安部雅延のグローバルワークス Masanobu Abe Global Works

国際ジャーナリスト、グローバル人材育成のプロが現在の世界を読み解き、グローバルに働く人、これから働く人に必要な知識とスキルを提供。

フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当する安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。

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 秋以降にいきなりフランスの政治の世界に登場し、正式に来週の次期大統領に立候補を表明したエリック・ゼムール氏は、もとはジャーナリスト。名門パリ政治学院を出た優れた頭脳とフランスの歴史への知識の豊富さと米トランプ前大統領に似た人々の感情に訴える雄弁さで人気を集めている。

 世論調査では極右政党の国民連合党首マリーヌ・ルペン候補とマクロン現大統領に次ぐ支持率を争っているが、政党を持たず、政治家経験もない有力候補の登場は、フランス政治史にはない新しい現象だ。それもそれほど過去に知名度が高かったわけでもない。

 ゼムール氏は、ルペン氏が自分の政党の勢いが増す中、政権与党をめざし、極端な右寄り政策を緩めているのに対して、父ルペンのように激しくイスラム移民の増加に警鐘を鳴らしている。イスラム移民を追放することで国家の根本的再建を呼び掛けている。

 当然ながら人道主義の左派及び極左は、ゼムール発言に激しく反発し、彼の勢いをそぐのに必死だ。ところがコロナ禍で将来への不安を抱え、治安が悪化し、わが物顔で町を闊歩する移民たちへの不快感は高まるばかりで、もともとイスラム嫌いのフランス人の中にはゼムール氏に共感する人も少なくない。

 マスコミ出身のゼムール氏の戦略は今のところ成功している。彼は本を出版し、問題発言を繰り返すことでSNS上で議論が盛り上がり、本が売れ、ポピュラリティは急上昇した。

 さらに他の候補者が口にしていなかった移民問題や治安問題へのゼムール氏の強いメッセージで注目が高まったのを見て、他の候補者が一斉にこれらのテーマを口にするようになったのもおかしな現象と映っている。

 国民が何に最も関心を持つかという点で、フランスでは毎回、失業問題が大きなテーマになっているが、ゼムール氏はフランス企業の生産拠点を中国からフランスに戻すことを主張し、移民家庭に割かれる国家予算を削減すれば、雇用創出は簡単だと訴えている。

 何の生産性のない移民たちが、フランスの手厚い社会保障を受け取っている状況を変えるだけで、国家予算の20%は節約でき、手つかずの道路インフラなどへの投資に充てられると主張している。トランプやジョンソン英首相がブレグジットで叫んでいた内容に似ている。

 さらにフランスは1980年代からミッテラン政権のもとで左傾化が進み、人道支援の名を借りた移民大量受け入れだけでなく、過剰な福祉を行い、引き返せないほど国家予算はひっ迫している。その左傾化でフランス人が持っていたカトリックの価値観も弱体化し、イスラム教徒の国家が乗っ取られる危機に晒されているとゼムール氏は主張する。

 フランス人はイスラム移民がフランスへの同化を拒んでいるだけでなく、テロを実行し、国家を分断し、ひいてはフランスのイスラム化を企んでいると見る国民も少なくない。その危機感に直接答えるゼムール氏への期待度は高い。

 これまでの政治家は国民に約束しても任期中に実行するのは30%程度と見られている中、ゼムール氏なら多くを妥協なく実行するだろうと期待する人もいる。

 とにかく500人の自治体首長の支持がなければ、正式候補者にはなれないため、政党を持たないゼムール氏の課題は、まずは正式候補者になることだ。今後、イスラム過激派のテロでも起きれば、ゼムール氏には追い風になる可能性もある。

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 最近、周囲のフランス人からよく聞く話は「コロナは終わりそうにない。これから人類はどこに向かうのか全くまったく予想ができない。」「先進国ほど問題を抱えることになっている」というコメント。このとはフランスに溢れる移民たちへの冷たい視線にも反映されている。

 極右の新星、エリック・ゼムール氏が大統領選に出る可能性が高まる中、人気の背景には1980年代に台頭したジャン=マリ・ルペン氏が創設した極右の国民戦線が支持を集めた時に似た現象がある。しかし、今回は反共だったルペン氏と違い、世界情勢が変化する中、移民の多さで国体が本当に揺るがされている現状への危機感に共感する支持者が多い。

 マクロン現大統領と来春の大統領選の決選投票で競り合うとされていた右派・国民連合(前身は国民戦線)のマリーヌ・ルペン氏が影を潜め、ゼムール一色のような状況だ。理由はルペン氏は党の基盤が強くなったことで政権党をめざし、よりバランスの取れた政策を打ち出していることが、マイナスになっているからだ。

 世界中でポピュリズム政治家が台頭する流れの中で、極端な主張をしなければ選ばれない空気はますます濃厚だ。国民に不満や不安が広がるほど、救いを求める有権者は極端な意見がすがり付こうとする。保身に走る有権者にとっては、耳障りの言い理想主義より目の前に抱える課題を荒っぽくでも解決してくれる指導者を望むものだ。

 ゼムール氏の発言が説得力を持つのは、あまりに増えた移民たちが持ち込んだ自由や民主主義、法治国家、さらには正直さや誠実さとは無縁の人々が急増したことだ。貧しい国でなりふり構わず生きてきた移民には、公衆道徳は皆無といえる。嘘をつくこと、人を騙すことに良心の呵責を感じない人に市民社会のルールを教えるのは不可能なのかもしれない。

 そんなことを外国人である筆者でさえ感じるわけだから、理想主義を追求してきたフランス人にとっての不快さは想像に難くない。その一方でキリスト教の価値観から受け継いだ寛容さや人権意識もあり、移民を排斥する人々も受け入れるべきという人々も普遍的価値観と現実の間で葛藤している。

