Vaccination

 この1年8カ月、コロナ対策を巡って、結果はともかく国の対応は様々です。日本とフランスを比べれば、性善説の国と性悪説の国の対応は歴然です。国民に政治家が頭を下げてお願いする日本は、国民の善意を頼りとし、規制で従わない国民を前提に罰則のある規制を導入するフランスの違いは興味深いものです。

 9月15日、フランスは政府が定めていた期限通り、最低1回のコロナワクチン接種を終えていない医療及び介護従事者に対して、各機関からの停職処分に踏み切りました。その数は約3,000にんといわれています。涙を流しながら病院から処分通知の紙を持って出てくる看護師の様子がテレビで放映されました。

 日本人から見れば、ワクチン接種に反対した結果なのだから、泣いても仕方がないと思うところですが、政府の規制は不当だと訴えながら泣いている姿は、とてもフランス的です。一方で停職処分を下した各機関は処分で減った人材をを補うため、派遣従業員などを雇い、急場をしのいでいる状態です。

 フランスは、そもそもワクチン手配で手間取り、昨年12月にほんの一部の医療従事者の接種から始まり、今年4月からようやく加速しました。ところが7月にはワクチン接種率が鈍化し、危機を感じた政府はワクチン接種完了や抗体検査陰性証明の「健康パス」の適用範囲を拡大し、医療介護し従事者のワクチン接種義務化に踏み切りました。

 現在はスーパーやスポーツスタジアム、美術館などの大型施設に加え、カフェやレストラン、高速鉄道TGVの利用にも健康パス提示が義務付けられています。今度はワクチン義務化の期限が来たことで、未接種の医療及び介護従事者は職場から追い出されました。

 そもそも、個人の自由を尊重し、政府を信頼しない文化のあるフランスでは、ワクチン接種そのものへの抵抗感があり、昨年末の世論調査ではワクチンは打たないと答えた人は6割に達していました。マクロン仏大統領は国民の反発は承知の上で対策実施に踏み切ったといえます。

 当然ながら、来春に大統領選を控えている時期でもあり、何とか劣勢を回復したい左派勢力を中心に、毎週土曜日には抗議デモが仏全土で展開し、今週18日の土曜日で10回目を迎えます。2018年から続く反政府の黄色いベスト運動の呼びかけが中心ですが、政府は妥協する姿勢は見せていません。

 実は、抗議デモに参加している人の中にも2回の接種を完了している人は少なくなく、抗議運動が政治的であることを物語っています。健康パスがないとディスコにも入れない今、とりあえず不便解消や安全性確保のために接種を受け入れている国民が圧倒的に多いのが現状です。

 フランスで今月14日時点で1回接種率は74%、2回接種完了は64%となり、フランスより先行したアメリカより接種率は高いことと、抗議デモン図式も、いかにもフランス的です。

 今回、罰則を前提としたワクチン義務化対象になった医療従事者や救急隊員、高齢者施設の職員約270万人の中で抵抗を続け、停職処分となった3,000人が今後、接種を受け入れるのかは不明です。この数を政府は織り込み済みとしているようですが、これが性悪説の国の現状です。

 日本にも何でも法律で解決しようと主張する論者は「フランスは非常にうまく対応している」という人もいます。ところが隣国の英国ではワクチン義務化議論は、自由と人権、平等の観点からの批判を受け、政府は導入を断念しました。大統領制のフランスは厳しい規制を断行し、議院内閣制の英国は世論が認めなければ政策を諦めるといった結果になりました。

 個人的には、今回のコロナ危機を有事とするなら、有事立法という発想もあるので、罰則を伴った規制もあり得るとは思いますが、同じ生命に関係する戦争のような有事と異なり、感染症は加害者と被害者、敵味方が判然としないため、判断は難しいと考えています。

 一つだけコロナ禍について明確に厳しく罰することがあるとすれば、この新型コロナウイルスを最初にバラまいた発信源です。これが隠蔽されているために正体が未だ分からないことで、455万人が命を落としたことは最も批判されるべきことでしょう。

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