安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 北大西洋条約機構(NATO)が、ロシアを直接的脅威と位置付け、防衛態勢強化の方針を明確にする中、足元のヨーロッパ市民のウクライナ危機への意識は微妙に変化しているようです。欧州外交評議会(ECFR)の最新の調査は特にヨーロッパの東北諸国と西側諸国の温度差の開きを指摘しています。

 ロシアがウクライナに侵攻して4か月となるヨーロッパ内の8,000人を対象にした世論調査を6月15日に公表したECFRによれば、ロシア侵攻の最初の100日間、ヨーロッパの世論は政治的団結を示しました。しかし、戦争が長期化する中、その団結は明らかに弱っていると指摘しています。

 基本的に今でもヨーロッパ市民はウクライナへの強い連帯を示し、対ロシア制裁を支持していますが、どんな方法でも戦争を早期終結させることを望む平和優先派は全体の35%、ロシアを絶対に勝たせてはならず、厳しく罰するべきという正義派は22%と分かれています。

 正義派が平和優先派を上回っているのはウクライナの隣国ポーランドで、他の国は戦争の長期化による経済制裁の代価と核戦争へのエスカレートの脅威を心配する声は強まる一方ということです。当然ともいえますが、基本的に戦争の長期化を望んでおらず、ロシアを完全屈服するまで戦うべきという意見は低くなっています。

 実際、ウクライナ危機後、ウクライナへの軍事支援のために国防費を増額したのはポーランド、ドイツ、スウェーデン、フィンランドのみで、ウクライナに隣接する国々です。ただ、NATO首脳会議で対ロシアの防衛態勢強化が決まったことでヨーロッパ各国は国防費増額は不可避といえそうです。

 ヨーロッパ各国の政治指導者はECFRが指摘するように、正義派と平和優先派による分裂が起きないように新たな手を打つ必要性に迫られているということでしょう。物価高騰、エネルギ価格上昇や不足の事態はすでに始まっており、経済制裁の代価を払うことにどこまで耐えられるかが問われています。

 戦争が続く以上、武器供与と制裁は継続するしかなく、それは自国およびヨーロッパ防衛に不可欠ということを国民に理解してもらうことですが、容易ではないといえます。

 ECFRの調査結果で興味深いのは、ウクライナ危機をもたらした原因についてロシアがその最大の主因とする見方が強いのは、フィンランド、英国、ポーランド、スウェーデン、ポルトガルで、これらの国ではウクライナやEU、アメリカが原因と考えるのは10%以下です。

 逆にドイツ、フランス、ルーマニア、イタリアでは、ロシアが原因という見方は66%から56%で、ウクライナやEU、アメリカにも非があったという見方が18%から27%となっていることです。当然、彼らは制裁強硬派とはいえず、制裁の長期継続には後ろ向きなのが伺えます。

 後者は戦争が長期化すればするほど、戦争終結優先、制裁早期解除に世論が触れていく可能性もあります。すでにマクロン仏大統領、ショルツ独首相はロシアを追い詰めすぎることに懸念を示しています。

 表向き、自由と民主主義の価値観を守る戦いというメッセージだけで突き進めない現状があることが分かります。これでプーチン氏との根競べはできるのでしょうか。


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 あまり望ましい事態とはいえませんが、世界は今、ロシアや中国など権威主義の国の膨張主義の脅威に晒されることで自国の安全を守ることが必須の課題となっています。実際にロシアがウクライナに軍事侵攻して4か月を過ぎ、未だに出口は見つかりません。

 今、北大西洋条約機構(NATO)はメンバー国のみならず、日本を含むアジア太平洋地域の首脳も招いて、自由と民主主義の価値観を共有する国々の世界的防衛戦略を話し合っています。これは9・11同時多発テロ以降、初めての世界が脅威に晒されている現実を突きつけられているからです。

 NATO事態は今回、フィンランドとスウェーデンの加盟の道筋がついたことで、ヨーロッパの東側防衛強化に弾みが付きました。さらにNATOは対ロシアの脅威に対抗して、保有する軍装備の近代化を加速させ、ロシアに対する攻撃力が確実に強化されつつあると米ウォールストリートジャーナルは伝えています。

 特にドイツは連邦議会(下院)が6月3日、ウクライナ危機を受けた軍備増強に向け、国防費として1千億ユーロ(約14兆円)の特別資金を拠出するための法案を可決し、同国はNATO加盟国が目標とする国内総生産(GDP)比2%超に拡大することになりました。

 驚くべきは同国の国防費は過去20年間、GDPの1.1〜1.4%で推移し、近年ではトランプ前米大統領が国防費の低水準を批判しても、トランプ嫌いのメルケル前首相は頑として増額を拒否していました。この状況は日本が防衛費がGDPの1%を超えるかどうかで大きな議論を繰り返してきたのに似ています。

 国防費増額を打ち出したショルツ政権は社民党と緑の党という左派が主導する政権で、1970年代から反原発、反戦を旗印にしてきた政党です。皮肉にも彼らが戦争の脅威が身近に迫る中、国防費の増額を迫られ、夢心地の平和主義は潰えた形です。

 2月のロシア軍のウクライナ侵攻以来、ドイツは何度もウクライナ支援が十分でなく、特に武器供与が遅れていることが批判されてきましたが、当然ともいえることです。日本同様、戦後の戦勝国による封じ込め策で、自国防衛はNATO任せで防衛政策は常に後回しにされ、軍装備の近代化も遅れていたからです。

 とにかく77年間も国外の紛争に本格的に関わることを控えてきた日独の自主防衛意識は極めて低いわけですが、アジアと違い、ヨーロッパでドイツが国防費を増額し、軍装備を近代化することを警戒する国はありません。ドイツが膨張主義に転じる可能性は皆無に等しいからです。

 これまで欧州連合(EU)では、ロシアの脅威に直接さらされ、過去にはソ連帝国の支配を受けたバルト3国やポーランド、チェコが、東側防衛強化を訴えてきたのに対して、仏独伊はロシアへの脅威の認識度は低く、むしろロシアを刺激したくないという外交姿勢が明確でした。

 この温度差はロシアのウクライナ侵攻でリセットされようとしていますが、それでも西側ヨーロッパ諸国の平和ボケは治る気配がありません。NATO首脳会議で威勢のいい発言が目立っても、本心ではいつものようにアメリカ頼りで、各国首脳は自国の経済的ダメージばかりを心配しているのが裏の事情です。