 これはフランスに限ったことではない。2015年に100万人の移民を受け入れたドイツも北欧諸国もイタリアやスペインも同じ状況だ。ポーランドに押し寄せる中東移民に欧州連合(EU)加盟国が冷淡なのは、ベラルーシの独裁者ルカチェンコ氏が意図的に移民を送り込んだことだけではなく、もう移民はたくさんだという世論が存在している。

 フランス北西部カレーの浜辺からゴムボートで命がけで英仏海峡を渡ろうとして中東からの不法移民少なくとも27人が命を落としたことで、フランスでも英国でもメディアは一斉に連日のように議論が行われている。両国の責任のさすりつけ合いは醜いが、互いに不法移民拒否の姿勢は同じだ。

 今はコロナで余裕を失った欧州は、これ以上移民問題で国が複雑になることは誰も望んでいない。特に西洋文明を受け入れないイスラム教徒への警戒感は高まるばかりだ。自分たちの将来がコロナで見えなくなった今、寛容さや人道支援は影を潜めている。

 そんな事情を知らない移民、難民たちは今も豊かな生活を求めて、欧州をめざして移動している。この状況は誰にも解決できる問題には見えないところが恐ろしいところだ。

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 芸術は、もともと職人の世界だったために、職業としたのは圧倒的に男性が多かった。同時に19 世紀後半、芸術、特に美術の世界は作家が独り歩きを始め、少しづつ女性も活躍するようになった。その代表はフランスでは、おそらくエコール・ド・パリの時代のマリー・ローランサンだろう。

 とはいえ、美術界も閉鎖的で女性に解放されていたとは言い難く、弱肉強食で野心に満ちた芸術家が群雄割拠する中で女性が勝ち残るのは容易なことではなかった。日本では今、世界的に認知された草間彌生がいるが、お世話になったニューヨーク在住だった故遊馬正画伯によれば、草間彌生はニューヨークで問題を起こし国外追放になった時、「私は絶対にアメリカに戻ってくる」と電話してきたそうだ。

 何が何でも認められるまで諦めないという執念が彼女を今の地位につけたことは否定できない。多くの女性が男性の庇護のもとにある時代に、夫の理解を得、あるいは1人で生計を立てながら芸術の道を追求することは容易なことでないのも事実。

 女性差別への意識が高まる中、今年は大改装後のパリのリュクサンブール美術館で夏に「女性画家、1780年‐1830年」展が開催された。同展の副題は「闘いの起源」とあるように、19世紀末から登場した女性画家たちの背後にフランス大革命前夜のアンシャンレジーム期から女性画家の闘いが始まっていたという視点で展覧会は企画された。

 中でも国王ルイ16世の王妃マリーアントワネットの肖像画家として知られるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランの存在は女性画家たちに道を切り開ていくれた開拓の先駆者。美貌で知られる彼女のたぐいまれな才能は、男性で占められる王立美術アカデミーに衝撃を与えた一方、父親を早くに亡くし、母や妹を養っていくために画商と結婚し画家を続けた人物だ。

 革命後、マリーアントワネットに近すぎる存在だったために国外逃亡し、イタリアやロシアで画家として人気を集め、フランス新政府が革命分子のリストから彼女を外したことで、ようやく帰国し、その後、貴族志向のナポレオン皇帝のもとで皇帝の家族を描く画家になったという数奇な人生を送っている。
 女性というハンディを抱えながら、なおかつ革命の嵐に巻き込まれ、命も危ない中、画家を続けた波乱万丈の人生の絵画への情熱と強い闘志を感じざるを得ない。

 今年はコロナ禍で閉館中に大改装を行ったルーブル美術館に9月、ルーブル美術館史上、初の女性館長を迎えた。新館長に就任したロランス・デカール氏(54)は、能力、実績、ビジョンにおいて申し分がないと仏メディアは絶賛した。

 2018年に史上最多の年間1,000万人の来館者を記録した世界最大規模のルーヴルだが、彼女は「すべての年齢、すべての社会・文化的背景を持つ来館者を迎える美術館にしたい」と意気込みを語っている。

 芸術の世界は、早い段階でLGBTは受け入れてきたが、女性になかなか活躍の機会が与えられなかった。今後、眠っていた女性芸術家の作品に光があてられる可能性も高い。今は女性でも自活できる時代、世界の美術界に女性が増えることが期待されている。

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 欧州メディアは、フランスの高級ブランドのディオールの使用した中国女性の写真が、アジア人に対して欧米人が抱く偏見をそのまま表現しているとして、中国のインターネットなどで批判されました。その後、撮影した中国人ファッション写真家が自分の「無知」について謝罪する事態となっています。

BBCが報じたディオールの問題となった中国人女性の写真

 話がややこしいのは、欧米を代表する世界的なブランド会社が、欧米人が抱く昔ながらのアジア人女性に抱くイメージを、そのまま写真として使用しただけでなく、その写真を撮ったのが中国生まれ、中国育ちの中国人写真家というところです。

 この一件、ディオール社は想定外の中国からの批判に驚き、写真を取り下げ、写真家本人はSNS上で謝罪する事態になりました。なぜ、批判が起きたかといえば、その女性の腫れぼったい小さな目は恐怖を与えるようなイメージが醜い印象を与え、中国の一般人を不快にさせたからでした。

 無論、ディオールが弁明しているように広告用写真ではなく、芸術写真だったといい、中国人の中にも「かっこいい」「何の問題もない写真」という人もいるようですが、ディオールは23日夜、SNS上の自社アカウントで、「これまでどおり、中国の人々の思いを尊重している。(中略)何らかの間違いが起これば、指摘を受け止め、適宜それを正していく」と書きました。

 問題の写真は今月12日、上海の展示会で掲示が始まりました。直後から中国のインターネット利用者が同国のソーシャルメディア、微博(ウェイボ)で次々と批判の書き込みがあり、のちに現地メディアも取り上げ、写真の撤去、写真家本人の謝罪に発展したと伝えられています。

