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 10月31日から11月12日にかけて、イギリス・グラスゴーで開催される国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に暗雲が垂れ込めています。気候変動対策は待ったなしの世界的課題であるにも関わらず、その根幹をなすエネルギー問題で政治経済危機に見舞われているからです。

 特にアメリカと並ぶ温室効果ガス最大の排出国、中国で石炭依存度を下げた結果、さまざまな工場で停電が多発し、「世界の工場」が機能不全に陥っています。ロシアは天然ガスなどの欧州供給を政治的道具に使い、中東産油国が増産を控えていることで、世界的なエネルギー高騰が続いています。

 では代替えエネルギーはどうかといえば、到底、今の時点で既存のエネルギー資源に代わる規模の供給量は持たず、温室効果ガスを排出する自動車の電気自動車(EV)化も追いついでおらず、同時にEVの普及に伴う電気需要を賄うための発電に伴うエネルギー源の脱化石燃料も追いつかない状況です。

 エネルギー価格急上昇の衝撃は、結果的に再生可能エネルギーへの転換を図ろうとする中でも、世界が依然として化石燃料に依存していることを思い知らされた形です。そして気候変動問題でリーダーシップを発揮したいアメリカのバイデン政権やヨーロッパ、中国などの大国は厳しい現実を突きつけられた形です。

 特に最悪なのはアフターコロナの経済復興におけるエネルギー需要の想定外の急速な増大が中国を先頭に始まっていることです。このまま気候変動問題で化石燃料依存度を下げれば、経済復興にもブレーキが掛かることは必至で、グラスゴーのCOP26は八方ふさがりの状況の中で開催されることになります。

 過去の気候変動対策の国際会議で実現しそうにもない目標を掲げ、問題を先送りし、特に影響の大きい中国を放置してきたことが、いよいよ世界に本格的なダメージを与えています。よりクリーンなエネルギー源への転換を加速させようと努力している中、現在の状況は、世界のエネルギー供給のぜい弱性が露呈した形です。

 専門家の間では、エネルギー転換に伴う今のような厳しい状況は今後、何年も続くだろうと予測しています。そうなるとコロナ禍からの経済復興と脱化石燃料の加速という、待ったなしの両者の課題を解決するための方法を模索する必要性は高まるばかりです。

 EV化が進まないヨーロッパで英国やフランス、ドイツのガソリンスタンドに車の長蛇の列ができていても、ハイブリッドを含むEV化の遅れだけを批判するわけにもいきません。EV化しても電気を作るエネルギー源のクリーン化が全く追いついていない以上、問題解決には繋がらないからです。

 国際エネルギー機関(IEA)は今月、石油も石炭もコロナ禍前の水準に需要が増加しており、2025年まで上昇が続くという見解を出しています。そのためIEAとしては、気候問題の解決とエネルギー需要急増を同時に解決するためには、代替えエネルギーへの切り替えに対する投資額を少なくとも今の3倍に増やすことが求められるとしています。

 具体的には送電や蓄電などの技術を発展させることとしていますが、コロナ禍で疲弊した財源を抱える各国政府が、どこまで投資を増やせるかは疑問です。代替えエネルギー源の代表格の太陽光パネルは現在、中国の石炭火力発電所が生み出すエネルギーを利用して大半が生産されている状況です。

 太陽光パネルの原材料であるポリシリコンの4分の3以上を供給している中国に依存する限り、太陽光パネル普及には、さらに温室効果ガスを排出する結果になります。コロナ禍で露呈したサプライチェーン問題は、環境問題にも暗い影を落としています。

 経済復興を支えるエネルギー問題が危機に直面する今、経済の安全保障という意味でも、現状を打開するために市場原理だけでは問題解決ができないことは明白です。アフターコロナに浮かれている状況でないことだけは確かといえます。

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