 日本もドイツ同様、権威国の中国の覇権主義の脅威に晒され、いつ台湾有事が起きてもおかしくない状況ですが、選挙で外交や防衛政策が中心的争点になることはありません。この機に防衛費を増額し、軍装備のさらなる近代化を推進しようとすれば抵抗に遭うのは必至です。

 日米同盟が頼りですが、バイデン政権はウクライナへの財政、武器供与には熱心ですが、本格的な関与には後ろ向きです。むしろ中間選挙を控え、内向きの民主党支持の有権者のウクライナ支援疲れを読み、大義名分で自由と民主主義の価値観を守る姿勢を見せながらも、本気でヨーロッパを守る気配はありません。

 結果的に中国が台湾侵攻し、北朝鮮が南侵したとしても、本格的な軍事行動を起こすかどうかは極めて疑問です。

 かつてオバマ元大統領がシリアが化学兵器を使用するといういう1線を越えたら地上部隊を送るといいながら、実際に化学兵器を使用した段階で何もアクションを起こさず、なおかつシリアの化学兵器の処理をロシアに依頼したりしました。

 無論、今の時代に自主防衛が可能なのはアメリカ、ロシア、中国くらいです。だからこそ、地域の安全保障は国家間の防衛協力が不可欠です。その時にドイツのようにボロボロの使いものにならない兵器しかなく、他国を助ける能力もなければ、いったい誰が守ってくれるのかということです。

 今さら、平和幻想に囚われ、封じ込め時代を懐かしむ余裕はないはずです。ドイツは今、直面する外圧で平和ボケから脱しようとしていますが、日本はどうでしょうか。未だに中国は脅威ではないと主張する識者が少なくないのが気がかりです。主権国家への回帰は避けられないテーマだと思います。



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 28日に閉幕したドイツ南部エルマウでの主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、ウクライナ支援を継続的に行うこと、ウクライナ危機で深刻化する世界の食料安全保障への取り組みに、中国を除く世界で最も豊かな国々であるG7が45億ドル(約6,100億円)を追加拠出することで合意しました。

 さらに民主主義陣営のリーダー国として、中国の不公正な経済活動や人権問題なども改めて指摘し、民主主義陣営の結束を示すことも忘れませんでした。

 しかし、近年のG7がそうであるようにG7の影響力は低下しており、参加した首脳らは自国のウクライナ疲れが脳裏をよぎり、決め手を欠くものでした。6月23日からの欧州連合(EU)首脳会議、G7、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議と首脳会議が目白押しですが、決定的方向を示してはいません。

 今はロシアの不当な他国侵略戦争で毎日一般市民が犠牲になっており、富裕国首脳が談笑するG7の映像は、今の深刻な状況には似つかわしくないと感じたのは私だけでしょうか。戦争当事国ではないにしろ、第二次世界大戦終結に向けての主要国会議のヤルタ会談やポツダムでの会議の雰囲気は大きく異なっていたことでしょう。

 当時より、はるかに人権意識が高く、人の命を大切にする風潮が高まる時代に、G7の会議の最中にウクライナの首都キーウのショッピングセンターを爆撃され、ロシアに恐喝されたわりには、各国首脳の態度はゼレンスキー大統領が抱える恐怖と危機感からは程遠い印象でした。

 ゼレンスキー氏は映像参加し、ロシアをテロ支援国に認定すべきと訴えましたが、大国との継続的な関係を気にするマクロン氏は、テロ支援国とのレッテル張りを拒否しました。これこそが、今の西側大国の無力を表すものですが、ここで日本人が見落としがちなのは、アメリカへの認識です。

 今も資金面、軍事面で圧倒的にウクライナ支援を行っているのはアメリカで、プーチン批判をトーンダウンさせるマクロン氏が情けない発言をしても、フランス人の多くは仕方がないと思っています。つまり、英仏独伊加は1国ではアメリカに比べれば非力で大したインパクトを与えられないことを知っているからです。

 マクロン氏はウクライナ侵攻後、プーチン大統領と直接、あるいは電話などで最も話をした西側首脳ですが、フランス人の多くは私の取材では「プーチンにとってフランスは大した存在じゃない」という認識をよく聞きます。

 時には利用できる駒とフランスを考えているプーチン氏だとは思いますが、国際政治を動かすメインプレーヤーとは到底いえません。英国しかり、ドイツしかりです。

 つまり、アメリカがそう思っていないとしても、世界の現実はアメリカの存在が圧倒的に大きく、生協力が低下しているのはアメリカ人の国際問題へのコミット疲れとオバマ政権時の超内向きへの方向転換の影響といえます。

 そのアメリカのバイデン大統領が最も強調するのが「国際協調」です。裏を返せば責任の分散です。今回のような緊急時には国際協力が問題解決の鍵を握るという理屈になるわけですが、国際協調はいい直せば自由と民主主義の価値観を共有する国々がチームワークで対処するということです。

 耳障りはいいのですが、チームワークには弱点があります。それは責任の所在が不明確になり、参加するメンバーそれぞれのコミットメントが弱まることです。これはチームワーク理論で心理学の側面でよく指摘されることです。

 つまり「私が多少手を抜いても他のメンバーがやってくれるだろう」という心理です。対ウクライナ支援でも国のサイズに見合った規模でやればいいというのが、その典型です。

 ドイツのキール世界経済研究所(IfW)の報告では、各国のウクライナへの財政、人権、軍事支援額を比較すると、アメリカが圧倒的規模で、次いで英国、ドイツ、カナダ、フランスの順になっています。

 ところが、その規模を各国のGDP比で見ると1位はエストニアで次いでラトビア、ポーランド、リトアニアと続き、G7の国々はトップのアメリカは9位です。

 地政学的理由が圧倒的に多いわけですが、それでも経済的弱小国の負担はあまりにも大きく、大国は高みの見物という印象です。それもバルト3国やポーランド、チェコ、ルーマニアがロシアへの警鐘を鳴らし続けているにも関わらず、西側の反応はノロノロです。

 これが国際協調の結果です。大国は支援金額が大きく見えるためにコミットしているように見えますが、大して犠牲にはなっていません。フランスやドイツのテレビが「そんなにウクライナに武器を提供したら自国を守れなくなる」との懸念も伝えています。

 国際協調の前にすべきは、物事の優先順位を決めることで、それはリーダーに与えられた最大の責任です。ところがG7は優先順位を決めるほど機能しているとはいえません。これでは独裁国家に勝つことはできないでしょう。特にバイデン氏のリーダーシップのなさは深刻です。


 