 興味深いのは写真家が欧米人なら、中国人に対する昔ながらのステレオタイプのイメージを表現したとして批判されても理解しやすいのですが、写真を撮ったのは生粋の中国人だったという点です。

 実は歴史的に中華思想を信じてきた中国人は、世界の中心は中国であり、中国から離れるほど野蛮人が住んでいると理解していました。そこに中国共産党の独善的思想教育が加わり、その内向き志向は世界でも群を抜いています。

 中国は経済大国として頭角を現して以来、過去にも増して国際社会から、さまざまな意味で批判を受けています。ところが中国人の多くは、国外の蛮族の批判にしか聞こえておらず、香港人や新疆ウイグル族への人権問題で批判されても「内政干渉」と一蹴するのも「蛮族が何をいうか」という受け止め方です。

 最近の例では、中国の女子プロテニス選手、彭帥(ポン・シューアイ)さんが今月2日に、共産党最高指導部メンバーの前副首相と不倫関係にあったと実名で告白する長文をウェイボに投稿し、その後、彭帥さんが行方不明になり、その後の政府当局の対応で疑惑が深まる騒動がありました。

 このような問題は枚挙に暇がありませんが、歴史改ざんで自らの正当性を主張することの多い中国では、中国共産党に対して都合の悪いことは国内向けに隠蔽するのは普通だし、彭帥さん騒動も北京冬季五輪を控えていなければ、闇に葬られるようなことだったはずです。

 つまり、中国にとって国際社会を牛耳ってきたアメリカを中心とした西洋文明そのものが敵であり、アメリカの世界支配を終わらせる野望が燃えたぎっているのが中国です。そのため国際社会(欧米社会)からの批判は一考にも値しないものです。

 ところが国際社会で認められないと、これ以上、上には行けないため、経済的優位性と五輪などで国の評価を高めることが戦略上重視されています。自由と民主主義を信奉する自由主義陣営の大国は、中国が大国になるためには国際社会のルールを守る必要があるといいますが、中国の目的は世界支配であり社会主義に世界を染める以外の目的はありません。

 超内向き志向からすれば、国際的評価は国内評価に比べれば大したことのないものです。ただ、中国は政治経済文化のあらゆる面で国際評価を気にしているのも事実です。

 今回の騒動の中心にいる写真家のチェン氏は声明で「ほぼすべての批判的コメント」を検討した結果、謝罪する必要があると感じたと述べ、「私は中国で生まれ育った。自分の国を深く愛している。芸術家として、自分の作品を通して中国文化を記録し、中国の美を紹介する責任をしっかり自覚している」としています。

 さらに「中国の歴史について学び、関連のイベントにもっと出て、イデオロギーを改善させる。(中略)自分の作品を通して中国について語るよう努力していく」と、イデオロギーに言及している辺りが中国らしいといえます。さらにいえば中国の」身から出た錆ともいえます。

 このような騒動が起きるたびに当事者が自己批判し、思想再教育が必要という姿をみると、70年安保当時の極左幹部が路線対立で劣勢に立たされるメンバーに「自己批判しろ!」といっていたのを思い出し、背筋が寒くなる思いに襲われます。

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 なぜか理由は分かりませんが、リトアニアを含むバルト3国とは縁があって、特にリトアニア人の友人との関係は不思議と続いています。彼らに共通するのは強靭な精神力。

 それもソ連邦に支配され、ロシア語を強要されていた時代から、共産党に与しなかったリトアニア人の信念は日本人には足元にも及ばないものを感じています。
 
 パリで同じアパートの建物にいたアレクサンドラは、パリのトロカデロに住む富裕層の家政婦でした。彼女にはパリ郊外の家に家のリフォームのために住み込みで働く夫がいて、オーストリアの大学に通う息子がいました。

 家族はバラバラですが、息子を立派に育てることと、老後を母国で過ごすために黙々と働いていました。彼らは旧ソ連に支配されていた時代も、アレクサンドラの話によれば「共産党に入党すればいい仕事はもらえたが入党せず、キリスト教徒としての信念を守り抜いた」というのが自慢話です。

 無論、その結果、貧困に苦しみ、結果は国外への出稼ぎの状態になったわけです。冷戦の終結、2004年の中東欧諸国のEU加盟と大きく変化したリトアニアですが、今でもベルリン、パリ、ロンドンなどには中東欧からの出稼ぎ労働者がいます。

 EUに加盟した中東欧諸国は、マクロ経済の視点で見ればEU加盟後、経済は改善していますが、都市と地方の格差は大きく、地方の貧困層は出稼ぎを強いられています。

 ポーランドがベラルーシが送り込んだ中東移民の流入を防ぐために必死になっているのも、かつてソ連に翻弄された歴史を抱えているからで、西側の大国であるフランス、ドイツ、イタリアには理解不能といえます。ましてや島国の英国はポーランド出稼ぎ労働者に嫌悪していました。

 西側欧州からは、自由も民主主義も法の支配も十分理解できていないと蔑まれ、経済的にも2等国扱いされ、東からは今でのロシアの脅威に晒される中東欧諸国は惨めで孤独です。

 最近、リトアニア政府が台湾に対して事実上の大使館を開設することを許可したのを受け、中国政府はリトアニアとの外交関係を格下げしました。先月、台湾当局者の代表団がスロバキア、チェコ共和国、リトアニアへの訪問を歓迎したことも中国をいら立たせています。

 台湾は現在、15か国からの正式な外交承認を得ておらず、そのほとんどは、アフリカとラテンアメリカの小さくて貧しい国です。同国の台湾事務所は両国が公式の外交関係に入ったことを意味しないとしていますが、中国が主張する「1つの中国の原則」に配慮して「チャイニーズ台北」と呼ぶ世界の慣例を破り、リトアニアは「台湾」事務所として承認したことは決定打でした。

