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  2015年11月にテロが起きた当時のパリのバタクラン劇場前

 義理の妹のジャックリーヌは「今日の朝、役所に来た男性は真っ黒い髭を顎の下にたっぷり蓄え、身体の頑強そうな大男で、大声で話すから、一瞬、申し訳ないけどテロリストじゃないかと疑ったわ」と恐怖の体験を話してくれた。

 彼女はパリ東部郊外のルペルの市役所で、貧困者への住宅供給サービスの責任者をしていて定年を控え、この仕事も長いというのに恐怖を感じることが増えていると言っている。彼女が話した男はアフリカ・マグレブ出身のアラブ系移民で「家族も多いから大きなアパートが必要なんだ」と事務所中に響きわたる声で住宅を要求したそうです。

 一日に3人から5人がやってくるという状況だそうですが、実体は酷いものだと言います。「昨日来たスリーランカ出身の家族は、5年前に移民してきて、夫も妻も仕事もないのに無計画に毎年子供が生れ、4人子供がいるのにワンルーム(フランスではステュディオという)に住んでいて限界だというの。理解できない」とジャックリーヌは呆れている。

 彼女はもともとは左派の社会党支持者だったのが、今の仕事で移民に対するようになり事態が悪化していることを肌で感じ、今では少なくとも中道右派で、左派には絶対投票しないと言っています。「難民を受け入れるのはしょうがないけど、彼らにまともな仕事を与えられないのなら受け入れても国の負担が増すだけ」と指摘しています。

 フランスは11月1日で非常事態宣言が終了しました。2015年11月にパリ北郊外の国立競技場やパリ市内のバタクラン劇場で発生した130人が犠牲となる戦後最大規模の同時多発テロを受け、非常事態宣言が敷かれ、それでもニースで大型トラックが歩行者に突入するテロなどが発生し、6回も延長を繰り返してきました。

 マクロン大統領は非常事態宣言の長期化よりも、テロ対策を強化した新治安法を制定し、テロ対策にあたることを表明し、その時が来たわけです。しかし、折しもイスラム過激派組織、イスラム国(IS)が首都と宣言していたシリアのラッカが陥落し、戦闘地域にいた多くのフランス国籍の戦闘員が今後、帰国する時と重なってしまいました。

 最近、世界的に急増する一般市民を巻き込んだ無差別テロは、コンサートホールや歩道ムなどソフトターゲットを標的にISが広く呼びかけているテロ手段となっています。最近、ニューヨーク・マンハッタンで起きたトラックによる歩行者への突入テロは、ロンドン、ベルリン、パリ、ニースなどでも起きています。

 無論、ユダヤ教礼拝所のシナゴーグやユダヤ文化センター、ユダヤ人学校などを標的としたテロも起きていますが、非常事態宣言で警戒態勢が強化されているため、標的は一般人に拡がっています。それもローンウルフ型で一人か数人でテロ計画し、いきなり実行するケースが増え、当局を悩ましています。

 フランスの市民はテロに慣れているといいますが、こればかりは慣れなど役に立ちません。いつでもどこでも起きうる状況で、テロ実行者の写真が報道されるたびに「あんな人は地下鉄に乗っても、スーパーに行っても、山ほどいる」というのが市民の実感です。

 そのため互いの不信感は高まる一方で、フランスの手厚い社会保障を求めてやってきた移民や難民にうんざりしているのも事実です。これからクリスマスに向かい、テロが増える時期に差し掛かるため、口では「大した危険はない」とか「テロは何も対策しようがない」と言いながらも、市民の恐怖心は高まっているのも事実です。