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  ジュリアン・マラン(セス)のウクライナ戦争に抗議する作品(パリ13区)
 
 ストリート・アートは近年、世界中で存在感を増しています。それを後押ししているのは謎に包まれた路上芸術家バンクシーの存在。ストリートアートの特徴は公衆の目に触れる機会が圧倒的に多いことと、その無名性ですが、今では正体が明らかになっている作者も少なくありません。

 この欄で昨年3月にはPichiAvoデュオという2人組のアーティストによるパリに出現したフレスコ画を彷彿とさせる作品を紹介しました。落書きレベルを超え、本格的な壁画といえる作品でした。今、パリのストリートアートはウクライナ戦への抵抗をテーマとするものが急増しています。

 バンクシーも政治的メッセージの作品が多いように、ストリート・アートは公衆の目に触れるだけにメッセージ性は重視されがちです。無論、時に賛否両論の議論は巻き起こしますが、実はフランスの芸術家とウクライナとの関係は今に始まったことではありません。

 フランスも世界中の芸術家同様、ウクライナ危機で連帯を示すために、展覧会や作品売買の収益を寄付したり、ウクライナ関連のイベントを頻繁に開催したりしています。パリ市内ではウクライナ関連のストリート・アート作品をたくさん見ることができます。

 その代表格はアーティスト名、セスとして活躍しているジュリアン・マランの作品です。パリ13区のビュオ通りに面した壁に描かれた戦車を踏みつけながらウクライナの国旗を掲げて大股で歩く少女の絵のメッセージは明確です。

 彼はウクライナ東部の激戦地ドンバス地方を過去に訪れた時に得たインスピレーションで、図柄を思いついたと述べています。彼はいつも子供がモチーフです。

 2000年にパリの装飾デザイン学校を卒業し、フリーランスのイラストレーター兼グラフィックデザイナーとしてフランスのみならず、カナダ、中国、南米、東京などで仕事をしています。日本の宮崎駿の「千と千尋の神隠し」や漫画にも影響を受けたそうです。

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  クリスティアン・グエミーの手によるウクライナへの連帯作品(パリ13区)

 一方、ロシア軍がウクライナに侵攻した後の今年3月10日、パリ13区のドムレミー通りとパテー通りの角にある建物の壁に4階の高さの巨大な壁画が出現しました。

 ウクライナ国旗の配色の上に描かれた花の冠を被った少女像は、フランスでC215という名で知られる著名なストリート・アーティスト、クリスティアン・グエミーの手によるものです。

 彼は、ウクライナのゼレンスキー大統領が「自分の写真をオフィスに飾らないで欲しい。私は神でもアイコンでもなく、国に仕える下僕だ」という言葉に心を動かされたとそうです。ストリート・アーティストにとっては本来、無名性は重要です。

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 その他、ストリート・アーティストたちの発表の場となっているパリ13区ビュット=オー=カイユの丘では、3月8日の国際女性デーの日に女性ストリート・アーティストたちがウクライナの女性との連帯を示すための作品を発表しました。

 パリは長年、ヨーロッパの戦争難民の芸術家が住み着いた町だったので、戦争は芸術家にとって身近です。私もクレパス画で海の風景を最近描いている途中でウクライナのことが頭を離れず、ウクライナの国旗色で仕上げてみました。

 私にとってはウクライナの海のリゾート地オデーサは、好きだった映画「オデッサファイル」を思い起こすもので、その海岸が脳裏から離れません。いつも戦争に巻き込まれ、不幸が付きまとうウクライナに対してやるせない思いが沸き上がってきます。

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  最近筆者が描いたパステル画はオデーサの海岸がモチーフ


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 欧州連合(EU)は23日、ウクライナとモルドバをEU加盟候補国に格上げすることを決めました。それ自体は大きな一歩ですが、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「当然今後、厳しい審査を行うので何年もかかるかもしれない」と付け加えました。

 ウクライナへのロシア侵攻が始まって以来、最も国民性の負の部分が露呈しているのがドイツでしょう。オランダの人類学者ホフステードによれば、ヨーロッパの中でドイツは不確実性に極度の不安を感じる慎重派で、悪く言えば臆病な国民性を持っています。

 歴史的に戦争に明け暮れ、領土や民族間の争いが絶えない中央ヨーロッパの宿命ともいえますが、自己保身が人一倍強い内向きの国民性は、今回のウクライナ危機のような場合、とても指導力を発揮する国とはいえません。

 彼らは今、ロシアからの天然ガス供給が一方的に極端に削減されたことで、この冬を越せるかどうかで頭がいっぱいです。あくまでこだわってきた原発ゼロを年末までに達成するという執念は温存し、今では天然ガスよりはるかに温暖化ガスを排出する石炭発電復活に余念がありません。

 一度決めたことは守り通すといえば、高邁な精神に見えますが、変化の激しい現実への対応力は柔軟性が乏しいために弱く、ヨーロッパで最もIT産業育成が遅れた国でした。特にドイツに長年浸透した社会民主主義というイデオロギーへのこだわりも日本人の想像を絶しています。

 冷戦終結後の1990年代、当時、保守系国会議員でドイツ鉄鋼連盟会長だったルプリヒト・フォンドラン氏にインタビューした際、つい「社会民主主義が限界に来ているのでは」と質問して、憤慨させてしまったことを覚えています。

 彼は保守系にもかかわらず「社会民主主義は不動のイデオロギーだ」といいました。無論、それから25年以上が経ち、ドイツも様変わりしましたが、興味深いのはショルツ首相の出身政党である社民党は、彼らの平和理念から最もウクライナへの武器供給を嫌がり、ウクライナの欧州加盟にも後ろ向きだということです。

 むしろ、社民党より左と見られる連立政権の一角をなす緑の党はウクライナ支援で積極的で、EU加盟にも極めて前向きです。さらにはエネルギー政策で柔軟な姿勢を示しています。

 日本同様、敗戦国で戦後、平和思想漬けになったドイツは、戦争とは関わりたくないのは当然ともいえますが、今回の戦争はドイツに難民が押し寄せ、経済を直撃し、戦争危機さえ迫っているにも関わらず、平和ボケで現実対応能力がない姿を露呈しています。

 ウクライナ危機の長期化の要因の一つは、戦争の当時地域である欧州に、目立った指導者がいない事です。メルケル首相は特筆すべき指導者でしたが、ロシアと抜き差しならない経済依存を深めた責任は断罪すべきものがあります。

