ロンドンで起きた暴動は4日が過ぎ、マンチェスターなど地方都市にも広がりを見せ、キャメロン英首相もヴァカンス先のイタリアを引き上げ、帰国して対策に追われています。英国のメディアは、1980年代にロンドン郊外などで起きた暴動と比較したりしていますが、この暴動の意味はもっと深刻なように思えます。 

 フランスで起きた2005年暮れの全国に広がったアラブ系移民の若者による暴動は、3週間続きました。車両放火は、全国で9071台にのぼり、パリ北郊外の路上で若者に殴打され、61歳の退職者の男性1人が死亡。一般市民約40人、警察官及び消防士45人、取材中のジャーナリスト3人、暴徒の青年35人が負傷しました。 

 暴動が終息に向った1117日までの逮捕者は、2921人で、最年少は10歳、このうち、357人が禁固刑を受け、その中の107人が16歳以下の未成年者でした。韓国人やロシア人など海外から取材に来たジャーナリストも負傷しました。 

 逮捕者の8割以上がアラブ系・アフリカ系移民、特にアルジェリアなどの北アフリカ・マグレブ地方出身者で、6割に逮捕歴があったといわれています。 

 今回の英国での暴動もアフリカ系黒人が目立っています。基本的に暴動の発生パターンは似ています。まずは警察が治安悪化の著しい大都市郊外の貧困地区で移民系の若者の取り調べや追跡を行っている時に、移民系の若者が警察により殺害される事件が発生し、それに憤激した若者たちが声をかけあい、警察署を襲ったり、あるいは商店街での破壊行為を行ったりして抗議するという流れです。 

 今回もそうですが、このような地区は日頃から、長期失業者や学校をドロップアウトした移民系の若者が、ドラッグや武器を密売し、窃盗や傷害事件は日常茶飯事で、不良グループ(欧州ではギャング集団と呼ばれる)同士の衝突も日常化しています。 

 私もパリ郊外の友人宅の窓から、警官と移民系の若者の衝突する場面を目撃し、駐車中の車からは火の手が上がっていました。今回のロンドンでの暴動では、娘が住んでいるイーリングで暴動が発生し、アパートの窓から騒ぎが見えると娘から電話がありました。 

 いろいろ暴動には原因はあるでしょうが、今回はキャメロン政権が打ち出す緊縮財政でますます移民系の人々が社会の隅に追いやられ、その不満が爆発したとも指摘されています。それも当たらずとも遠からずでしょう。日頃から学校や社会で差別を受け、そうでなくとも英国は階層社会という意味だけでの差別が存在するのに、移民には簡単な国ではありません。 

 それでも英国は欧州内では移民に最も人気のある国として知られています。フランスやドイツのように多文化共生主義を採用していない国では、移民はその国の文化や伝統を身につけ、同化することが強く求められます。英国のように在英のイスラム教指導者が広場で堂々と英国を「堕落した西洋文明!」などと批判することは、フランスやドイツでは考えられません。 

 一見移民にオープンな英国で起きた暴動には、私は2つの意味を感じます。一つは、社会への不満をこのような形で表現する状況に対して政府は、移民政策を含め、根本的な見直しが必要だろうということです。無論、商店からの略奪を行う若者のほとんどはギャング集団で、公平でない社会への抗議とは関係がありません。 

 ただ、このような犯罪集団を生み出すのも貧富の差や差別という極端な格差社会が原因になっていることは否定できません。また、移民系の若者が犯罪に手を染めることが多い現状からすれば、彼らへの教育も根本的に考える必要があるでしょう。つまり、民主主義の国では正統な自己主張の方法を抗議デモや政治活動で認めているわけですから、その手段を教えるべきでしょう。 

 もう一つは家族の崩壊です。これはBBCなども指摘していますが、不良化した若者の両親は、長期失業者であったり、離婚家庭が多かったり、扶養義務を完全に放棄している家庭も多いのが実情です。社会から見捨てられ、親から見捨てられた子どもたちの選択肢は多くはありません。 

 この問題は現在、多くの先進国が同様に抱える深刻な問題です。本来、家庭は高度な福祉機能を持ち、人々が幸福になるための基本的基盤となるはずのものです。そこが崩れれば、人はモラルを失い、差さえ合う精神も希薄になり、犯罪に手を出すことにもなりかねないのです。 

 インターネットで人と人とのコミュニケーションが密になったと言われますが、人が不満を爆発させ、怒りのエネルギーを集めるためにネットが使われるのは残念なだけでなく、非常に危険といえます。今は世界経済の先行き不透明で、政府はどこも緊縮財政に舵を切り、特に弱者には厳しい状況が訪れています。今後は暴れ回る移民達を不快に思う極右の若者たちが攻撃に出る可能性もあります。 

 この混乱は欧州に限ったことではなく、中東も国民が独裁政府への抗議行動をエスカレートさせるという欧州とは違った意味で混乱しています。世界全体がカオスの状態に陥る前兆のようにも見えます。果たして世界はどうなるのか、不安は世界に広がっているように見えます。