マンチェスターのコンサート会場で起きた自爆テロは、世界に暗い影を落としました。インドネシアでも警官を狙った自爆テロが起きています。

 今後、ラマダン月に世界のどこかでテロが起きる可能性は極めて高い。テロ警戒レベルを最高位に上げ、非常事態宣言を出してもテロは止まりません。

 リビア人の親のもと、マンチェスターで産まれた青年が今回のテロの実行犯でした。父親や弟がリビアで逮捕されたようですが、逮捕直前の父親のコメントは、良心のかけらさえもないおぞましいものでした。

 リビアもシリアもイラクも独裁政権の圧政下で苦しんでいた国民の中から無差別テロもいとわないテロリストが育ち、圧政がなくなっった途端、彼らは活動を加速しています。

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 今やチュニジアに始まったアラブの春は、民主化どころか社会を極端に不安定化し、テロが頻発し、人々は苦しんでいます。パンドラの箱が開けられてしまったよう状況です。

 これが冷戦下であれば、2つの大国に押さえ込まれたのでしょうが、今は国連を含め、誰も彼らを押さえ込むことができない。

 イスラム過激派のテロの実行犯は、ほとんどが地元で育ったサイレント・マイノリティーで、差別と貧困に苦しみ、惨めな環境で育った若者たちです。

 豊かな白人たちがコンサートに浮かれている様を不快に思っていたことでしょう。アラブ人というだけで嫌われ、軽蔑され、社会の隅に追いやられていた人たちです。

 過激思想に走る者の中には裕福なアラブ人の家庭に育った者もいます。彼らもまた、白人たちとは平等な扱い受けていたわけではありません。

 人種や宗教による社会の亀裂は深まる一方で、テロの最大の温床になっている。問題は差別する側が、この問題に気付いていないことで無意識な場合が多いことです。

 アラブ系移民たちは、自分たちのコミュニティーを作るしかなく、社会に溶け込んでいるとは到底言えない。そんな移民家庭をいくつも私は知っている。

 しかし、差別する方の側もキリスト教の信仰から差別しているとも言えない。実は目一杯世俗化した堕落したキリスト教徒で、過剰に自由を求め、寛容さを口にするが偽善的にしか聞こえない。

 英国のモスクでは、説教者が平気で「腐敗した西洋文明」と批判している。自分たちの方が人間としての規範を守り、立派だと主張しいる。

 批判されている側の西洋人たちは自覚症状がなし、イスラム教徒を野蛮だと思っている。ヨーロッパで最も厳格なカトリック国と言われるアイルランドでさえ、同性婚が国民投票で合法化され、寛容さを強調しても信仰とは矛盾している。

 結局、宗教対立ではなく、世俗化が進みキリスト教精神を失った西洋と、あくまで信仰にこだわるイスラム教徒との対立になっている。

 そこに経済的差別が加わり、結果として過去のイスラム教の最も危険な部分であった武器をとって異教徒と戦うという精神が頭をもたげてくる。

 無論、正常なイスラム教とはかけ離れた精神ですが、キリスト教の側は十字軍的精神を持ち出すわけにもいかない。

 社会の隅に追いやられ、蔑まれるようなサイレント・マイノリティーたちに、狂気の聖戦主義が忍び寄り、死をも厭わない過激思想に走らせています。

 ホームグロウンのテロリストが誕生し、被害者意識のかたまりになった彼らは、静かにテロを準備する。

 彼らは簡単に言ってしまえば、社会の敗者であるかもしれないが、彼らに与えられた逆境は彼ら自身の手で変えることができないのも事実です。