 中国政府は、格下げにより外交的関与については臨時代理大使レベルに下げると表明しました。リトアニアのシモニーテ首相は、半導体、レーザー、その他のハイテク産業の主要サプライヤーであり、同じ価値観を共有する台湾との関わりを深めるという自国の計画を擁護しています。

 同時に「同段階は“一つの中国”政策との対立や不一致を意味するものではない」ことも強調しました。リトアニア国防省は今年9月、消費者に対して中国製スマートフォンが国家の安全保障上問題があるとして購入しないよう警告しました。

 国家のサイバーセキュリティセンターのレポートでも、中国メーカーの5Gのスマートフォンをテストした結果、検閲ツールが組み込まれていたと主張しています。

 同センターは中国メーカー、Xiaomiの主力スマートフォン、Mi10T5G にはウェブ検索時に「自由チベット」、「台湾独立」、「民主主義運動」などのキーワードを検出して検閲できるソフトウェアが搭載されていることが判明したと報告書で指摘しています。

 EU加盟国でバルト三国の1国で世界で最もデジタル化が進んでいるといわれるエストニアの対外情報機関は今年2月の年次報告書で、世界が覇権主義の中国のテクノロジーへの依存度を高め「ロシアに倣って」中国は偽情報を拡散していると指摘しています。

 私は個人的に思うのですが、中国よりは自由と民主主義の価値観を共有できる台湾との関係を強化しようとしている経済的弱小国に対して、アメリカや日本は彼らへの経済支援に本腰を入れるべきではないでしょうか。従来の台湾問題への外交スタンスは中国を刺激せず、軍事オプションを行使させないことなのでしょうが、香港を見て情勢は変わったといえます。

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  パリ大モスク

 フランスでは、イスラム教徒が約500万人いるといわれ、人口の8%近いといわれています。そのためイスラム教は極めて身近な存在です。政府がイスラム女性のスカーフやブルカの公共の場での着用を禁止しても、イスラム女性の側の主張も聞こえてきます。

 最近、フランスで大スキャンダルになった聖職者による小児性愛の性的虐待の犠牲の多さが注目されていますが、当然、イスラム聖職者にはないのかと話題になります。それにイスラム聖戦主義が若者に広がり、テロリスト予備軍になっていることが、フランス人に嫌悪感を与えています。

 この件については、今月21日、パリ大モスクと3つのイスラム教徒連盟が在仏イスラム教団体を代表するイマーム国立評議会(CNI)をパリに設置する式典を行いました。

 設立目的は在仏イスラム教の牧会者イマームの任命について政府の意向を反映させるためです。過去に在仏イマームの中に過激な聖戦主義で信者を扇動し、テロに掻き立てた疑いがあることから、政府が長年イスラム団体に要請していました。

 イスラム教が身近なフランスでは、たとえば友人の日本人夫婦の間にフランスで生まれた日本人女性がイスラム教徒と結婚することになり、それをフランス人の友人たちが強く批判し、結婚を断念するよう迫るという状況に遭遇しました。

 フランス人の批判は「イスラム男性は結婚すると妻を所有物と考え、家畜のように扱う」「女はイスラム社会で男より格下の存在」「女性には人権も自由もない」というものです。

 しかし、そういう彼らはカトリックの価値観を理解しているかといえば、そんなことはなく、自由のためにカトリックの禁欲的教えには蓋をしている場合の方が多いといえます。だから、カトリックとイスラムが衝突している構図でもありません。

 毎年、フランス人の若者が約3,000人もイスラム教に改宗する事実に驚き、個人的には関心の高いテーマで20年以上取材を続けてきました。そこで見えてきたのはイスラム教には聖職者は存在せず、イマームは一般人であり、カトリックのような聖俗の区分もないことです。

 キリスト教の中にも新渡戸稲造も信者だったクエーカー教徒がいますが、彼らは神父や牧師を置かず、毎週の集会でその週に神体験した人が証し、恵みを分かち合うスタイルです。

 イスラム教ではムハンマドも預言者であり、尊敬はされていますが、キリスト教のイエスのような人間離れした神から遣わされた救世主のような崇拝対象ではありません。

 カトリックは、イエスの教えに忠実で「結婚しないでいられる人は、その方がいい」とあるように、イエスの教えに忠実な者は禁欲的修道生活を追求し、修道院があり、聖職者の妻帯は許されていません。

 「情欲を抱いて女を見る者は、心の中で姦淫した」とイエスはいい、厳しい禁欲の教えがあります。つまり、その禁欲を追求するのが聖なる修道生活であり、それができない人が世俗世界を作っているという考えです。

 イスラム教には聖俗の区分がなく、キリスト教ほど禁欲的でもありません。食欲も金銭欲も性欲も人間の欲望として肯定されており、これが実はイスラム教の人気の秘密の一つです。

 無論、欲望を満たす行為の無制限の容認は、人間社会に無秩序をもたらすためにルールを課すのがイスラム教です。妻以外の女性と性的関係を結べば石打ちの刑というのも人間社会の秩序を壊さないためのルールであり、男が女性の美にに弱いのでスカーフやブルカを着用させているといえます。

 つまり、ルールさえ守れば、その上で欲望を全開するのは自由です。砂漠で生まれた宗教ということもあり、砂漠で生き延びる知恵と決まりが豊富なのがイスラム教です。

 本来、キリスト教は聖俗を分けているくらいで、思いの世界で姦淫を犯しても罪というほど厳しいものがあったのですが、世俗は、カトリックでは毎週、告解すれば許されるというような信仰生活を送り、良心を失わないようにすることが求められているだけです。

 その一方で修道の地味な衣装で身を包み、一生独身を貫いてイエスに相対しようという聖職者がいるのがカトリックです。一方で修道生活で完全に純粋なものを追求しながら、一方で世俗の結婚で子孫を残すという歴史を綴ってきたわけです。

