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Georgia O'Keeffe (1887, Etats-Unis - 1986, Etats-Unis) Jimson Weed / White Flower No.1 ⒸGeorgia O'Keeffe musium /adagp,Paris

 40年以上前の話ですが、アメリカ・ニューメキシコ州のアビキューという村に人を近づけない変わり者の女性がいて、その名はアメリカ・モダニズムの先駆け的存在の女性芸術家、ジョージア・オキーフだということでした。彼女は夫なき後、98歳で亡くなるまで40年間をそこで過ごし、多くの作品を残しました。

 18世紀まで遡れる彼女の家は、荒野で孤立した自然に溶け込む歴史とモダンが同居するオキーフ作品のような建物です。彼女は1人であることを好み、黙々と制作を続けたといわれています。モチーフは牛の頭蓋骨や花、石など身の回りにあるものでした。

 今は、パリのポンピドゥーセンターでは、20世紀の現代アートに大きな足跡を残したジョージア・オキーフのフランスでの初めての大回顧展(12月6日まで)が開催されています。フランスの美術館は9月にルーヴル美術館に史上初の女性館長、ロランス・デカール氏を迎え、8月までパリ・リュクサブール美術館では「女性画家、1780年‐1830年」展が開催され、今の時代の趨勢を反映しています。

 オキーフは、このブログで紹介したデ・クーニングなどの抽象表現主義が登場するかなり以前の世代で、抽象画が描いた最初期の画家です。しかし、実は本当の意味でアメリカ美術界をけん引し、若き優れた画家たちに刺激を与えたのは、彼女が夫を亡くし、孤立したニューメキシコの自宅兼アトリエで制作していた時代でした。

 1960年代に「ハードエッジ」抽象絵画のパイオニアになる前に、オキーフは、ヨーロッパから切り離されたアメリカ人のアイデンティティ探しが巻き起こった1930年代にアメリカのモダニズムの探求者の1人でした。そのオキーフが岡倉天心に関心を寄せていたことは大変興味深いといえます。

 オキーフが晩年愛読していた岡倉天心の『茶の本』に「細かいことに繊細な目を向けて生きることだ。季節の花、石に落ちる水の音、暮れなずむころの気配などに。そうすることで自分が大きくなれるからではない。自分を超越する者と調和して生きられるようになるからだ」とあります。

 東洋の精神そのものといえる人間と自然の共存と調和を重視した天心の世界観に魅了されたオキーフは、人間のために強引に自然を破壊・変更する西洋的思考とは遠く離れた魔法の土地と呼ばれる美しい景観の広がる土地に住み、制作を続けた。最晩年も目も弱り、陶器での作品も残した。

 周辺から集めらえた川岸の石や動物の骨、咲き誇る花や草木に囲まれて、極めてシンプルな生活を送っていたといわれるオキーフは、道を極める女性求道者のような迫力があったと知る人は証言しています。本人自身は孤立を厭わない狩猟民族の末裔のようでありながら、東洋精神に影響を受けていました。

 パリからニューヨークに最先端の芸術の発信地が移った戦後ですが、フランスで19世紀に日本の浮世絵がインパクトをもたらしたように、アメリカのモダニズムにも岡倉天心の存在があったことは感慨深いものがあります。オキーフを尊敬する草間彌生の理解者で支援者としても彼女は知られています。

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