安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 コロナ禍後の景気回復途上にある欧米では、人手不足が表面化しています。そのため、アメリカでは被雇用者の売り手市場となり、転職前に待遇やポジション改善を上司に要求したら、すんなり要求が通った例が増えているそうです。

 米国の労働者1万4000人余りを対象に行ったギャラップ最新調査では、転職を「積極的に考える」と答えた割合が48%と2019年の46%から上昇中と米メディアは伝えています。昨年11月には米国の自発的な離職者が過去最多を記録したそうで、コロナ禍から経済回復で雇用機会が増えていることも影響しているのは明白です。

 ところが、離職前に待遇改善を要求するのは日本では稀なのに対して、欧米だけでなく、アジアでも普通に行われています。無論、成功率は高いとはいえないものの、今では日本でも最近、知り合いが上司に離職を考えていることを相談したら、配置転換で地方から本社勤務になり、さらには給料もアップしたという話を聞いたばかりです。

 グローバル研修の1つにナショナルスタッフが組合ではなく、個人で上司に待遇改善要求する事例を検討することがあります。何でも駄目元で交渉する文化が存在する日本以外の国では、組織に従順であることより個人が優先される場合が多い現実があります。

 特にナショナルスタッフにとって日本企業などの外資系企業に勤める場合は、会社への忠誠心は薄く、待遇は働く上での非常に大きなウエイトを占めます。

 無論、待遇は給料だけでなく、適切なポジション、適切な評価、自分のスキルアップの役立っているかどうか、労働条件、職場環境などトータルなものですが、個人で交渉する場合は、そのすべてが交渉の俎上に上ります。

 ここで足かせになる日本の慣習に、上司や会社が社員1人1人の評価を明確化しないことが多いことがあります。特にポテンシャルの高い社員に対して、それを個人に伝えることはほとんどありません。海外赴任の辞令が下りた社員が「自分を期待しているのか」「自分が邪魔なのか」と葛藤する例は少なくないのが現状です。

 こんな不透明さはグローバル人事マネジメントではありえません。なぜなら様々な価値観館、文化を持った多文化環境のマネジメントでは、見えにくいものは非常に多く、見える化は至上課題だからです。暗黙の了解、斟酌は通じないだけでなく、仕事の効率化を大きく妨げる要因です。

 この数年、アジアの高度スキル人材が最も働きたくない国が日本だというのは、この透明性のなかにあります。日本に残る職人文化、主従関係、我欲の否定は独立した個人という考え方を希薄にしています。ここを改善できなければ、韓国や台湾に経済力で抜かれるのは秒読みといえるでしょう。

 逆に自分の評価を明確にしたい社員の方が自身や向上心があるということです。たとえば日本で外資系企業の方が仕事へのプレッシャーが厳しいといわれますが、それは人の伸びしろよりもその人の能力に見合った給与を払っているので厳しいのは当たり前です。 

 日本の職人文化は伸びしろに期待しながら、最初は薄給から始まるわけですが、誰もが成長できる有能な社員というわけでないだけでなく、上司の機嫌を取るような社員が昇進するリスクもあり、それが今の無能なリーダーを産む欠陥のある人事システムにも繋がっています。

 今は政治もビジネスも世代交代が急がれています。長幼の序を大切にする儒教文化の濃厚な韓国でさえ、世代交代は急激に進んでいます。韓国最大野党「国民の力」の党首に36歳の若き政治家が選出される時代、日本だけが年功序列を続けているのは国の劣化の何ものでもありません。

 既得権を守ろうとする老害世代は、若い時に薄給に耐えて会社に忠誠を誓い、最後は高給を手にする役員や手厚い退職金をもらうパターンの生き残りです。終身雇用も年功序列も雇用契約書にはそもそも書いておらず、暗黙の了解事項でした。

 時代の変化が彼らに都合が悪いのは事実ですが、彼らが企業の成長を邪魔し、倒産に追い込まれれば身も蓋もありません。福祉団体ではないわけですから。

 人の成長を見守る姿勢も大切ですが、それも評価と共にきっちりキャリアパスとして社員に示さなければ、有能な社員ほど会社を去っていくでしょう。今は誰がやらなくても自分がやるというモチベーションを持った人材が最も求められる時代です。



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 2022年は戦争の年になるかもしれない。無論、それは絶対に避けなければと思いますが、大国アメリカで歴史的に外交が得意でない民主党が政権を握るバイデン現政権が、トランプ前政権のように戦争を起こさなかった政権になるかどうか、極めて怪しい段階に入っています。

 トランプ政権への批判は、アメリカの国内外で聞こえていますが、アメリカ第1主義の国益最優先の外交を展開したトランプ氏の交渉姿勢は「ディール」といわれていました。古い外交専門家は軽蔑していましたが、実はディールという考え方が、相手に軍事行動を起こさせなかったのも事実です。

 この影響は大きく、今では人権などの原則論の建前外交に終始した欧州でさえ、外交手法に変化があります。ディールは互いの利益追求を目的としたWinWinの関係構築が目的です。原則外交は妥協できない点が前面に出てしまい、いいか悪いかの争いになり、相手の利益に注目しようとはしません。

 結果的に勝つか負けるかの交渉になり、追い詰められた方は最終手段である軍事行動に出る選択肢しかなくなる場合もあります。無論、最初から軍事行動を視野に中国が台湾に侵攻するとか、ロシアがウクライナに侵攻する、あるいはイランが中東で他国を軍事的に脅かす選択肢がかなり優先順位が高いとすれば、その交渉はハードなものになるでしょう。

 世界が注目している台湾、ウクライナ、中東、さらにはカザフスタンを巡るロシア、中国の対立など、今年は戦争や内戦に発展しそうな不安定要素、緊張状態にどう立ち向かうかが大きな課題です。コロナ禍で傷んだ経済の回復期に戦争が起きれば、経済だけでなく、さまざまな分野でダメージが想定されます。

 バイデン外交の基本は国際協調です。トランプ前政権は同盟国まで敵に回し、信頼関係に亀裂が生じたわけですが、アメリカが世界の警察官でもなければ、圧倒的な経済力、軍事力を持って世界の安定のために貢献する国でもないというスタンスからすれば、当然の行動だったともいえます。