 宗教は人間の欲望をどう扱うかが教義の中心にあるテーマですが、イスラム教は禁欲的に見えて、実は教義的に欲望を肯定している側面もあるし、聖俗を分けていないことで聖が俗を見下すこともないところが勢力が衰えない理由のように見えます。

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 欧州での新型コロナウイルスの感染者の急増が止まりません。同時にオランダ、ベルギー、オーストリアなどの各政府が打ち出す国民の行動制限に対しての抗議デモも激化しています。日本で死亡者ゼロを記録するのとは対照的です。感染急増の背景に何があるのでしょう。

 専門家の意見は、どの国でも同じでワクチン接種率、マスク着用の徹底、ソーシャルディスタンスにあるという点は変わっていません。感染拡大している国の場合、2回以上のワクチン接種が7割前後で停滞していることが指摘されています。つまり、集団免疫が構築されるには十分でないということでしょう。

 しかし、ワクチンが万能でないことは2度接種完了者にも感染者が出ていることです。そのため、3度目の接種が推奨されていますが、3度目の接種完了者が7割に達するのは、かなり先の話でしょう。そうなるとマスクと人との距離、つまり3密を避けることの継続も、まだまだ必要です。

 世界保健機構(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域局長は「緊急措置を講じない限り、3月までにさらに50万人の死者が記録される可能性があると警告しています。同局長は、それを防ぐ方法としてマスク着用が役立つと主張しています。

 欧州では、このマスクがくせ者です。理由の一つは、そもそも日常でマスクをする習慣が全くないからです。それに寒い地域の人々は鼻孔は狭く長い傾向にあります。理由は冷たい空気が肺に入れるために温める必要があるからと指摘する専門家もいます。

 マスク着用で息苦しさを訴える人は少なくありません。細くて長い耳孔に加え、鼻が高いこともマスク着用に向かない要素です。だから、厳しい予防規制措置の時でもマスクをしていない人をよく見かけました。ましては規制措置が緩和されたら、まずマスクを外し、開放感に浸るわけです。

 人との距離も西洋人には厳しいものです。昔はともかく、近代西洋文化の基本は人との横のつながりです。リモートワークから職場復帰した人々が、まずは喜ぶのは同僚との再会です。仕事に関係のないちょっとしたお喋りが仕事のモチベーション向上に繋がることを会社側は再発見しています。

 トップダウンの西洋の組織を見て、縦社会の日本は西洋も縦社会と勘違いする人もいますが、意思決定の権限を認める一方、プライべートでは上司と部下の関係はフラットです。日本のように仕事外でも上下関係を引きずることはありません。基本は横の関係だからです。

 握手したり、頬にキスをする身体的接触が頻繁なのは、親愛の情を表す一方で敵でないことを確認する意味もあります。個人主義といいますが、親族や友人との横の関係は非常に重視され、集団で騒ぐのもしばしばです。そのためソーシャルディスタンスも、かなりのストレスを与えてきました。

 そして最も重要なことは「自由」です。ワクチン、マスクを含め、個人の選択の自由が妨げられることへの不快感は相当なものです。日頃、人との違いを主張する個性を大切にしている西洋人にとって、それを否定する政府の感染予防措置を、まるでファシズムのように受け止めている人もいます。

 そこにもう一つ加わるのが公衆衛生に必須の公徳心が低下していることです。明治維新以降の日本の知識人が欧米社会を見て公徳心を高く評価したわけですが、今、たとえばマスクするのは自分が感染しないための保身であって、人にうつすことを先に考える人はほとんどいません。

 無秩序な自由と公徳心の低下という観点からすると日本の方が優れているともいえそうです。無論、日本の感染が再拡大すれば、その理由を考える必要がありますが、日本はせいぜい、居酒屋を規制すれば、羽目を外すリスクは少ないでしょうが、西洋でのマスクなしの密状態でのスポーツ観戦、密状態で踊りまくる音楽フェスなど、感染拡大もさもありなんという印象です。

 科学的には感染再拡大の原因を正確に分析するのは困難のようですが、今だにワクチン陰謀説を信じる人は多く、政治不信、科学者不信、製薬会社不信も広がっている状況です。

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 新型コロナウイルスのパンデミックに襲われたフランスは、教育現場で対面授業が行えなくなるなど、昨年来、1年9カ月の間、教育現場は混乱しました。最も懸念されるのが年間を通じて生徒に定められた学習内容の達成度ですが、今年の教育省の調査ではコロナ禍のマイナスの影響はほぼ払しょくされたようです。

 フランスの教育省が毎年実施している到達度テストの結果が11月になって発表され、教育省は公式にコロナ危機のマイナス影響がほぼ払しょくされたと評価しました。この到達度テストは、小学校入学時、小学4年生への進級時、そして中学校入学時に行われています。

 全体的な結果をみると、コロナ危機の影響が大きかった前学年(2020年9月に始まる)と比べて、2021年9月に始まった現行年度の生徒は全体として良好であり、危機前の水準に復帰しています。問題地区の学校と他の学校の間の格差も危機前の水準まで戻ったと報告されています。

 2017年に大統領に就任したマクロン氏は教育への意識が高いことで知られ、彼の著書『革命』の中で、最も具体的な施策が述べられていた分野の一つが教育改革でした。マクロン氏は移民家庭の子供たちを念頭に「生徒の5分の1が読み書きも計算もできないまま小学校を卒業する」と指摘しました。

 フランスが抱える経済格差と教育格差は、日本ではあまり指摘されないテーマですが何が問題化といえば、フランスの掲げる社会平等に矛盾しているからです。大学まで授業料を無料にしているフランスは、教育は経済格差の犠牲にさせないと高らかに歌っています。

