Business-Team-Teamwork

 若い頃は多くの失敗をするものです。教師を父に持つ私は人の上に立つ者は、何でも答えを持つ「師」であるべきだと考え、小さなチームを率いて消耗してしまったことがあります。助けを求められたら100点満点のアドバイスが必要と考え、そんな答えを持っていないのにそれらしく答えているうちに疲れは頂点に達しました。

 原因は自分自身が上司に対して、100点満点の答を求めていたからです。日本のビジネスマンの調査では、部下の質問に対して、上司は常に適切な答えを準備する必要があると考えているのは9割にのぼるといわれ、逆にアメリカ人は、その必要はないという答えが圧倒的に多かったといわれています。

 東洋では儒教の長幼の序や仏教の悟りを開くという考えもあり、人の上に立つ者は、まず、人格者であるべきで、同時に全てのことに答えを持っている「師」であるべきと考える傾向があります。部下は上司を崇拝し、チームはリーダーを中心に1つになることが最重視され、人間崇拝にも発展します。

 しかし、崇拝されるほどの人間はそもそもいるわけもなく、東洋的「師」の思い込みはリーダーに強いプレッシャーと極度のストレスを与えます。結果、日本ではリーダーになりたがらない、昇進を望まない若者も増えています。そのプレッシャーに見合う報酬も得られないという理由もあります。

 よくリーダーはオーケストラの指揮者にたとえられますが、演奏者一人一人は自分の演奏で精いっぱいで全体は見渡せません。全体としてのパフォーマンスを出すのは指揮者の役割です。事実、全体の音を聞けるのは指揮者の位置だけです。

 指揮者、つまり、リーダーの仕事は、一人一人のメンバーが最高のパフォーマンスを発揮するように導くことと、全体としてパフォーマンスを出すことです。そこにはメンバー1人1人のモチベーションを高めることも含まれます。モチベーションは仕事に見合った報酬と、クリエイティブな仕事の面白み、個人とチームの達成感によってもたらされます。

 つまり、チームのメンバー1人1人の満足感が高いパフォーマンスをもたらすわけなので、リーダーの仕事はいかに満足感を与えるかということになります。ところが部下が直面する現実を全て先駆けて経験しているわけもないリーダーが常に正しい答えを持つこともあり得ない。

 では逆にリーダーの満足は何かといえば、チームのメンバー1人1人が自ら解決能力を高め、主体的、自律的に仕事に取り組んでくれることでしょう。それも生き生きとして目標に向かってチームで仕事に取り組む姿を見たいのがリーダーのはずです。

 東洋人が陥りやすいのは、過干渉の親のようになることです。そうなると消耗しかなく、結果が出ない場合、自分も部下も攻める最悪のパターンに陥ることもあります。

 高い水準の教育を受けた層が過半数を占めるようになった先進国では、無能なために命令し、管理しなければ、すぐに仕事をさぼるような労働者はいなくなっています。つまり、チームを構成するメンバーは自律的に自ら問題を解決し、自由でクリエイティブに仕事に取組むことを求める時代です。

 リーダーの仕事が「管理」の時代は終わろうとしています。管理職という言葉も、いずれ死語になるでしょう。私の成功体験の一つは、自分の知らないことの多い世界で仕事をした時、人間は一人一人情報の塊だと考え、部下にできるだけ提案することを求めたことでした。

 ハーバードビジネスレビューによれば、企業にとって生命線ともいえる「イノベーションのための最も実用的で有効なアイデアの75%は、顧客やオペレーションに最も近い現場の従業員から生まれる」と指摘しています。「彼らは象牙の塔にいる人々よりも、顧客の不満やオペレーションの現実、テクノロジーの可能性、他の問題もはるかによく理解している」というのは本当のことです。

 自分の提案が用いられ、チームとして結果を出せた時の本人の喜びはひとしおです。1980年代のCanonの成功は、若い社員にどんどんアイディアを出させ、それを製品化したことだったといわれています。ある30歳前後の社員は私に「このFAX機は私のアイディアで製品化されたんですよ」といっていたのをよく覚えています。

 今はどんな仕事にしろ、それで自分がスキルアップできるかということへの注目度が高まっています。チームに参加してスキルアップできるかは、個人の能力をどう引き出せるかのリーダーのスキルにかかっています。自分で考え抜き、挑戦するように仕向け、多少のリスクはリーダーが責任を負う姿勢が重要です。

 多くの企業が未だに上からのプレッシャーで成果を出そうとしていますが、効果を生むどころか、結果を出すための不正行為が頻発し、企業イメージを落とすケースが大企業を中心に続発しています。極度のプレッシャーは、上司への忖度を強要し、社員の自由意思を殺してしまう結果を生み、ひいては組織の腐敗にまで繋がることをわれわれは見てきました。

 私は長年、芸術にも関わってきた人間として、答えは1人1人がクリエイティブであることと考えています。クリエイティブなチーム作りこそが、高いパフォーマンスを出し、メンバー1人1人に満足をもたらすのではないでしょうか。

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