 ポンペオ前米国務長官は就任時にトランプ氏の意向を確認し、「トランプ氏は冷戦終結後に作られた世界の枠組みを完全リセットする強い意志を持っている」と語りました。自由と民主主義、法による支配というアメリカと同じ価値観を共有する国々が過度にアメリカに依存している状況を変えようとしたことに表れています。

 その一方で、オバマ政権ですっかり世界に対する存在感を失ったアメリカを「再び偉大にする」ために、中国、北朝鮮、ロシアなど価値観を共有できない国々とのディールを重ね、戦争を回避しながら国際秩序維持に貢献しようとしたのがトランプ政権でした。

 北朝鮮に対して、もし戦狼外交をやめ、核兵器開発の中止という米国の要求に従えば、北朝鮮は高いポテンシャルを持った国として飛躍的に発展するだろうと持ち掛けたのがトランプ政権のディール外交でした。善か悪かが表に出てしまえば、相手は保身に走り、態度を硬化させるだけです。

 相手にポジティブなビジョンを与えながら、ネガティブな部分を消していくアプローチは、今では世界に広がっています。フランスは北京オリパラの開会式への政府関係者不参加のバイデン政権が主導する政治的ボイコットに加わらないことを表明しました。

 新疆ウイグル族への人権弾圧に対しての抗議が目的の政治ボイコットですが、ロシアのソチオリパラでプーチン政権が同性愛者の選手の入国を制限したことに抗議して同様な政治的ボイコットを欧米諸国の首脳が行いましたが、一体、どんな効果があったかを考えると極めて限定的です。

 そもそも完全に政治色を排したスポーツの祭典であるオリパラに各国首脳が参加する意味はあるのでしょうか。面子を重んじる中国に恥をかかせる目的ともいえますが、経済成長した中国は今では世界を上から目線で見ているので、面子を潰されたとも思わないでしょう。

 国際協調といっても見返りが必要です。アメリカに追随してもいいことがなければ犠牲を払ってでも協力することはありません。途上国が台湾との外交関係を解消し中国に流れているのもアメリカの支援が弱いからです。ここでもアメリカのディール力が問われるわけですが、バイデン原則外交では効果薄です。

 バイデン政権に交渉を任せていては、世界は戦争に陥る可能性が高まっています。小国でもノルウェーのように仲裁国家として実績を上げている国もあります。力による古い外交姿勢と理念中心の原則外交が目立つバイデン外交だけでは、世界の安全は守れない状況だと思います。



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 南太平洋の島国トンガの沖で15日に発生した海底火山の大規模な噴火は、日本やアメリカ西海岸に打ち寄せる津波で注目された一方、現地からのニュースが入ってこないことに世界はもどかしい思いをしました。その原因の一つが噴火による海底ケーブルの損傷で、トンガは海外との通信の大半が遮断されたからでした。

 報道によれば、トンガは海外とのインターネットや国際電話を隣国フィジーとの間の海底ケーブルに頼っており、今回はトンガ政府や民間の通信企業が出資する「トンガ・ケーブル」が損傷したことで通信手段が奪われたと指摘されています。

 われわれの生活は限りなくバーチャルな空間に向かい、一瞬にしてSNSを通じてメッセージや写真、動画が拡散し、世界中で買い物ができ、情報収集の容易で、何でも時間、空間を超えて簡単に手に入れることができる世界に住んでいるかのようです。

 ところがそれを支えるのは通信インフラで、今回は今、最も注目されている海底ケーブルで事故が起きました。

 そもそも世界で最初に携帯電話が普及したフィンランドは国土の多くが冬に凍土と化し、人間の命を守る通信インフラで地上の配線に限界があることから生まれたといわれています。基地局さえ設置すれば配線不要という強みは通信手段の可能性を一気に広げました。

 今やインターネットから隔絶された生活など考えられない高速通信5G時代が到来していますが、データを転送するトラフィック・インフラに支えられています。特に国外の海をまたいだ遠距離のトラフィックを支えている縁の下の力持ちといわれるのが海底ケーブルです。

 現在、世界の海底に張り巡らされた海底ケーブルの長さは約130万km、地球およそ30周分以上といわれています。世界の距離を一挙に縮めたネット空間は、実は地味な物理的配線が海底にあることで支えられているというわけです。今回のトンガ噴火は、その現実を思い知らされたといえます。

 日本のNECは2018年3月、日本、韓国、中国、台湾、香港、ベトナム、タイ、カンボジアおよびシンガポールを結ぶ大容量光海底ケーブル敷設プロジェクト、Southeast Asia-Japan Cable 2(SJC2)のシステム供給契約を締結しました。

 受注先は、KDDIやシンガポール通信最大手シンガポール・テレコム(シングテル)などグローバル通信社からなるコンソーシアムで、昨年完成しました。今やデジタルインフラ事業は、世界中のインフラ事業の大きな柱になっており、この分野の成長はうなぎ上りです。

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は1月18日付の記事で「光ファイバーケーブルは、国際的なインターネットのトラフィックの95%を伝搬し、実質的に世界中のほぼ全てのデータセンターをつないでいる」と指摘し、海底ケーブル敷設事業に大手IT企業が群がっていると書いています。

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   WSJから

 それも最近まで、敷設された海底ケーブルの圧倒的な部分を通信会社や各国政府が管理し、利用していたのが、「ここ10年足らずで米IT大手4社――マイクロソフト、グーグルの親会社アルファベット、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コム――は、海底ケーブルの伝送容量を支配する有力ユーザーとなった」とWSJは指摘しています。

 「2012年以前は、世界の海底ケーブル伝送容量に占めるこれら企業の割合は10%に満たなかった。だが現在、その数字は約66%に達している」と巨人IT企業のデジタルインフラ部門支配が急速に進んでいる実態を書いています。

 当然ながらこの分野には専制主義の中国やロシアが注目しているのは当然と思われ、通信インフラの安全保障の主要課題になりつつあります。

 一方、海底ケーブルの不具合は今回のトンガだけでなく、この10年を見ても頻発しており、管理運営を含め、課題も多いことが指摘されています。巨額の資金が動くデジタル海底ケーブルインフラですが、IT企業4社の参入で、今や海底ケーブル事業を得意としてきたNECなどが苦境に立たされているともいわれています。

 IT4社にしてみれば、自社が投資したケーブル利用で高額の利用料を払う必要がなくなり、さらに利益を生むことができるため、彼らの海底ケーブル事業への参入は今後ますますを規模をを増すといわれています。