 でもそれは、一般的なフランス人家庭が対象で、なおかつ生徒の勉強へのやる気があるかどうかにかかっています。勉強が嫌いな子ども、努力しても成績が上がらない子供へのサポートは極めて希薄です。結果的に落ちこぼれは多いわけです。

 フランスの合理的考えによれば飛び級と落第生度が長年導入されているので、学習到達度はそれで調整できるという理屈ですが、移民家庭はそもそも親がフランス語もできず、十分な教育を受けていないために、子供の勉強をサポートできない状況にあり、落第を繰り返すうちに義務教育もドロップアウトし、イスラム過激派のテロリスト予備軍になるケースもあるのが実情です。

 15歳時点での学力を調べるPISAの平均スコアが世界トップクラスの日本に比べ、習熟度レベル別の生徒分布を見ても、レベル7のうちレベル2以下に42%の生徒が分布するフランスは、日本の27%とは比較になりません。これは移民を抱える多くの先進国で同じ状況にあります。

 1980年代、首相だった中曽根氏が「アメリカは黒人などがいて教育水準が低い」といって世界から批判されたことがあります。多民族国家の価値観を持つ欧米諸国は日本や韓国、台湾のような国家の学力を競う国々とは、まったく異なった事情にあります。

 ただ、日本で経済格差が教育格差につながっていないかというと、世帯年収と小学校6年生時点での国語と算数の正答率は、ほぼ正比例しているのが現状です。そこには貧困家庭の親の育児放棄を含む、教育意識の低さや教員のサポート不足も指摘されています。

 マクロン氏は教員への定期的な研修の強化、落ちこぼれをなくすためのサポート強化を打ち出しました。マクロン政権は来年3月に任期を迎えます。モンテーニュ研究所は2021年8月に、教育分野におけるマクロンの5年間の任期について、かなり前向きな報告を発表しました。

 政権で講じられた「一般的なレベルを上げ続ける」ことと「数学の回復」を意図したブランケール教育相の狙いは、コロナ危機の際にも「学習の継続性確保」、学校では「機会均等を確保するために、少人数制の恩恵が与えられた」ことを評価しています。課題はインクルーシブ教育の実現としています。

 2019年秋の調査では、教育困難者の割合は2015年に比べ減少し、コロナ禍で停滞したものの、回復に転じていると指摘されています。無論は教育改革の効果を見るには5年、10年単位で精査する必要がありますが、特に教員の研修プログラムは当初、組合の抵抗に遭いましたが、受け入れられるようになっています。

 日本人が知らない欧州の教育認識の一つは、階級社会の過去を持つ影響から階層別の能力の固定化があることです。その認識を変え、子供の個性や可能性を信じる教員と親のマインドセットは始まったばかりで、次期政権に教育改革がどう受け継がれていくかは注目すべきところです。

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 日本を除き、年末に向かい、世界は新型コロナウイルスの感染再拡大に襲われ、まるでダメ押しのように公衆衛生の脅威が再来しています。ドイツでは過去最高の1日の新規感染者が18日、6万人を超え、ベルギー、オランダでも記録を更新しています。フランスも2万人を超えました。

 どの国もワクチン接種率が7割に達し、重症化リスクは低いとはいえ、病床の感染患者の占有率は上がり、各国政府は3度目のワクチン接種の推進や健康パスの活用で、経済活動の抑制をできるだけ避け、乗り切ろうとしています。そんな中、リモートワークも強く推奨されています。

 実は働き方の多様化がもたらすメリットが注目されて30年は経ち、IT系企業がけん引する形で特にリモートワークは10年前から採用する企業が増えていました。それがコロナ禍でITだけでなく、電機メーカーや製薬会社など、様々な業種に広がり、営業職、エンジニア職、経理にまで職種も拡大しました。

 コロナ感染が拡大するたびに、リモートワークが推奨され、今では田舎と都会に生活の2拠点を持つデュアルライフも定着するほどになり、企業によってはオフィススペースの縮小で危機を乗り切る判断に踏み切った場合も少なくないことが報告されています。

 しかし、リモートワークの長期化や定着に伴い、成果をあげるという点で企業は試行錯誤を繰り返しています。フランスの例でいえば、リモートワークの社員への就労管理、勤怠管理に苦労しています。特に法やルールで縛らないと管理しにくい西洋社会では、企業は社員との雇用契約の根本的見直しは必須です。

 例えば、あるパリに拠点を置く社員300名のシステム開発企業は、リモートワーク希望者との契約更新で、会社側は月曜日と火曜日は出社を義務付けたかったのが抵抗に遭い、その項目は削除され、必要に応じた随時の出社となったなど、厳しい交渉を迫られています。

 ただ、契約で縛ったとしても監視できるわけではないので、労働時間が守られているか、仕事に集中しているかを会社側が監視するのに苦労しています。もともと成果主義なので、結果さえ出せばいいという側面もある一方、仕事は複雑化し多岐に及ぶため、必要な時にパソコンの前にいないことでトラブルが起きています。

 仏経済紙キャピタルによれば、自宅で働くフランス人従業員の45%は、管理ツールを介して雇用主によって監視されているといいます。これは繰り返されるロックダウンと大規模なリモートワーク導入で、実際に従業員が距離に関係なく真面目に働くことを保証したい雇用主にとって、監視の必要性が高まった結果ともいえます。

 企業側がどんな監視ツールを使っているかは明らかになっていませんが、米国では、いくつかのアプリが大きな注目を集めており、代表的なのはTimeDoctorで、フランスにも導入する企業が増えています。

 雇用主は、チームが取り組む特定のタスク、各タスクに費やされた時間、従業員のWeb使用、接続と切断の時間などを知ることができ、さらに5分ごとに従業員のスクリーンショットを撮ったり、従業員の電話のGPSデータを追跡したりでき、全ては日報の形で管理職に送信されるシステムです。

