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 8月に発売された雑誌「正論」9月号に「少子化対策先進国フランスへの幻想と真実」という原稿を執筆した。

 私が言いたかったことは、出生率の高さだけを見て、その国が途上国ではなく、先進国のフランスなので、日本の少子化対策に大いに参考になるのではというのは間違いだという事だった。

 今でも女性の権利や被雇用者が守られる国とのイメージが強いフランスだが、それは男性優位の窮屈な日本社会に生きる女性の片思いにしかすぎない。だから、フランスに憧れてパリに住み着いた日本女性が鬱病になったりする”パリ症候群”は、20年以上前から蔓延している。

 なんと今では中国人や韓国人の女性にも”パリ症候群”は広がっているそうだ。所詮、隣の芝は青く見えただけだった。自民党の野田議員などがフランスの家族政策を礼賛しているが、実態をほとんど分かっていない。

 私自身は民族主義者でもなければ、家父長制度を信じ、女性は家で子育てと家事だけやっていればいいなどという考えは毛頭ない。しかし、フランスの高い出生率が婚外子と移民の子供によって形成されている事実は、どちらにしても見逃せない。

 私にとっては、単身親の家庭や同性愛のカップル、移民が異なった文化を持ったまま暮らすという状況を完全に排除するつもりはない。人間には自分ではどうにもならない人生があるからだ。でもだからといって、 彼らが社会の多数派を占めるというのでは話が違う。

 人間はさまざまな事情を抱えて生きているので、それらを抱擁する懐の深い国家であるべきだろう。しかし、逆にだからどんな生き方をしてもいいという話ではない。それを認めれば最終的には人の権利を侵すことも平気な人間が現れてくるのは歴史が証明している。

 フランスで極右政党が伸長する現象を見て、「困ったものだ」という在仏の日本人は多い。なぜなら、彼らはフランスの伝統保守が何かを知らず、ミッテラン以降の左派が作ったフランスに憧れてフランスに住み着いたからだ。

 無論、フランスの家族政策の全てが間違っているとは考えていない。国家として家族政策に取り組んでいる本気度は日本よりはるかに高い。日本の少子化担当大臣はいつも窓際閣僚扱いだ。「正論」を読んでもらえれば、学ぶべきことと、そうでないものを見分ける必要が理解頂けると思う。