 しかし、通信インフラはライフラインであり、今回のトンガのような事故は人間の生命財産を脅かしたのは事実で、安全性、被害に遭ったケーブルとは別のルートを利用する仕組みなどが課題です。


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 ロシアのウクライナ侵攻の脅威が迫る中、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は、ロシアのプーチン大統領が、ロシアを取り囲む旧ソ連諸国でのNATOの活動縮小を求めているのに対して、その行動は「逆の結果をもたらしている」と述べ、批判しました。

 今月、米ロ及びNATOと直接対話を通じてロシアが10万人近い兵士をウクライナ国境沿いに配備している緊張を鎮めようとしていますが、ロシアが警告通りウクライナに脅威を与え続ければ、中・東欧諸国の対ロ防衛網の縮小(具体的にはミサイル配備をやめるなど)に対してNATOは、さらに防衛体制を強化する結果を生むとストルテンベルグ事務総長は警告しています。
 
 防衛戦略の常識からいって、相手が敵対する勢力に対して軍備を拡張すれば、攻撃を受ける可能性がある国は自動的に軍備を強化するのは当然の流れです。今、尖閣諸島周辺や南シナ海で中国が軍事的圧力を高めていたり、台湾侵攻の軍事訓練を始める戦狼外交は逆効果でしかないという話です。

 無論、プーチン大統領には、2014年にウクライナ内政に深く干渉し、国を分断する中で、クリミア併合を成功させた成功体験があります。ただ、第2次世界大戦後、既存の領土を力で奪うことが国際的な取り決めとして禁止されている中、大胆にも無視した代償は、経済制裁という結果を生み、今も代価を支払っています。

 共産主義で思考停止に陥った旧共産圏のロシアや追随する周辺国並びに、今も社会主義を信奉する中国の思考は、18世紀、19世紀の帝国主義時代の思考そのままです。戦争という最も非生産的な対立を避けるため、考え方や体制を乗り越えた共存を探る方向に世界はありますが、覇権主義という時代錯誤の国が足を引っ張っています。

 彼らは古典的な戦狼外交を繰り返すことで領土を広げ、繁栄できると思い込んでいるようですが、背景には今の世界の状況に対する受け入れ難い不満があることも事実です。それは民族主義や独裁主義といった過去に滅んだと思われる感情が支配しているともいえます。

 昨年暮れに特赦で収監から解放された韓国の朴槿恵前大統領は、大統領就任時に中国を訪れ、互いの国がめざす民族主義を称賛し、なんと欧米諸国歴訪でも同じ言説を繰り返しました。欧米先進国は第2次世界大戦までの歴史の教訓として、民族主義、専制主義を憎悪しており、嘲笑に値する無知な発言でした。

 共産主義は、これら深刻な軍事的対立を産む民族主義や専制主義を凍り付かせ、大切に保存してきたことで、中ロは今も世界に脅威を与えています。韓国は共産化を避けられたにも関わらず、中ロと同じ被害者意識を持っているのは呆れるしかありませんが、日本にも民族主義は存在します。

 最も深刻なのは、欧米先進国に対する不信感が中ロに根強く、欧米先進国が世界を支配し、思い通りに動かしていると思い込んでいることです。これは18世紀、19世紀、20世紀初頭の帝国主義時代の欧米諸国の横暴が原因となっており、実はその反省が欧米諸国に十分にないという問題もあります。

 私は教鞭をとっていたフランスの大学で何回か植民地支配の過去をどう思うかについてアンケート調査を行った結果、未だに旧植民地に対してフランスが行った暴挙を反省したり、謝罪することは始まったばかりだったことに驚かされました。これが戦勝国の態度だということを思い知らされました。

 フランス人の80代の女性が「昔は良かった。植民地がいっぱいあったから」と私にいったのを忘れられません。彼女は熱心なカトリック教徒ですが「神はヨーロッパ人に恩恵を与えることで文明を発達させ、文明の遅れた全ての国の人々をキリスト教徒にするために私たちが彼らを支配するよう願った」と、固く信じています。

 もうそんなことを信じる欧米の60代以下の人々はいなくなりましたが、その上から目線の傲慢な態度は中国や東南アジア、アフリカの人々を傷つけたのは事実です。

 無論、だからといって中ロを追い詰め、過激な軍事行動に走らせないために、何でも妥協すればいいというわけではありません。実際、西側諸国が手を緩めれば、一気に攻勢に出てくることは否定できないからです。これは欧米諸国がまいた種なので、自分たちで解決する責任があるのも事実です。

 ロシアがカザフスタンの騒乱を抑え込んだことで存在感を示したことに中国は危機感を感じており、中ロの関係も今は微妙です。2022年は世界の不安定化がますます進みそうで目が離せんが、無関心ほど間違った姿勢はないといえます。


 

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 デイヴィッド・ホックニー:ノルマンディーの1年展 
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 アメリカ西海岸に長年、居を構えていた英国出身の画家、デイヴィッド・ホックニーが2019年からフランス北西部、英仏海峡に面したノルマンディー地方に住み、カリフォルニアとは全く異なった自然を描いています。

 英国のポップアートのけん引役だったホックニーは80歳を超える高齢だが、最近ではYouTubeで、野外の自然を相手に絵を描いている制作風景が紹介されたりして、健在ぶりを見せています。筆を滑らせれば、それはホックニーとすぐ分かる色合いと単純化されたフォルムと構図が、彼独特の温かみのある味わいを醸し出しています。

 そのそもポップアートに代表される1960年代から70年代にかけてのアメリカ現代アートは、大都市に住む現代人がテーマの場合が多いわけですが、ホックニーの描く風景画は新鮮ともいえます。さらに巨匠が制作現場を動画で中継しながらYouTubeで公開し、自ら解説する試み自体が現代的です。

 モネの巨大な「睡蓮」作品で有名なパリのオランジュリー美術館では「デイヴィッド・ホックニー:ノルマンディーの1年」展(来年2月14日)が開催されています。コロナ禍のオミクロン株の感染拡大の中、12歳2か月以上のすべての来館者は予約の上、衛生パス(ワクチン2回接種証明、今後は3回接種)の提示が義務付けられています。

 ホックニーは展覧会の紹介文によると、ノルマンディー地方バイユー博物館の有名なタピストリーに出会い、大いに新たな着想を得たとあります。70mの長さを誇るフランス最大で最古のバイユーのタペストリーに、ホックニーは大いに感銘を受けたそうです。