 個人のプライバシーを重んじる国での監視に賛否両論あるものの、性悪説の国としては当然とも受け止められています。キャピタル誌も企業による従業員の監視行為は違法ではないと指摘しています。

 ただ、米国生まれの監視システムが全てフランスで認可されているわけではなく、同システム導入には会社側と従業員の同意も不可欠です。いくつも法的ハードルを企業側は超える必要があり、無論、従業員側の就業時間の報告という伝統的システムをキープしている企業もあります。

 いずれにしても信頼関係や勤労意識だけを頼りとするモラルコード社会の日本と違い、性悪説の欧米ではリモートワークでの監視システム導入を不可欠と考える企業は増えているのが実情です。

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 会社は通常、経営理念や行動方針を標榜し、政党は政治理念に政治家が集まって形成されます。ところがコロナ禍で理念が通用しない現実に直面するケースが増え、葛藤が続いています。日本はその点では理念より現実優先の実用主義の国なので、コロナ禍にしなやかに対応できているのかもしれません。

 たとえば、アメリカのバイデン政権は、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)の指摘によると、バイデン米大統領と与党民主党は、国内経済や政府と国民の社会契約について、広範な革命的変化に意欲を示す一方、コロナ禍による経済ショックからの回復で国民から支援の必要性を迫られ、大きく揺れているとしています。

 党内対立は、バイデン氏と民主党がめざす「ビルド・バック・ベター(より良き再建)」計画法案について表面化しました。同計画は、社会保障と気候変動対策の強化を目指すバイデン政権の肝の部分ですが、ニューディール政策以来最大の社会変革とまでいわれ、急進派のサンダース議員などが主導する反大企業、反資本家の社会主義的理念に支えられたものです。

 ところが、莫大な予算を必要とする同計画は、下院でもめにもめています。共和党は当然反対ですが、民主党内にも今、国民が望んでいるのはコロナ禍で傷んだ生活を再建するための支援だという意見が勢いを増していることです。インフレ懸念も逆風になっているとWSJは指摘しています。

 理念で動く傾向が極めて強い民主党ですが、彼らの打ち出すバラマキともいえる政策は財源の根拠にも欠け、たとえ下院を大幅な妥協で通過しても上院でどうなるのか「見通しは立っていない」とWSJはいいます。このまま理念にこだわれば、1年後の中間選挙で民主党は大敗する可能性も指摘されています。

 ドイツでも次期中道左派連立政権を形成する社民党や緑の党がワクチン接種、マスク着用義務など厳しいコロナ対策に反対する中、1日5万人を超える新規コロナ感染者を記録し、感染予防対策の緩和の主張はあえなく取り下げました。米民主党以上に政治理念にこだわるドイツの左派政党もコロナの前にあえなく政策転換です。

 一方、企業理念は日本の精神文化によるところが大きく、アメリカでは逆に明文化されていないケースが目立ちます。それは企業メッセージという形を取ることが多く、米経済誌「フォーチュン」の2021年『世界から最も称賛される企業』ランキング1位のアップルは「Appleの主な目的は、人々の日常生活を豊かにする製品を作ること」が企業メッセージです。

 アップルはこのランキングで5年連続1位ですが、日本企業は100位までにトヨタ(31位)、ANA(68位)、ブリジストン(95位)の3社だけです。彼らの企業理念に共通するのは企業として、企業の一員としてのあり方、世界的な視野、地域の中での役割、企業として何を提供するかです。

 立派な企業理念がビジネスを成功させるとはいえませんが、企業活動の基礎になるものであるのは確かです。いわば企業の背骨です。理念や行動方針に反することは行うべきでないということになります。日本の大企業数社で発覚した会計改竄や、検査ミス不履行も企業の行動方針に反することです。

 コロナ禍は政治にも企業活動にも厳しいストレステストを強いているように見えます。その中には理念や行動方針そのものを見直する謙虚さも含まれています。そこには人間の力ではどうすることもできない事態への対処も含まれています。

 注目される様々な最先端のテクノロジーがコロナ禍を完全に抑え込んだという話は聞きません。科学万能主義の限界なのか、人がコロナ禍を想定していなかったことの結果なのか、はたまた心の問題なのか、興味深いのは世界のメジャーな宗教でさえ、コロナ禍へのメッセージがないことです。

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 スイスのビジネススクールIMDの世界競争力センター(IMD World Competitiveness Centre)が公表したWorld Talent Ranking 2021によると、日本は2018年以降、デジタル競争力とスキルのランキングで下降を続けています。

 日本や深刻国の台湾や韓国に比べても、競争力ランキングは低く、スキルランキングも先進国では最も低い状態が続いています。一方、2017年にはIMDの調査で、日本はアジアの高度スキル人材が最も働きたくない国に選ばれ話題になりました。その状況は改善されていません。

 つまり、今やアジアの新興国にとっては、日本は憧れに国ではなくなっている感が年々強まっています。特にインドの優秀なIT人材の争奪戦は世界的レベルで激しさを増しており、かつて英国の支配を受け、欧米の合理的文化の影響を受けているインドは、価値観の異なる中国以上にポテンシャルが高いと見られています。

 私個人もムンバイ出身の優秀なIT系のインド人数人とプロジェクトに取り組んだ経験がありますが、その頭の回転の速さと集中力、努力家なことに舌を巻くものがありました。無論、地域差や未だに近代化されていない地域も多く、人材には大きなばらつきがありますが、高い可能性を秘めた国です。

 一方、彼らが東南アジアの国々と異なり、強烈なアイデンティティを持っているのも事実で、ある部分で異文化を受け入れない体質もあります。

 それより、なぜ、アジアの高度人材が日本を嫌っている理由が、日本では理解されていないことが気になります。たとえばアメリカ企業に勤めれば、最先端の欧米のリーダーシップやマネジメント、生産性の高さなどに触れることができ、大きなメリットがあると一般的に考えられています。その後のキャリア形成にも有効です。