 ただ、優れた政治指導者は国民や世界に対して、どれだけ心を動かすメッセージを出せるかで決まることを考えれば、たとえば2015年にシリアやイラクから大量難民が欧州に押し寄せ、トルコの海岸に子供の遺体が打ち上げられている姿を見て、「放置はできない」といって100万人の難民受け入れを表明したのもメルケル氏でした。

 その後、受け入れ過ぎたイスラム教徒が様々な問題を起こし、ドイツ国民の批判を浴びましたが、それでも政治家としての指導力は評価すべきものがあります。今、心で国に方向性を与え、行動する指導者はヨーロッパ大国に見当たりません。

 これは新しいことともいえず、ヨーロッパが新型コロナウイルスに襲われた時にも露呈した問題です。2020年2月、もしEU指導者トップのドイツ人のフォンデアライエン氏がEU域外からの渡航者を完全に制限する決断をしていれば、230万人もの死者を出すことはなかったでしょう。

 規則と観念に過剰にとらわれるドイツ人は、目に前におぼれていて今にも死のうとしている人を見ても、まずは規則や観念で検討を始めるという側面があります。

 EU最強の国ドイツはEU内での言動で大きな影響力を持っています。エネルギー危機でドイツ経済が傾けばEU経済も傾くという現実を突きつけるドイツの態度は褒められたものとはいえません。

 私が最も懸念することは、今の欧州にウクライナ危機を早期に収拾させる指導力を持った指導者がいない事です。期待されたフランスのマクロン大統領も、ロシアに近いポーランドやバルト3国からすれば、クレムリンには弱腰です。

 EUの指導者たちはまた、ウクライナを経済的かつ軍事的に支援するという誓約を繰り返しています。ところがウクライナにいわせれば、要求した武器の10%しか届いていないといっています。モスクワの軍事攻撃が長引くほど、EU内およびより広い西側同盟国内で統一行動を維持することが難しくなるはずです。

 一方英国人は今、ブレグジットしたことの利点を享受しています。なぜなら、伝統的なEUの大国であるドイツ、フランス、イタリアよりも、ボリス・ジョンソン首相とリズ・トラス外相の方がロシアに対して非常に率直に発言しており、国民の合意も得ているからです。

 パリやベルリン、ローマの指導者は囚われた多国化間主義の観念と戦争後のロシアとの関係を気にしすぎて、ロシアとの敵対関係は最小にしようとしています。過去に宥和策で成功した試しもないのに、EUの指導者は腹が座っていません。

 それにEU西側大国の指導者は国内で支持を失いつつあり、このままロシア制裁を継続できるかも怪しくなっています。さらにウクライナでの紛争が広がり、核兵器使用への懸念も高まり、ますますEU指導者は臆病になっています。

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 Z世代に個人的に興味を持っていますが、彼らが嫌いな言葉は「義務」だそうです。ある時、「1度しかない人生だから意味のある人生を送る方がいい」とZ世代の若者にアドバイスしたことがあります。
 すると彼は「意味」を「意義」と聞き間違えて、「なぜ、意義のある人生を送る必要があるんですか。僕は意義なんてどうでもいい」と激しく反発されました。話を聞くうちに義務という言葉に拒絶反応があることが分かりました。

 つまり、「べき論」で、意義はプレッシャーだというわけです。人間どう生きるべきかという話は苦痛でしかないわけです。それはハードルが高く、ピンとこないことを無理やり押し付けられ、自由の制限、自分の気分を制限することに繋がるからでしょう。

 無論、彼らも30歳過ぎれば、社会の厳しさの前に屈して飼いならされていくのかもしれませんが、無理なものは無理という若者も増えています。原因の一つは親の世代が幸福に見えないために親の世代に説得力がないからともいえます。

 日本人を観察すると、明らかに義務感、使命感で生きる人生観は変化しつつあるように見えます。自分の声に耳を傾ける若者は増えているといえます。しかし、自分が追求する満足感が浅ければ、30過ぎたら、もともと免疫力がないので社会に飲み込まれてしまうでしょう。

 そもそも追求する満足感自体が自分を掘り下げるものではなく、気分でしかない場合、うつろいやすく、意味のある人生にはならないでしょう。ただ、最初から義務感を前面にした貧しい人生観が消えつつあるのはいいことと個人的には思っています。

 コロナ禍、ウクライナ危機、インフレ、エネルギー価格高騰など、景気後退の予兆は世界中で見られます。先行き不安は世界中の若者を襲っており、終身雇用が消えた日本では、転職が当たり前でサバイバルに生きていく教育も訓練もない若者は哀れというしかありません。

 アメリカを中心としたインフレ抑制のための政策金利引き上げが主流の中、日本の場合は金融緩和策を継続していますが、日本経済を再生させる鍵は日本的商習慣と労働慣習の全面的見直しでしょう。これが若者に希望を与える鍵を握っています。

 この10年間、日本企業の衰退を指摘する声は消えていませんが、それを感染症や戦争、為替のせいにするだけでは衰退は食い止められないのも事実です。世界中どこを探しても現状維持が危機を乗り切る鍵と思っている国や組織はありません。「このままで大丈夫」は終わりを意味するでしょう。

 バブル崩壊後の30年、マイナス成長や低成長は先進国入りした国の運命でもあるわけですが、ならば社会は成熟し、人々の生活は豊かになったかといえば、未だに自転車操業を続け、過重労働、長時間労働で危機を乗り切ろうという考えが亡霊のようにしつこく徘徊しているように見えます。

 必要な改革に影響を及ぼす多様性は、村社会の日本では新しいテーマですが、村という枠組みを出る勇気をなかなか持てないのが現状です。働き方改革の鍵を握るのも多様性で、ジェンダーやさまざな人種の人々が魅力を感じ、満足感を与える職場づくりは喫緊の課題です。

 スキルアップ、キャリアップも重要ですが、楽しんで仕事をすることも重要です。それも継続性のないその場しのぎの楽しみではなく、感動や喜びを継続的にもたらす職場の創造が求められています。アメリカの強さは世界一幸福追求度が高いからだと思います。

 継続的に自分を満足させる鍵は、自己中心的な気分ではなく、人や社会のためになることで感謝され、循環するものです。べき論に苦痛を感じるのは目標がないからで、目標を達成する喜びを追求するなら義務感はモチベーションに変わるはずです。

 義務意識が嫌悪を生んだのは、「何のため」という目標が抜け落ち、手段が目的化したからだと思います。Z世代を活かすも殺すも大人世代の責任です。自分の声に耳を傾けると同時に制限された環境で自分を満足させる術を身に着けるのが大人になることを教えるのも社会です。