 バイユーのタペストリーは、1066年のノルマンディー公兼イングランド王ウィリアム1世によるイングランド征服物語が描かれたもの。私も縁あって何度となく見に行ったことがあります。ノルマンディーは、スカンディナヴィアおよびバルト海沿岸に原住したバイキングでもある北方系ゲルマン人が定住した地で、背が高く、色が白い人が多いのが特徴です。

 そのノルマンディーでフランス国王の臣下、ノルマンディー公だったウイリアムが英イングランドを征服した歴史は、英国の歴史に深く刻まれています。

 英国人であるホックニーは、春から夏、秋から冬にかけたノルマンディーの四季の移り変わりの長い物語を自身の絵筆で描き、脳裏にはバイユーのタペストリーがあったそうです。一見、子供が描いた絵のように見えて、これぞホックニー作品という印象です。

 温暖なカリフォルニアのスイミングプール(初期有名作品)から、気候変化の激しいノルマンディー、それもバイユーから遠くないところに居を構え、10年前から用いているiPadを使い、オランジュリー美術館の地下を飾る『睡蓮』を想起させる没入感を与える画家の新境地を開く90mに及ぶ作品は牧歌的であり、同時に現代的です。

 季節の変化を含む作家の周辺の風景を描き、秋のオレンジ色の葉、雪に覆われた庭、春に咲くリンゴとナシの木、さらには夏の小麦の山まで、ホックニーの描いた物語が美術館の廊下を飾り、それは日本の絵巻物のようです。

 彼の筆致はポップアートの単純化された形状だけでなく、時にはスーラやピサロの点描表現を想起させます。ノルマンディーの自然はカリフォルニアと違い、天気の移り変わりが激しいことで有名です。アメリカでは得られない気の遠くなるような長い歴史が息づく中の自然にはカルバドス酒(リンゴ酒)や牛たち、沼地や小川、雪に覆われた林があります。

 近年、注目される仮想現実のVRや拡張現実のARで重要な没入感は、今回の展覧会場オランジュリー美術館にある壁を覆いつくすモネの睡蓮作品も、その効果を表しています。現代アートの多くが巨大作品なのも没入感効果を狙ったものともいわれています。

 80歳を過ぎても新しい表現方法に挑戦するホックニーの姿勢は興味深いといえます。同時に同作品はフランス人にとっても新鮮な印象を与えていると思われます。



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     マイクロソフトが開発したARヘッドセット「ホロレンズ」

 米マイクロソフトの拡張現実(AR)チームからここ1年で100人ほどの人材が流出し、その多くが米メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)に移籍したそうです。マスコミだけ見れば、米メタ・プラットフォームズ傘下のソーシャルネットワーク(SNS)、フェイスブックは2つの大きな訴訟中で社会の風当たりは強いといえます。

 訴訟の1つは、その独占的地位を乱用しているとされる公正取引委員会(FTC)が再提起した反トラスト法(独占禁止法)による訴訟で連邦地裁は今月11日に再提訴を認めたばかり。もう一つは、子供向けのユーザー拡大のための新サービス開発の事前調査で、子供に有害で分断を助長する可能性が指摘されたにも関わらず、経営陣は無視して開発を進めていることを元社員が告発したものです。

 フェイスブックでは、近年、内部告発による訴訟が増えている一方、トップのザッカバーグ氏が批判を認めるよりは戦う姿勢を明確にし、その強気の姿勢も注目されています。特に若者を呼び込むことにこの10年、苦戦してきたフェイスブックのなりふり構わない姿勢はモラルの問題としても批判を浴びています。

 ところが、そんなフェイスブックを傘下に持つメタ・プラットフォームズにマイクロソフトの有能なARエンジニアが大挙して転職している現象は何を意味しているのでしょう。今後のビジネスで高い収益が期待されるAR技術を要するマイクロソフトの開発人材の引き抜きは業界を熱くしているといわれますが、メタは成功しているようです。

 マイクロソフト内には現在、約1,500人のARエンジニアが働いているそうですが、彼らを引き抜くために2倍の報酬が提示されたりしていると米メディアは指摘しています。今のところ、マイクロソフトが開発したARヘッドセット「ホロレンズ」の開発経験者引き抜きに成功しているのは資金力のあるメタで、アップルからの移籍者も増えているといいます。

 ホロレンズは一般ユーザー向けではなく、高額な一方、マイクロソフトは個人ユーザー向けの眼鏡型AR端末を開発中で、そこから生まれる収益は莫大ともいわれています。一方、メタが進めるコンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービスを総称するメタバースにAR技術は欠かせないのも事実です。

 人はメタが提供する仮想空間で買い物を楽しんだり、さまざまな交流をするようになるというサービスは、バーチャル空間でゲーム慣れした世代には魅力的新発想のサービスといえそうです。ARエンジニアは自分たちが関わった「ホロレンズ」の技術が、もっとエキサイティングなサービスに生かせる可能性に高報酬と共に魅せられているのかもしれません。

 たとえ社会モラルを含む深刻な訴訟を抱えた企業であっても、エンジニアたちには関係ないのでしょう。私個人は1980年代後半から高度な技術を持つ日本の大企業のエンジニアたちがお金目当てに韓国企業に技術を売った時のようなエンジニアの節操のなさも密かに感じますが、高度技術者の争奪戦は、まさに生き馬の目を抜く世界です。


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 最近、アメリカの最新の失業率が3%台に回復したことについて、バイデン米大統領は自身の経済政策が機能していると自画自賛した。これを信じるのは民主党支持者で大半の国民はコロナ禍からの回復によるもので、バイデン氏の実績とは受け止めていないでしょう。

 2021年のアメリカは、新型コロナウイルスのパンデミックに苦戦し、今年に入り、1日の感染者数が100万人を超える事態となり、バイデン政権のコロナ対策の評価はすっかり下がってしまいました。同時に感染症の専門家への不信感も広がり、政治不信、専門家不信が深まった1年でした。

 トランプ前政権から受け継いだ対中強硬政策は、トランプ氏が国益重視の交渉人だったのに対して、バイデン氏は民主主義や人権問題などのイデオロギーの原則論で中国と戦おうとしており、逆に中国はロシアと急接近し、途上国を味方につけて社会主義の流布を加速させています。

