宗教も存在しません。

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 大陸欧州と距離を置く英国に思い上がりがあると私は感じますが、日本の置かれている状況は英国とは大きく異なります。今、日本に大挙してくる外国人は、日本人が知らないだけで、日本が高度に発達した洗練された文明国で優れた豊かな文化を有しているからです。

 それを証明するのは、たとえば日本の隅々まで質の高い同じレベルのサービスと安全が保証されていることです。田舎に行けば野蛮な地域があるとか、近寄ってはいけない危険な地区があるということはありません。そんな国は世界にほとんどありません。

 つまり、日本の置かれている立場は、英国とは大きく異なります。英国が孤高の大国をめざしているといえば、フランス人やドイツ人、イタリア人でさえ「いやいや冗談でしょ」というでしょう。無論、経済の苦戦は別問題としてありますが、それはグローバル化がもたらしていることです。

 極東アジアを知るヨーロッパやアメリカの友人たちは「日本は、よく危険な地域に存在し続けているな」と私にいいます。日本人にそんな自覚はあるのでしょうか。

 私は、日本は一方でさらに洗練された文明国をめざし、弱点とされた幸福追求に力を入れ、さらに憧れの国になるよう努力すべだと思います。その一方で文明国は、文明の成熟していない国からの嫉妬で略奪などの標的になりやすいので、自主防衛の充実と日米同盟の強化を推し進めるべきでしょう。

 いずれにせよ「韓国や中国と適度な距離をおく」という消極姿勢ではなく、共有できる目標を見つける積極姿勢が必要だと思います。