 それにインド人だけではありませんが、生活の質向上を願う観点では、短時間で高い成果を出すことを追求する欧米企業は、私生活の充実をもたらすと考えられ、それも大きな魅力です。私生活を犠牲にして過労死するくらい働かされ、高給をたとえもらっても魅力にはなりません。

 特に日本のIT系企業の労働環境は世界的にも低く、たとえば、ベトナム人の友人の息子はサンフランシスコに住み、米グーグルに勤めていますが、フレックスで朝10時出勤、4時には帰宅し、今はテレワークでも労働時間は変わっていないといいます。

 日本のIT系企業の矛盾は、人間に代わるテクノロジーを提供することで豊かな生活を実現するのが目的なはずなのに、それを生み出す人々は自転車操業で、未だに古い根性経営が強調されたりしていることです。成果主義の名のもとに不当なプレッシャーに晒される従業員は少なくありません。

 無論、コロナのおかげでテレワークになり、住むところも選べる状態は大歓迎ですが、問題は労働時間といえるでしょう。同時に豊かな発想こそが競争力の鍵を握る時代、カルチャーダイバーシティ効果という点でも日本は後進国です。未だに異文化に対するリスペクトの意識が不足しているのも足かせです。

 日本が世界の高度人材にとって魅力的になるためには、働き方においてドラスティックな改革が必要です。リーダーシップやマネジメント、生産性といった分野で日本人にしか通用しないやり方ではなく、世界の誰もが納得する普遍性が求められています。

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   南米パンタナールの広大な自然

 新型コロナウイルスのパンデミックの長期化で、われわれの生活が過去にない変化を見せる中、人々は生きる力になっていた人とも交流がままならない状況の中、不安やイライラが募り、メンタル管理が難しくなっています。ノーベル賞級のあらゆる優れた英知も、この状況を予想して人はいないといわれています。

 私は昨年2月、コロナ禍が本格化する中、個人的に思ったことは旧約聖書に出てくるバベルの塔の話で、1度、このブログにも書きました。物語は人間が神抜きに勝手に巨大な塔の理想郷を建設しようとしたことが神の逆鱗に触れ、建設作業の不可欠なコミュニケーションを封じるため、互いがしゃべる言語を通じさせなくしたという話です。

 ピーテル・ブリューゲル1世が16世紀に描いた《バベルの塔》は、雲を突き抜ける塔を脅威の想像力によって描かれたものでしたが、聖書にはバベルの塔の具体的な姿は描かれていないので、ブリューゲルという芸術家の想像力によるもの以外の何物でもありません。

 ポイントはギリシャ神話の時代から神々が天から人間を見下ろしていたとあるように、人間を超越した圧倒的な存在は「天上」にあるという認識が人間に定着し、バベルの塔が天を衝く高さなのは、人間の不遜を表現したものでした。

 その意味するものは人間に心と体があるように心は神に属するもので、物質や金は体に属するものということでいうとバベルの塔建設をめざした人間はモノと金に支配された者たちによるものだったということです。

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  ピーテル・ブリューゲル1世《バベルの塔》

 産業革命を繰り返し、デジタル革命までに至り、時間、空間を超え、何でも人間の力でできるという過信が生まれたともいえます。ITビジネスや化石燃料に頼らないモビリティビジネスの成功者らは競って「天を突き抜け」宇宙にまで進出し、簡単に「世界を変える」と息巻いています。

 科学万能主義が極まっている状況の中で発生した想定外のコロナのパンデミックは、デジタル時代にふさわしく、リモートワークなどで対応していますが、コミュニケーション手段の限界を感じ、感染が落ち着いた時点で職場復帰したら、同僚との他愛ない会話が、どれだけ仕事への意欲に貢献するかを実感する報告はいたるところで聞かれます。

 バベルの塔は多数の言語を生み出すきっかけになったとキリスト教史では信じられていますが、同時に天を貫く理想郷のプロジェクトは阻止されました。それはともかく、期せずして世界がコロナのパンデミックに襲われる中、知らず知らずのうちに人間は未知の世界に遭遇しているように見えます。

 絵を描くことがライフワークになっている私からすれば、悪戦苦闘していい絵を描くことに挫折し、描いたものをナイフで削り取るか、カンバスを張り替えて再度、真っ白なカンバスでゼロから描き始めることもあるわけですが、今、世界ははそのような状態のようにも見えます。

 さらに数年前に訪れた南米の秘境、世界自然遺産のパンタナールで、自分がいる場所から見える四方の地平線までに誰も人が住んでいない自然環境を経験をしたことにも通じるものがあります。

 つまり、人生の物語は今から始まるというワクワクした感覚です。最近、母をあの世に見送り、孫の顔を見ると、人生の終わりを迎えた母とこれから人生を始める孫に、何ともいえない感慨に襲われました。コロナ禍で未知の領域に踏み出した人類は、過去の因縁に囚われず、新しい絵を描ける出発点に立っていると見ることもできます。

 作家の安部公房は著書『砂漠の思想』の中で、砂漠に立った時に覚える何とも言えないワクワク感について書いています。砂漠は自然的要因と人為的・社会的要因から生まれるといわれますが、樹木や草の生えない砂漠は、人間の心に特別な感情を引き起こすのも確かです。昔は「東京砂漠」などという言葉が流行ったこともあり、人間にとっての不毛を意味しました。

 なんとなくひたひたと押し寄せる不安の方が強調される昨今ですが、悲しい別れを強いられる人々も少なくない一方、個人的にはワクワク感の方が大きいといえます。それもコロナで人間は文明の根底的なリセットをする機会を得ているともいえそうです。喜びや悲しみ、苦悩も吸い取ったキャンパスの古い絵を削り取り何を描くのか、新しい挑戦の始まりです。

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