 原則論外交は交渉型外交と異なり、抜け穴が多く、中国は新たな抜け穴を探すのに余念がありません。とはいえ、習近平主席にとっては昨年は、台湾支持が世界に広がり、欧州連合(EU)も台湾とはより緊密な関係を構築する方向にあります。北京オリ・パラを前にオミクロン株の拡大も中国政府にとっては試練で、女子プロテニスプレーヤーの共産党幹部による性暴力も汚点でした。

 しかし、トランプ政権のようにアメリカが中国を追い詰めたというよりは、国際社会が圧力をかけた結果で、対中政策でバイデン政権が実績を上げたとはいいがたい状況です。

 最も非難されるべき外交の失敗は、アフガニスタンからの撤退です。今や子供を売って餓死を食い止める国民も急増するアフガンを見れば、人権外交を振りかざすバイデン政権にとっては歴史的失敗というしかありません。

 民主主義を代表する超大国アメリカが弱体化する中、ロシアは強権政治のベラルーシを利用して大量の移民をポーランド国境沿いに送り込み、ウクライナへの侵攻をうかがっています。民主的手続き不要の独裁国家の中国など専制主義国家の前に民主主義の機能不全と無力をさらしたのがバイデン政権でした。

 環境政策でも巨額の予算案が議会で拒否され、世界的リーダーシップは示せていません。メキシコとの国境問題では、トランプ政権の強硬策を「人権無視の非人間的政策」と非難したバイデン政権は、メキシコからの不法移民に対して、なすすべがなく、非人道的状況を作り出しています。

 2021年の勝者について、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、ロシアのプーチン大統領を1番に挙げています。長年、中国の急激な成長による世界舞台での存在感の前でロシアは悲哀をなめていたのが、ベラルーシの独裁者ルカチェンコ大統領を支援することで「カフカス地方からバルカン半島に至るまでの地域で、ロシアの影響力が強まった」と指摘しました。

 今は暴動が起きているカザフスタンの騒乱鎮圧に治安維持軍をロシアは派遣し、存在感を示していますが、石油生産国のカザフスタンと国境を接する中国に危機感を強めています。カザフスタンの騒乱をプーチン氏は外国勢力によるものと主張していますが、ロシアの関与はないのでしょうか。

 専制主義のロシアや中国は原則論や善悪と動くことhないので、カオスのような状態には逆に強く、あらゆる謀略を仕掛けてくることで、自国を有利に導こうとしています。

 バイデン政権はアメリカが世界の警察官であることを辞めることを明確なメッセージにしており、国際協調外交を前面に出していますが、たとえば北京オリ・パラで外交的ボイコットを表明し、同じ価値観を共有する国々に呼びかけましたが、フランス、イタリアは同調していません。

 自由と民主主義の国々の結束では、アメリカがオーストラリアに原子力潜水艦を提供したことで、オーストラリアと潜水艦購入で契約していたフランスを怒らせました。米英豪のオーカスでも、太平洋地域の領土を持つフランスは排除され、安全保障面での国際協調とは程遠い、荒っぽい外交を展開しています。

 バイデン氏はコアな民主党員にしか支えられておらず、国民の半分は支持していない状態が続いています。無党派層にまで支持を拡げなければ、中間選挙で民主党は野党になる可能性も高いと指摘され、逆にトランプ支持者を勢いづかせています。

 米連邦議会への乱入から1年が経ち、トランプ氏が米国の民主主義を脅かしたとバイデン氏が批判の演説を行ったことを日本のメディアはバイデン支持の立場で報じていますが、共和党にとっては、大統領選挙でバイデン陣営が不正を行わなかったら、そもそも乱入事件は起きていないと批判しています。

 つまり、バイデン氏率いる民主党こそ、民主主義を危険に晒したというわけです。いずれにしてもバイデン政権の喫緊の課題は、コロナ禍で弱みが露呈した民主主義の健全化と民主主義陣営の結束を強固にすることでしょう。そのためにはメディアが宣伝する嘘の報道に惑わされず、問題の本質を見極める目を養うことが重要といえそうです。


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 日本や欧米諸国を含め世界の大半の国は、台湾を属国と規定する中国に気遣い「台湾」という名称を避け、「台北」を使っている。リトアニアが敢えて中国政府が使用を禁じている「台湾」の名を使っての駐在員事務所開設を公式に認めたことは、台湾を喜ばせています。

 人口約280万人の欧州連合(EU)の小国、リトアニアが昨年11月に「台湾」の名の下に駐在員事務所の開設を認めたことについて、英BBCはじめ複数の欧州メディアが、リトアニアは「中国というゴリアテに対するダビデ」と称賛し、今もEU・中国間の緊張関係の最前線として注目されています。


 ゴリアテは旧約聖書に出てくるイスラエル民族の前に立ちはだかる重武装の巨人戦士で、ダビデは羊飼いでありながら、勇敢にも石で立ち向かい、ゴリアテに勝つ物語。イスラエル民族の誰もが敗北は明らかとした戦いを一挙に形勢逆転させた物語です。ダビデは神が自分を味方するとの確信と信念を強く持っていたという話です。

 このブログにも書きましたが、根性の座ったリトアニア人の知人が何人もいる私にとっては、当然の勇敢な外交姿勢だろうなと思います。ベルリンの壁崩壊を受け、1990年にバルト3国の中で旧ソ連から最初に独立したリトアニアには、民主主義と人権という普遍的な価値は不動のものです。

 日本人には縁遠い宗教も背景にあります。16世紀にリトアニアに本格的に浸透したローマ・カトリックは19世紀、ロシア帝政による弾圧を受け、教会の財産は没収され、1部聖職者や信徒は処刑されるなどの迫害を受けました。さらに宗教を否定するソ連帝国の支配下で信徒は地下に潜るしかありませんでした。

 それでも信仰の炎を絶やさなかったキリスト教徒は、共産党には入らず、苦しい生活を強いられながらも神を信じ続け、ソ連帝国崩壊で真っ先にソ連から独立した国になった。彼らが勝ち取った民主主義や人権尊重は、彼らの信仰と信念によって勝ち取ったものだったわけです。

 近年、リトアニアは新疆ウイグル自治区の少数派ウイグル人や香港人の弾圧に対して、欧州で最も中国批判を続けてきた国。クビリウス元リトアニア首相は「私たちは常に道徳的原則を示す小さいが勇敢ある国だと考えています」「私たちがどのように外交儀礼を破ったのかは分かりませんが、同問題に対する中国の敏感さは中国にとっての問題であって、われわれの問題ではない」と述べています。