 そうでなければ、Z世代は自己中のまま何の役にも立たない将来を潰す存在になるリスクもあります。その意味で日本は大きな岐路に差し掛かっていると強く感じています。



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 国民連合総裁を辞任し、議会に集中するマリーヌ・ルペン氏

 フランスは4月の大統領選挙に続き、国民議会(下院=577議席)選挙を19日に終え、今後5年間の政権体制が決まりました。20日の仏内務省の発表では、マクロン仏大統領率いる中道の与党連合が245議席を獲得し、最大勢力になったものの過半数に届きませんでした。

 一方、第2勢力となったのは133議席を獲得した左派連合、次が何と過去には極右だった右派の国民連合(RN)で89議席を獲得し、歴史的躍進となりました。棄権率が53・77%と高かったのも今回にお選挙の特徴でした。

 5年前の選挙で8議席を獲得した国民連合が10倍以上の議席を獲得したのも、過半数を得る政党が下院でいないのも1958年からスタートした第5共和政始まって以来。マクロン氏は自らが設立した中道の共和国連合(REM)を足掛かりに、政治家改革を進めてきたのが足踏み状態に陥った形です。

 とはいえ、既存大政党が破壊された前回選挙で衰退した政党が復活したわけでもありません。右派側は、歴代大統領を生んだ中道右派・共和党(LR)は100議席以上あったのが61議席に減らしました。オランド大統領などを輩出した社会党とも左派連合に加わり命を保つ状況です。

 結果として第2期マクロン政権の政権運営の不安定化は避けられず、LRの協力が不可欠な情勢となりました。5年前の選挙で308議席を獲得し、単独過半数の圧倒的勢力を獲得したREMは、この5年間、マクロン氏の主導する労働法改正や国鉄(SNCF)改革などを次々に断行しました。

 しかし、後半は反政府の黄色いベスト運動が長期化し、その間に議員の離党などでREMは過半数割れしていました。2期目のマクロン政権の船出は厳しいもので議会で法案を通すにはLRの協力が不可欠です。

 一方、左派は急進左派のメランション氏が4月の大統領選で善戦し、第一回投票で3位につけたことから、劣勢の社会党などを巻き込み、左派連合を結成し下院選挙を戦いました。結果は過半数には大きく届かなかったため、メランション氏の首相指名はなくなりましたが、左派連合の存在感は増した形です。

 今回、89議席を獲得したRN率いるマリーヌ・ルペン氏は4月の大統領選の決選投票でマクロン氏に敗北したものの、過去最高の得票数で下院選にも手ごたえを感じていたと伝えられます。政権政党をめざすRNのトップだったマリーヌ・ルペン氏は党首を辞任し、議会に専念するそうです。

 与党連合は最大勢力を維持したものの、5月に発足したばかりの新内閣で、ブルギニョン保健相ら閣僚3人が落選し、交代を余儀なくされています。

 ウクライナ情勢悪化に対処するため欧州連合(EU)でリーダーシップを発揮したいマクロン氏は、今週末から来週にかけ、EUとNATO首脳会議を控え、安定政権確保をめざしましたが結果は厳しいものでした。

 第5共和政始まって以来、過半数を占める政党がない新たな状況になったわけですが、考えてみれば、多くの先進国が1党で過半数を占めるのは英国ぐらいで、他の国は連立で政権運営するしかない状況が普通になっています。

 フランスの大政党の衰退は、長年政治課題だった景気回復と失業問題が解決できなかったからですが、金融界出身の39歳のマクロン氏に任せてみたら、今度は金持ちや大企業重視で独裁ぶりが目について、国民の不信を買った形です。

 結果的に極端な主張をするポピュリズムの国民連合やメランション率いる左派連合に一定の支持が集め、フランス政治は迷路に差し掛かったようにも見えます。

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 北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、独紙ビルト紙上で、ウクライナでの戦争は「数年間続く」恐れがあると警告しました。NATOトップの認識がウクライナ危機の終息は短期では困難という認識を示した以上、長期化の可能性が確実に高まっているということでしょう。

 すでに米欧首脳は「ロシアを戦争で勝たせるべきではない」という認識を明確にしており、同事務局長は、ウクライナの最前線に最新鋭の重火器の供給がさらに必要と訴えています。

 NATOからウクライナを守ることを大義名分化してウクライナに侵攻したロシアと西側の戦いは、双方ともに妥協は選択肢にないように見えます。

 そもそもNATOは旧ソ連時代からのロシアの脅威に備えた軍事同盟なので、ロシアの暴挙を容認する選択肢はありません。ロシアがポーランドやバルト3国などNATO加盟国に軍事侵攻すれば、全面戦争は自明の理です。

 西側はロシアの暴挙を見逃す気はなく、全面戦争は回避しながらも妥協もしない戦いです。

 今のところ、西側による経済制裁は大きな効果を生んでいるようには見えません。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は「ロシアに対する制裁は、エネルギー価格高騰という予想外の恩恵によって相殺され、十分な経済的痛みを与えられずにいる」と指摘しています。

 さらに「ロシアの戦争遂行努力を妨げ、プーチン大統領を交渉の席に着かせる狙いはうまくいっていない」とも書いています。ただ、ロシアがこの制裁にどこまで耐えられるかは疑問ともいっていますが、中東、アフリカ、インド、中国、南米は制裁に加わっていません。

 もう一つわれわれが直面しているのが、世界経済が景気後退局面に入っているということです。最新の調査では、アメリカの経営幹部の15%が事業を行う地域(国外を含む)が景気後退に直面している考えており、60%以上が1年〜1年半以内に景気後退入りすると予想しているとの結果も出ています。

 インフレ上昇を食い止めるためにアメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は金利引き上げに動いていますが、景気後退入りが本格化すれば、金利引き上げ策の変更を迫られるのは必至です。

 エネルギー価格もロシア依存度を急速に減らすための供給元確保及び輸送体制を整備するのに時間が掛かります。石油や天然ガスへの依存度を下げることは地球温暖化対策の柱ですが、代替えエネルギーへの意向を加速する必要もあります。

 ウクライナ危機で小麦粉などの国際輸送が極端に制限されている中、すでに食糧危機があちこちで起きています。グローバル化で抑えられていたモノの価格が上昇し始めており、世界的景気後退も確実なように見えます。

