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 生まれて初めて、そば粉をべースにしたフランスのガレットを食べたのは30年以上前のことでした。これまで食べた量は1,000皿は軽く超えると思いますが、初めてガレットを食べた日本人の中には「フランス風お好み焼き」という人もいます。

 今では日本でもすっかりポピュラーですが、まさか日本で流行っていたクレープの故郷がフランス西部のブルターニュの郷土料理だと知っていた日本人はあまりいませんでした。それに小麦粉べースのクレープとそば粉べースのガレットがあることも、それほど日本では知られていませんでした。

 総称はフランス語でクレップ・ブルトンヌといい、この料理をメインで提供するレストランを「クレップリー」といい、私が長年、拠点の一つにしてきたブルターニュの中心地、レンヌの旧市街には数えきれないほどのクレップリーがあり、ブルターニュからの終着駅、パリのモンパルナス駅周辺にも多くあります。

 しかし、クレップリーはフランス全国各地にもあるほどポピュラー。それにガレットはフランス料理の一つで、ブルターニュのガレットだけを指しているわけではありません。パンケーキスタイルのガレット・デ・ロワやコントワーズなどが様々なガレットがあります。

 中でもそば粉で作られるガレット・ブルトンヌが領土料理のブルターニュは、そば粉の最大の生産地で800を超える生産者がいます。製粉業者を多く、全国のスーパーに「Farine de ble noir de Bretagne」(ブルターニュそば粉}として陳列されています。日本のそば粉よりコシがある感じです。

 ブルターニュでそばが盛んに栽培された理由は、他の農作物を育てるのに土地が向いていなかったことや水はけがよかったことが挙げられています。ブルターニュは半島で三方を大西洋の海に囲まれ、フランスで消費される魚介類の6割を供給している一方、農業には適していない土地とされ、そのため、そばが栽培されたといわれています。

 貧しい地域でもあったブルターニュは、他の地域ほどの洗練された料理が多いわけではない一方、生牡蠣など、新鮮な魚介類とともにガレット、クレープが郷土料理になりました。

 ガレットの魅力は中に入れる食材の幅広さといえるでしょう。ガレット生地に塩バターを塗っただけのバレット・オ・ブール・サレから、基本のコンプレは、ホワイトハムにチーズ、卵の3種が入ったシンプルなものです。ハムの代わりにソーセージ、ベーコン、ホタテなどを入れ、さらにマッシュルーム、トマトソースを加え、チーズもカマンベールを入れるなど可能性は無限に広がります。

 ガレットを食べ終われば、デザートとして甘いクレープにジャムやはちみつを塗ったり、アイスクリームを入れて食べたりします。これらはブルターニュの中でも西側のブレストやカンペールと東側のレンヌでは中に入れる物に独自性があり、食べ歩く人もいます。

 ガレット・ブルトンヌに欠かせないのがアルコール度数が低いリンゴの醸造酒、シードルです。これを陶器のカップに注いで飲むのが一般的です。そばとリンゴ酒ともに健康には良さそうですが、昔は貧しかったブルターニュにはアル中が多かったともいわれています。

 貧しさのためにパリに出稼ぎにいくブルトン人が到着するモンパルナス駅には、画家のモデルになるブルトン女性が多く、モンパルナスに画家が集まった理由の一つといわれています。彼らもモンパルナスのクレップリーでガレットを食べて故郷を偲んだことでしょう。

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