 今年に入り、リトアニアのナウセダ大統領が台湾駐在員事務所の名称が熟慮されていなかったと発言し、政府内での行き違いが表面化しましたが、趣旨を曲げることはないとも発言しました。欧州メディアは総じてリトアニアの決定を勇気ある行動と称賛しています。

 反発する中国はリトアニアとの貿易をボイコット(中国は否定しているが)し、EUは中国の税関でリトアニア製品の輸入が拒否されており、欧州委員会は世界貿易機関(WTO)に苦情を申し立てることも視野に入れているといいます。中国が世界のサプライチェーン(供給網)への攻撃を仕掛けており、リトアニア排除に乗り出していると米ウォールストリートジャーナルも指摘しています。

 実際、BBCは「台湾菸酒公司(TTL)は、中国向けのリトアニア産ラム酒2万本を購入し、5日には、台湾は中国の圧力から国を守るためにリトアニアに2億ドルを投資することを計画している」と報じています。

 冷戦を耐え抜き、信念を曲げなかった小国リトアニアは歴史を動かす対中前線基地になっています。それに比べ、16年間を費やして対中経済関係を構築しようとしたドイツのメルケル前政権にはリトアニアのような精神はありません。ドイツ同様、冷戦時代に西側諸国によって封じ込められた対露の戦いの前線に立たなかった日本も対中外交は弱腰です。

 最も不可思議なのは、東アジアのリトアニアのような存在の韓国に中国に対して自由と民主主義、人権という普遍的価値を守る信念がなく、むしろ弱腰で親北姿勢も見せているのはどうしたことでしょう。

 聖書だけでなく、歴史上には信念によって歴史が作られた過去が多くあります。ナポレオンも大革命によって既得権益を持つ王侯貴族による君主制を崩壊させた後に出現した皇帝で、君主制を維持するヨーロッパ周辺国も、やがて君主制を変更せざるを得なくなったのも事実です。

 ビジネスの世界でも、出発はアマゾンのジョフ・ベゾスのように自宅のガレージで始めたとしても信念を曲げないことで成功した例はあります。問題は大きくなった時にその信念が揺らぐ場合が多いことでしょう。ダビデは羊飼いからイスラエルの第2代王に登り詰めましたが、家臣の妻に手を出す過ちを犯し、神から罰を受けています。

 それはともかく、今はアメリカ1国で中国と戦う時代ではなく、アジア太平洋地域で台湾と同じくらいの人口しかないオーストラリアが対中外交で強気の外交に出ていますが、信念を貫く小国に対する全面支援が必要な時代で、リトアニアを支える必要があるのは当然でしょう。個人的には台湾の半導体企業がリトアニアに生産拠点を作ることを期待しています。


Human Dignity

 政治にもビジネスにも戦いはつきものです。それがいいか悪いかの判断を下す前に戦いに勝たなければ消えていくしかないのが無慈悲な現実です。

 日本人の公衆道徳は世界的に見ても、その高潔さは目立ちます。他の人に迷惑をかけたくないからワクチンを打ち、マスクする国民は世界にそう多くはありません。相手を裏切ったり、欺くことも良しとしないのが日本人です。

 われわれ日本人は「嘘をついてはいけない」と教えられ、嘘をつくこと、作り話をすることは自分以外の人々を欺くことになり、やってはいけないこととされていました。無論、日本人も日々、小さな嘘をつき、物事を大げさにいって相手にインパクトを与えようとするのは日常茶飯事です。

 特にビジネスの世界では誇大宣伝の「世界一売れている」「超最先端の技術」「世界て評価される製品」「安全性を極めた製品」「わが社の技術が世界を変える」など、実は客観的な根拠を示せない広告は、日本でも日常化しています。しかし、法的に消費者を欺き、被害をもたらす誇大広告は法的に禁じられています。

 しかし、世界では嘘をつくこと、作り話をすることは、日本ほど悪とは思われていません。相手に勝つために言葉巧みに相手を操るのは戦略であり、謀略や傍聴で敵を欺くことを悪としていない国は多くあります。「真実は一つ」というのはナイーブな考えで、たとえば中国共産党は中国人民を日本統治から解放した唯一の政党というのは史実に反していますが、その主張は半世紀以上覆されていません。

 つまり、数千年を権力闘争に明け暮れ、支配するかされるかで人の運命が極端に変わる地域で生きてきた人にとっては、「嘘もほうべん」であり、必要と見なされ、作り話も自分を有利に進め、生き抜くための戦略ということは常識化しています。

 そんな常識が存在する国で日本の報連相を適応することは不適切というしかありません。自分が生き残り、評価を得ていくためには、嘘の報告、事実と異なる連絡をし、ありもしないことで同僚を貶めるために作り話を持って上司と相談するような文化の中で、正確な進捗把握は困難です。

 今、真しやかなコロナワクチン陰謀説が世界を飛び交い、世界中で1割から2割の人は、陰謀説を根拠にワクチン接種を接種を拒否しています。しかし、日本人は陰謀というのはとんでもないと思うかもしれませんが、敵を欺く戦略を悪としない世界においては、戦いに勝ち、相手を屈服させ、利益を得るための立派な戦略と位置付けられている場合もあります。

 日本人がたとえば「中国共産党の謀略」という場合は、それはとんでもない悪という認識が背景にありますが、中国では優れた戦略として評価されているかもしれません。

 アメリカは長年、中国の陰謀に気づかず、世論操作を目的とした戦略で孔子学院を隠れ蓑にしたり、IT機器に情報を盗みとるハイテクアプリを忍ばせ、最近では、中国政府が進める科学研究分野の人材招致計画「千人計画」をめぐり、米連邦裁判所がナノテクノロジーの世界的権威であるハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が金品授受、機密情報を漏洩させ、有罪評決を下した例もあります。

 無論、国家を守るために法律で裁かれたわけですが、国益を損ねても個人的利益を優先させる行為は、その教授の例を待つまでもありません。日本企業のハイテク技術者も1980年代後半から、韓国や中国にどれほど多くの技術を金で売ったのかは計り知れません。