 コロナ禍でグローバル化のデメリットがある程度リセットされたといえ、まったく十分とはいえず、米中貿易戦争も集結したわけではありません。コロナ禍で受けた経済的システムへのダメージに戦争と景気後退が襲う状況です。

 しかし、危機はチャンスでもあるのも確かです。トランプ前米大統領が対中強硬姿勢を示さなければ、今頃は全米に中国式社会主義が浸透し、多くの企業が中国に買収されていたでしょう。

 ウクライナ危機も景気後退も、溜まっていた膿を出すことに利用すべきでしょう。この機会に覇権主義、権威主義の妄想を世界から完全に一掃できないとしても、大国に諦めさせるきっかけになることを願うばかりです。



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 はっきりしていることは、ウクライナへ軍事侵攻したロシアが欧米諸国に強く要求していたNATOおよび欧州連合(EU)のロシア側へ拡大しない保障は、完全に否定されたことです。これは交渉術でいえば、譲歩を引き出すためのドア・イン・ザ・フェイスの失敗ともいえます。

 ドア・イン・ザ・フェイスは、最初に相手が呑めないハードルの高すぎる要求を突きつけ、その要求を断った相手が多少申し訳ないと思う心理を利用して、2番目の要求を呑ませるというものです。譲歩を引き出すように見えて、実は2番目の要求が本来の目標という心理作戦です。

 この交渉術はビジネスマン大統領が何度も使った外交手法です。特に北朝鮮や中国に対して使われたように私の目には移りました。

 しかし、この交渉アプローチは一歩間違えば、ヤクザの恐喝手法と同じです。プーチン露大統領の姿勢は譲歩を引き出すどころか腕力で最初の要求を呑ませようとしているからです。これは今後の中国の台湾軍事侵攻や北朝鮮の暴発への懸念にも繋がる話です。

 ロシアの脅しは過去においては効果をあげていました。それが顕著だったのがドイツやフランスの対ロシア外交です。つまり、アメリカと並ぶ核兵器保有国のロシアを刺激しないためにウクライナやモルドバをEUやNATOには加盟させない緩衝地帯に置くことでした。

 しかし、状況はロシアのウクライナ侵攻で今、激変しています。16日にウクライナを訪問したEU主要国の仏独伊首脳がウクライナのEU加盟の候補国として承認することを支持したからです。ウクライナを候補国に格上げするには加盟27か国の全会一致の賛成が不可欠ですが、仏独伊の意向は重要です。

 マクロン仏大統領とショルツ独首相、ドラギ伊首相は夜行列車で同日朝、ウクライナ入りし、最初に侵攻後に激戦地となったキーウ近郊のイルピンを訪れ、被害の惨状を直接視察しました。

 マクロン氏は「ここは勇敢な町だ」とし、ウクライナ軍を讃え、「野蛮な攻撃の跡がここには残っている」と述べました。その後、ウクライナの隣国のEU加盟国、ルーマニアのヨハニス大統領もキーウで合流し、4人のEU首脳は、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談しました。

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 会談後の共同記者会見でマクロン氏は、EUの4か国がウクライナの「即時」加盟候補国入りを支持すると言明。ショルツ氏は「ウクライナは欧州の家族の一員だ」と述べ、同国への武器供与を「必要がある限り」続けると約束しました。

 ドラギ氏も「われわれの訪問の最も重要なメッセージは、イタリアがウクライナのEU加盟を望んでいることだ」と述べ、EU4か国首脳は、ロシアが苛立つことを念頭に軸足を完全にウクライナに移しました。

 これに先立ち、EUの欧州委員会のフォンデアライエン委員長も6月11日、突然にキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領とEU加盟について話し合い、「私たちは、ウクライナの欧州への道筋を支援したい」「今日行われた話し合いで、来週末には評価を確定できるだろう」と伝えていました。

 その発言を考えると4首脳がウクライナでEU加盟候補国に格上げすることを支持したのはスケジュール通りだったのかもしれません。

 興味深いのは、欧州議会のロベルタ・メツォラ議長がフォンデアラエン氏のウクライナ訪問前日に「ウクライナは、われわれ欧州のプロジェクトに参加する真の可能性を得るときではないか。私が議長という名誉と責任を負う欧州議会は、ウクライナのEU加盟候補国としての申請を強く支持している」と発言したことです。

 ここで強調されている自由と民主主義を価値観の進化、拡大をめざす「欧州プロジェクト」にウクライナは参加する条件を十分に満たしているという認識です。これはマクロン大統領が提唱する「欧州政治共同体」構想にも繋がるものです。

 今回のEU4か国首脳訪問については、ゼレンスキー氏がロシア侵攻後、同氏の度重なる強い要請にもかかわらず、EU主要国であるフランスとドイツが武器供与で曖昧な態度を取り、特にドイツが迅速に行動していないことに何度も不満を表してきた背景があります。

 ショルツ首相も国内の与野党勢力から行動の遅さに批判が集中していたため、今回のウクライナでの武器供与の明確な意思表明は、対ウクライナだけでなく独国内での批判をかわす効果があったと仏独メディアは報じたくらいです。

 EU加盟をめざすゼレンスキー氏は、ウクライナはEU加盟に向けて準備ができているとし、期待を表明しました。

 ショルツ首相は加盟を歓迎しつつも、「多くの加盟条件をクリアするため、時間はかかる」との認識を示しましたが、ウクライナが2月に加盟申請して4カ月後、仏独伊が支持を表明したのは異例の速さ。

 ゼレンスキー氏は今回のEU首脳のウクライナ支援の意思表明は歓迎しつつも、ロシアの継続的な侵略を「統一されたヨーロッパに対する」戦争であると説明し、追加支援として重火器や最新鋭の大砲、対空防衛システムなどの提供を期待していると記者会見で述べました。

 ブレグジット後のEUは、結束が一つの大きな課題になっています。ロシアのウクライナ侵攻はEUを大きく変えようとしています。ここでウクライナのEU加盟候補国の協議で、最近、反対が多いハンガリーやウクライナ加盟に慎重なオランダ、デンマークが賛成しなければ承認は成立しません。

 ただ、ロシアから見れば、ウクライナがEU加盟候補国になることを支持したフランス、ドイツ、イタリア、ルーマニアは敵国として明確に位置付けられたともいえます。

 世界の最大の関心は戦争終結です。欧州は危険を承知で大きな賭けに出ようとしています。ただ、ロシアにひるむ兆しは何も見えていないのも事実です。一線を越えたプーチンは居直るしかない状況に見え、唯一、政権の自己崩壊を期待するしかないようにも見えます。