 謀略は敵に悟られれば失敗ですが、そうでなければ立派な戦略です。グローバルビジネスといえば聞こえはいいわけですが、実際は無法地帯で欺き行為は日常茶飯時です。

 アメリカは中国の陰謀にトランプ政権時代にようやく気付き、さまざまな法律を作り排除に乗り出したわけですが、その陰謀自体を日本人が考えるような悪とは見なしていません。それはアメリカでも戦略の1部だからです。

 しかし、謀略をめぐらし、敵を欺く行為は、結果として勝ち負けには繋がっても、信頼関係構築の観点からは真逆の結果をもたらします。ナイーブな日本企業が世界的評価を得てきたのは、消費者を裏切らない高い品質の製品を作り続け、商売において納期や支払い記述を厳守してきたからです。

 日本で人を欺く行為を「卑怯」としているのは、卑怯なやり方は実力がない人間がやることだという考えもあります。実力で相手に勝れば、相手の足を引っ張って上に登っていく必要はありません。中国も韓国も実力のある日本を踏み台にしてきたのは事実です。

 表向き、アジアの1員として第2次大戦終結までに日本が犯した間違いを償うためも含め、アジアを支援して共に栄える世界を築くというのが日本国の大義名分でした。しかし、相手にとっては踏み台でしかなく、早く不愉快な日本を抜き去り、支配したいという欲の方がはるかに大きく、技術を盗み取ることも正当な戦略であり、悪いこととは思っていないでしょう。

 とはいえ、日本は無法地帯であるグローバルな世界で生きていくために、高潔さを捨てる必要はありません。なぜならその高潔さで世界の信頼を勝ち取ってきたからです。ただ、謀略に対するリスク管理は必要でしょう。同時に高潔さに傷をつける卑怯な行為が日本企業の社内で起きている事実は見逃せません。

 日本の大企業の度重なる不祥事も身から出た錆で、社内の非生産的なドロドロな権力闘争や不正行為の隠蔽は高潔さを失っている証拠です。謀略に弱く、高潔さもなくなれば、何の取り柄もなく、日本は沈んでいくだけでしょう。高潔さ、誠実さ、実力は、どれを欠いても衰退に繋がると私は考えます。


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 日本は世界的に見ても会議が多く、長いことで知られています。ところがたとえば効率性や生産性重視のアメリカでも専門機関の調査では、会議に疲労感やストレスを感じ、8割以上の会議が生産性の足を引っ張っているということが報告されています。

 たとえば無駄な会議と思いつつも、その会議に招待されているかどうかは組織内の自分の評価に繋がると考える人は多く、会議は組織への忠誠心を表す場であると考えるアメリカ人は多いといわれています。通常、意思決定を伴う会議は階層別に行われており、参加する会議によって自分の存在価値が確認できると考えている人も少なくありません。

 では、日本で会議の頻度が高く、非効率な長時間の会議が多い理由の一つは何かといえば、それは常識への依存度が高いハイコンテクスト文化が影響していることは、欧米との大きな違いといえるでしょう。それは「情報」と「状況」の違いによく表れています。

 情報は事実であり、その情報そのものは変化しません。変化すれば、それは別の情報ということです。ところが状況は通常、動向や変化を指し、新型コロナウイルスの感染者が急拡大しているというのは状況であり、そこでよく出てくる1日の感染者数や入院者数は事実の情報です。変化すれば新たな情報が提供されるわけです。

 日本では情報と状況の区別が曖昧です。理由は状況を見極めながらその変化に対処することを重視しているからです。特に外的要因である技術革新に敏感で技術革新についていけない人が軽蔑されたりします。情報交換であるコミュニケーションも日本では状況認識を確認することが重視されます。

 ハイコンテクストでは、ある状況に対しての結論は一つです。会社が経営危機にある場合、社員は不安を抱えながらも大半の日本人は「頑張るしかない」と思います。「危機に瀕した時はより一層頑張る」という常識を共有しているからです。

 ところがローコンテクストのアメリカ人が組織の中にいる場合、経営危機に陥っているという情報に対して、アメリカ人社員は転職を急ぐかもしれません。同じ状況でも受け止め方も考え方も多種多様です。つまり、一つの事象に対して人によって異なった解釈をするのがローコンテクストです。

 某大手日本のスーパーが経営危機に陥った時、友人の大学生の娘がバイトで、そのスーパーに勤めていました。そのバイトの子は小さなミスをした時、ボスから「今は会社が大変な時期だ。なんということをしてくれた」と叱れたそうです。これは会社が大変な時期=バイトを含め全員が緊張感を持って働くべきというコンテクストを共有しようとした例です。

 ハイコンテクスト社会では自分の言葉の責任感は希薄です。発言は「ある状況で話されたもので、状況、つまり、ある文脈の中でしか意味を持たない」という考えがあり、同時にその状況からの行動は誰でも同じという前提に立っているわけです。

 ところが状況は常に変化するので、変化するたびに確認会議をする必要が出てくる。逆にいえば状況さえ確認し、共有すれば、その帰結としての行動はハイコンテクストの場合、追跡する必要がないともいえます。これが日本の組織の会議の頻度の高さの原因に一つです。無論、経営陣の意向も日々変化するので、それを徹底通達する上でも会議は頻繁に行う必要があるわけです。

 この慣習を変えるには、状況ではなく情報共有の方法を優先する必要があります。それは個人と組織の主体性と自律性を強化することです。さらに状況と自分の関係を自分が主体で状況は対象という意識に変えることです。東洋では農耕文化もあり、人間も自然の1部という精神文化が強く、変化する状況に受け身です。

 クリエイティブなことが人間と自然の違いだとすれば、新たな状況を作り出せるのは人間だけです。技術革新という状況に自分を適応させるのではなく、自ら技術革新をもたらすとか、その技術は人間に幸福をもたらすのかそうでないのかを見極めるのは人間自身です。

 今は「人間にとって」という発想は重要です。便利そうに見えて実は人間の心を破壊するような技術も存在します。原爆は人類歴史に半世紀近い冷戦ももたらしました。使ってはいけない抑止力である原爆が存在する世界を幸福な世界と感じる人はいないはずです。

 会議の頻度の多さは、日本人が状況にコントロールされている証拠です。空気を読むことに神経を集中させているのと同じで、新たな状況を作り出す人間ではありません。空気は読むのではなく、自ら空気は作るものという認識に代われば非生産的で疲れる会議を減らす入り口に立つことができるかもしれません。