Leader

 約15年前、某日系大手自動車メーカーのフランスに駐在する日本人社員を集めた研修を担当しました。全員ホワイトカラーで将来が見込まれる30から40代で、フランス人との協業に苦労していました。受講者の1人の発言は、今でも忘れられない日本のリーダー観を象徴するものでした。

 それは「わが社では、職位が上がるほど楽になるという一般的イメージがあります」というものでした。一方で旧財閥系の大手日系電機メーカーのフランス工場に勤めていた日本人社員から「うちは社長になると、あまりに仕事がハードで退職後5年以内に死んでいます」という話も聞きました。

 両極端な話ですが、両者ともに似ていたのは、トップが支社や生産拠点を訪れると幹部は総出で接待に当たるという慣習があることでした。日本のリーダーシップは未だ完全には権威主義を脱しておらず、リーダーになる人々から、それは地位ではなく役割だと意識転換されていない場合も多く散見されます。

 私は個人的にカルロス・ゴーン元日産会長が背任行為や不当な報酬水増しで起訴された原因について、フランスの極端な中央集権的体質と日本の御神輿経営の権威主義がトップの堕落とモンスター化をもたらし、会社の私物化に発展したと分析しています。

 この権力集中や権威主義が生み出すリスクはどんな組織にもありますが、唯一そのリスクを回避する方法として、社外取締役による監査、ガヴァナンスの強化、そして決して同じ人間に長期に権力を与えないというのがあることは一般的によく知られています。

 フランスで始めてできた日仏経営比較を専門に学ぶ国立レンヌ大学日仏経営大学院で初代学長を務めたピエール・デュラン教授は「日本のリーダーはうらやましい。フランスでは成果を出せなかったり、不祥事を起こしたりしたが、厳しく責任を追及される」と私にいいました。

 大企業の不祥事で責任が曖昧になる例は枚挙にいとまがありませんが、そもそも意思決定プロセスが不明確で責任の所在が個人に集中していません。そんなリーダーを西洋から見ればうらやましいとも見てとれるという話です。
 
 権威主義の弊害は、今やプーチンや習近平の独裁によって証明されているので、権威主義のデメリットは省くにしても、権威主義が地位ではなく、人々の尊敬の上に成り立っている場合は組織に対するエンゲージメントを引き出す効果もあります。

 日本で長年、リーダーは地位と認識されてきました。その地位に対するイメージが日系自動車メーカーの中間管理職の発言だったともいえます。今、世界中のビジネススクールで強調されているのは、組織の先頭に立って見本を示し、部下を支援するリーダーシップです。

 それがリーダーの役割であり、責任だからです。担がれてやる仕事ではありません。日本も地位から役割にリーダーの意識転換がされている企業は増えていますが、大企業、それも旧財閥系企業の意識改革は進んでいません。

 それを象徴するのが年功序列です。役割ならば叩き上げとか経験よりも能力が問われるところです。フランスで史上最年少で閣僚になったアタリ前政府報道官は33歳です。トップリーダーが地位ならありえないはずです。

 それと一旦高いポジションに就いた人間が、低いポジションに就くことも日常起きうる欧米の組織と違い、地位は上への一方通行というのも権威主義を象徴しています。

 とはいえ、日本にもいつも社員のことを考える優れたリーダーもいます。社内外に対して為に生きるリーダーもいます。結局はそんなリーダーがいる会社や組織は成果を出し、成功している事実を見ることができます。

 リーダーは地位ではなく役割という観念を持つ重要性が増しています。
 
  

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  フロリダ・セントピータースバーグの一軒家

 個人的に関心のあるテーマの一つに街づくりがあります。世界どこへ行っても街づくりがどうなっているかは必ずチェックし、ついでに不動産情報も見ています。たとえばアメリカ・フロリダ州はアメリカ人が憧れる気候風土があり、人はどう住み、どう働いているかが興味をそそりました。

 タンパという町はビジネスセンターとして発展し、高層ビルが立ち並んでいますが、周辺にはプール付きの広い庭の一軒家が多く点在しています。通勤圏内にはセントピータースバーグという高級そうな住宅街があります。

 案内してくれた州政府の人は「自分も将来、この町に住めるようになりたい」などといっていました。フロリダには、保険会社などが提供するリタイヤした人々がフロリダで豊かな老後を過ごすための町があったりします。住む人は公共スペースの清掃や自警団の義務もあったりします。

 道路で結ばれた孤島のキーウエストも別荘やリタイヤ組の家がたくさんあります。富裕層の憧れの場所の一つですが、不動産の資料で1億円〜2億円の間でプール付きで広い家が買えます。空港もあるのでどこへでも行けます。

 アメリカは貧富の差が大きいので富裕層は広大な敷地に豪邸が立ち並ぶエリアに住み、中間層、貧困層は別のエリアに住むケースが多いのも事実です。しかし、最初から民主主義の国なので街づくりも民主的に行われています。

 ところが、もともと階層社会の英国では労働者階級が住む長屋風の家が立ち並ぶ姿をよく見ます。富裕層は別のエリアに住んでいます。ロンドンにはトラファルガー広場やビッグベン、バッキンガム宮殿など国家の栄光、権力者の威光を表す建物が点在しています。

 今、われわれはウクライナの街並みが次々に破壊される姿を毎日見ています。ウクライナもロシアも街づくりの基本はヨーロッパと同じです。それは都市における構築文化によるものです。

 政治に重要な役割を担った広場、効率的な経済活動のインフラ、水道や下水などの生活インフラ技術、そして都市全体が統一的にデザインされ、大聖堂やオペラハウス、美術館、博物館が計画的に配置された都市の美が加わり、繁栄する文明が構築されています。

 これはもともとエジプトの宮殿やローマに端を発した土木技術によって実現した権力者の権威と栄光を表現する伝統からきたものです。ヨーロッパでは国王に権力が集中していた君主制の時代に比べ、民主主義になって都市は個性を失ったといわれています。

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  パリのオスマン大通り

 パリは19世紀後半からナポレオン3世時代、オスマンによって断行された都市計画によって、今もパリができたといわれています。ナポレオン3世は国王ではありませんが、意思決定は今の民主主義のシステムより、はるかに単純で王政時代からの街づくりの伝統もあったのは事実です。

 大規模なプロジェクトに気の遠くなるような煩雑な手続きは必要ない時代です。権力者がお気に入りの都市づくりの専門家や建築家にデザインさせ、国家の繁栄を誇る目的で設計されました。