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 フランスのマクロン大統領は、未だ4月の大統領選への出馬表明を行っていません。現職大統領は通常、早々と出馬表明しないので異常事態とはいえないが、そのマクロン大統領はちょっとしたハプニングに見舞われている。それはパリの凱旋門の欧州連合(EU)の旗を掲揚したことが批判された問題。

 フランスは今年1月から半年間、欧州連合(EU)の議長国を務める。凱旋門には巨大なフランスの国旗に代わり、EUの旗が掲げられた。これに文句をつけたのは右派・国民連合のマリーヌ・ルペン党首。彼女は次期大統領選の有力候補の1人だ。結果的にEU旗は撤去された。

 ルペン氏は、フランスの愛国心のシンボルである凱旋門に掲げられているフランスの国旗をEU旗に置き換えることは、国のアイデンティティへの攻撃だと批判しました。彼女は同国の最高裁である国務院に正式に苦情申し立てを行うと宣言しました。

 同じ右派から大統領選に立候補しているエリック・ゼムール氏も「怒りを覚える」といっており、EU旗を掲げたことが、思わぬ物議を醸しました。政府は「最初からEU旗掲揚は1時的なものだった」といい、旗は取り去られました。無論、ルペン氏は「勝利だ」言っています。

 中道右派・最大野党の共和党の公認候補のヴァレリー・ペクレス候補は「フランス国旗とEU旗の両方を掲揚すべきだった」とツイートしました。フランスのクレマン・ボーヌ欧州問題相は「政府が極右の圧力に屈したのではなく、2日に撤去したのは当初の計画通り」と述べていますが、真相は分かりません。

 ボーヌ氏はさらに「そもそも凱旋門に時々表示されるフランス国旗は、そこに恒久的な備品として掲げられているものではない」ともいっています。今回、凱旋門だけでなく、エッフェル塔など歴史的建造物はEUの青のイルミネーションになっています。

 そもそも昨年後半に議長国を務めたドイツもコロナ禍で大したことはできませんでした。マクロン氏は大統領選を前にして得点を稼ぐために、意気込んでいますが、国境警備と移民の管理の改善、セキュリティの向上、DXなどの技術革新、エネルギー問題、法の支配の擁護を優先事項としてどこまで結果を出せるのかは疑問です。

 というのも新型コロナウイルスの変異種であるオミクロン株の急拡大で過去最多の感染者数を記録する欧州で、やれることには限りがあるからです。ポピュリズムが再び台頭する中、とにかく英国に続き、EU離脱国を出さないことが最優先とも見受けられます。

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 昨年英国で開催された国連気候変動枠組み条約の第26回締約国会議(COP26)を待つまでもなく、地球温暖化による気候変動は、より具体的被害をもたらす段階に入っています。

 そこでCO2排出量の多い石炭利用ゼロを先頭に代替えエネルギー導入促進や電動自動車(EV)普及などが重点課題となっていますが、気候変動に貢献しそうな原子力発電はデメリットもあり、全面支持とはなっていません。

 アメリカ、フランス、日本のような原発依存度が高い国々には、多少追風ですが、原発依存度が全電力源の12%と比較的低いドイツでは、原発ゼロ推進に舵を切っており、それを反原発勢力は高く評価しています。特に環境政党の緑の党が連立の1角をなす連立新政権が発足したことを歓迎する声も聞かれます。

 この動きに正面切って批判しているのが米ウォールストリートジャーナル(WSJ)です。何と社説で「ドイツの自滅的なエネルギー敗戦ー原子力発電所の段階的廃止、自国の弱体化に大きく貢献」という皮肉のこもった批判記事を掲載しています。

 ショルツ新独政権が表明している環境政策は、1、石炭の段階的使用禁止を加速し、目標をこれまでの2038年から2030年に前倒しする。2、2030年までに国内電力供給の80%を再生可能エネルギーでまかなう。3、2030年までに国内の電気自動車台数を1500万台に増やす。となっている。

 ドイツのメルケル政権は2011年に福島の原発事故を受け、原発の段階的廃止を決めました。現在残っている原発は6カ所のうち3つが、昨年12月31日をもって閉鎖され、残る3つも今年には操業を停止する。WSJは「経済、気候変動問題、地政学の観点から見て、これ以上に自滅的な政策を考え出すのは難しい」と厳しく批判している。

 世界的なエネルギー需要の拡大によって、エネルギー価格が高騰する中、「ドイツの電力先物1年物の価格は、1メガワット時(MWh)当たり300ユーロに達している。2010年から20年までは、平均で1MWh当たり50ユーロ未満だった」と指摘し、産業に壊滅的打撃を与える可能性に触れている。

 一方、石炭は2021年上半期に同国の最大のエネルギー源となり、発電された電力の4分の1以上を占めた。風力と太陽光はそれぞれ22%と9%を占め、原子力は12%前後に落ち込んでいたが、その石炭でさえ、2030年に全廃しようとしている。

 原子力発電への依存度が69.9%と世界で最も高いフランスの人口1人当たりのCO2排出量は、ドイツの半分程度。フランスも他国同様、原発の停止や価格が急騰している天然ガスの利用拡大によるエネルギー価格高騰への対応を迫られているが、マクロン政権は原発の建設を増やす方針を表明しています。今春の大統領選の主要テーマにはなっていない。

 「太陽光・風力発電政策に翻弄される状態を自らつくり出してしまったドイツは現在、電力供給維持のためロシア産天然ガスへの依存度を強めつつある。これがロシアのウクライナ攻勢に対し、ドイツの反応が鈍いことの背景にある。同盟諸国の反対にもかかわらず、ドイツはロシアからのガス輸送パイプライン「ノルドストリーム2」計画を断固として支持しており、EUの対ロシア外交を阻害している」とWSJは指摘している。

 さらに「ドイツは現在、欧州連合(EU)の「環境的に持続可能な経済活動」のリストに原子力を入れないよう圧力を掛けている。このリスト対象に指定された場合、原子力開発プロジェクトに対する資金コストは低下する。自国のエネルギー安全保障を弱体化させただけでも十分問題だが、ドイツは自国の自己破壊的政策を欧州大陸の他の諸国に押し付けるべきではない」とWSJは強く主張している。

 EUの経済最強国の奢りなのか、ドイツの村意識の独善なのか、中国にも歯切れの悪いドイツは、ロシアにも腰が引けています。どこかでかつての同盟国だった日本と同じような態度を立っているのが印象的といわざるを得ません。

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