 興味深いのはパリは職住一体型の都市だということです。今、東京でもビジネス街にもタワーマンションが乱立し、職住一体のパターンもありますが、昔は多摩ニュータウンなど都市からかなり離れたところに住むのが主流でした。

 都市づくりで欧米の町々を取材して思うことは、民主主義の恩恵もあって庶民にとっては住み心地の良さが際立っていることです。自分の家がどんなに住み心地が良くても、周囲が無秩序で騒音や美的には顔をしかめるような街並みがあれば、住み心地がいいとは到底言えません。

 私は街づくりは机上で作られるものとは思っていません。つまるところ人間が作り出すものだと思います。社会的階層が明確だった江戸時代、大名が住む豪邸と庶民が住む長屋で住み分けされていた時代の方が街に秩序がありました。

 貧富が混在する現代の大都市で、相続税を含む経済効率から本来あった100坪以上の敷地のある住宅が3つに区分けされ、小さな家が乱立し、開発計画で高層アパートが建つことで戸建ての落ち着いた住宅街が激減しています。

 大衆中間層の増加によって窮屈な街並みが東京に広がるようになりました。パリでも1970年代に人工的街づくりをした結果、たとえば15区のセーヌ川沿いのボーグルネル地区にできた高層アパートとショッピングセンターの組み合わせは失敗に終わり、大改造されました。

 机上で観念的に作ったモダンな街づくりは不評でした。決定的に欠いていたのは人の多様性と動きに関する意識が乏しいことでした。空間が人間に与える影響は極めて大きなものです。

 結局、権力者を処刑し、共和制を敷いたフランスを見ると権力者がいた時代の方が街づくりは芸術性を含め、見事です。なぜなら町は権力者の芸術作品だったからです。民主主義は貧富の差を縮め、平等社会になった一方で、私権のために一貫性やト―タルなデザイン性確保は困難になっています。

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 もう一つ、西洋と日本のアプローチの違いもあります。西洋は演繹的で概念やトータルなヴィジョンを重視し、日本は帰納的で個を積み上げていくアプローチが一般的です。

 当然、統一性はなく、都市自体が芸術作品になる可能性はほとんどありません。さらに経済効率があくまで優先されるので、普遍性や永遠性はなく、その時うまくいっているビジネスが街づくりに優先されます。

 日本橋という日本の起点にもなり、歴史的に重要な価値のある橋の上に高速道路を建設する暴挙は、経済性重視の象徴です。美しい瀬戸内はリゾートの宝庫のはずなのに、経済優先で臨海工業地帯となり、美は破壊されています。

 日本は中間層が厚いことで平等社会を築きましたが、旧大名屋敷は大学や公園、ホテル、公共機関の建物になり、面影はありません。

 無論、権力者の圧政に苦しむような社会は誰も望んでいませんが、街づくりを単に経済の効率性だけでなく、芸術性や住み心地の良さを追求すべきではないでしょうか。

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  ちなみにフランスの美しい村々も抜群に住み心地がいい

                                      

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 われわれは、コロナ禍で地球上に住む人間すべてが同じ体験をする珍しい体験をしています。以前、取材した自然しかないようなアマゾンの奥地に住む人々でさえ、マスクをしている姿に驚かされました。そして、今度は独裁者が他国への軍事侵攻の暴挙に出る状況を全ての人類は目の当たりにしています。

 この暴挙は他の権威主義の国へ連鎖する可能性もあり、世界中、さまざまな地域でコロナ禍に次ぐ危機が迫っています。コロナも最初はそれほどの危機感を持たなかったわけですが、戦争の危機も実際に起きてみるまでは危機を感じないようです。

 バイデン米大統領は最近、アメリカがロシアの軍事侵攻を2月24日のウクライナ侵攻より、かなり前にウクライナに警告したにもかかわらず、真剣に受け止めなかった発言したことが報道されています。

 この発言はまったくの責任転嫁で、むしろバイデン氏が「ロシアが侵攻してもアメリカは軍を送らない」と発言したことこそ、プーチン露大統領にゴーサインを出したといえます。

 それはともかく、誰でもリスクは避けたいものです。リスク分析は科学的アプローチだけでなく、それを感じる研ぎ澄まされた感性が必要です。今回のウクライナ危機は、あらゆる専門家の指摘を分析しても、プーチンの独裁的決断と彼の私怨がかなり影響していることは明白です。

 独裁はリスクであるだけでなく、敵視すべきものです。なぜなら独裁者の支配による弊害の歴史的教訓から民主主義が生まれたからです。では民主主義はどう機能するかといえば、権力を持つ者が独善に走らないために批判的精神を持つことです。

 無論、批判のための批判や私怨は何も産み出さない破壊行為ですが、目的観を持った批判、つまり、より良い結果を導き出すための批判は重要です。それは組織にとどまらず、個人の中でも目的意識を持って自分自身を批判することは重要です。

 そして、このクリティカルシンキング(批判的思考)の核を成すのが、優れた質問を投げかける能力といわれています。優れた質問は、謙虚さをべースにしながら、自らの好奇心と真摯に向き合い、相手の話を傾聴し、問題を掘り下げていく中で生まれるといわれています。

 難問解決には、情報収集だけでなく、深い分析が必要です。しかし、それは袋小路に入ったり、結果として独善に陥り、最悪の結果をもたらしたりすることもあります。

 そうならないためには深い思考が必要で、その手助けになるのがクリティカルシンキングを支える質問力といわれています。

 日本人は一般的に批判精神は西洋人に比べてないといわれています。理由は和を持って尊ぶことが優先され、人間の関係性が険悪なる恐れのある対立を悪と考えていることがあります。

 同時に議論する時に何かより良い結論を出すという目的意識よりも、発言者個人の人間の優劣に意識が行く傾向も考えられます。

 クリティカルシンキングが効果的に行われるためには、自分や相手を潰してしまうような批判は絶対に避けることが重要といわれています。あくまでも事態を改善する目的から離れないということです。

 人間は間違いを犯すもので反省し、正確に分析し、教訓にすべきであって自虐的になっても意味はないからです。

 たとえば、日本には謝罪文化があって、失敗した部下が上司に謝罪することは頻繁に起きますが、アメリカでは「謝るのは弱さの表れ」といいます。

 「謝るくらいなら改善策を示せ」という訳です。上司に謝っても事態は何も変わりません。

 クリティカルシンキングは、建設的なポジティブ思考でなければならないということです。自己批判も前向きに改善や問題解決を離れた批判は毒になるだけだということです。