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 企業や大学で人材育成に関わってきた者として、「気づき」がいかに重要な能力化を痛感しています。ある有名な官僚出身の学者が入省当時、「先輩から、普通の人間が1年掛けて理解することを1週間で把握するのが優れた官僚だ」といわれた話を聞いたことがあります。

 ジャーナリストという職業も現場に取材に行き、短時間で現状を正確に把握するため、どれだけ多くのことに気づけるかが結果を左右します。無論、地道な気の長い調査も必要ですが、最初の気づきはその後の調査を大きく左右します。

 今は新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中がリスクマネジメントで苦労しています。その最も基本は現状の正確な把握です。それがその後のリスクの分析、分類、対処に繋がっていくわけですが、最初の現状把握を間違えば、全て台無しです。多くの優秀な部下が情報を集めてきても、トップに立つ人間に把握能力、理解力、すなわち、気づきが不足すれば、前には進めません。

 では気づきの能力は、どう磨いていけるのでしょうか。それとも磨くことのできない先天的な感性で、どうしようもないのでしょうか。

 同じ会議に複数の人が参加する場合、気づきは千差万別です。ましてや国籍や人種が違えば、理解の仕方も驚くほど違います。

 たとえば、非常に似たコンテクストを持つ日本人は、会議で「わが社は今、非常に経営が厳しく先が見えない状態だ」と経営者がいえば、多くの社会は不安を感じたとしても「もっと自分たちでできることはないのか」と頑張ろうとしますが、そこにアメリカ人がいれば「すぐに転職先を探さなければ」と思うかもしれません。

 持っているコンテクストの違いは、国をまたいだ異文化だけであく、国内でも世代間の違い、地域による違いなども影響します。ダイバーシティ効果は、たとえば、男性に気づけないことを女性が無理なく自然に気づいてくれることを期待しているともいえます。

 異文化に触れることでの気づきは非常に豊かなものです。人類の歴史は異文化接触によって文明が進化してきた歴史でもあります。明治維新も欧米の異文化に接触したことで、一気に近代化に向かいました。敗戦でアメリカの支配を受けたことで自由と民主主義、人権の考えが日本を育てました。

 無論、異文化接触はいいことばかりでなく、伝統的価値が失われる面もあります。今、イスラム原理主義のタリバンが支配するアフガニスタンでは、20年間の欧米支配で自由と権利に目覚めた女性たちが、タリバンの恐ろしさも知らず、路上で声をあげています。

 イスラム教の伝統的慣習である女性が頭部や全身を覆うヒジャブやブルカ着用をすることは中東では一般的です。イランに住む日本人の友人はイスラム教徒で、ブルカを着用する方が落ち着くといっています。

 2015年に大量に流入したシリア難民もイスラム教徒ですが、ドイツや北欧で強姦事件が多発し、難民の男性たちは地元の女性を「売春婦のように男を誘う服装をしている」といっていました。

 深い宗教的価値観に根差いした習慣を変更させようとすれば、さまざまな不具合が起きるのも常で、ダイバーシティは混乱ももたらしますが、それを乗り越えながら、気づきの幅が広げながら文明は発達してきたともいえます。

 気づきに話を戻しますが、私は子供の時から絵を描く人間として、芸術は気づきの上に成り立っているといえます。無論、天才は生まれた時から、モチーフに対して普通の人が10時間かけて気づくことを数秒で気づくことができる能力を持っているのは確かです。ピカソの12歳の時のデッサンを見れば歴然としています。

 しかし、気づきの量を増やすことは凡人にもできます。よく「無知は死の影」といいますが、特に歴史的知識を蓄えれば、目の前の事象を深く理解することができます。そのため知識を増やすことは当然ながら重要ですが、単に記憶するだけの知識では役に立ちません。その意味も学ぶ必要があります。

 感性も磨くこともできます。たとえばデッサン力を高める訓練として、5分間モチーフを見た後、その記憶だけでモチーフを見ずにデッサンする方法があります。これは半世紀前のマニュアル操作しかないカメラを扱うプロのカメラマンが、撮影対象を見て、すぐに距離と露出を判断する訓練をした話しに似ています。

 これも訓練すれば、ある程度は誰でも磨けるものです。つまり、最初は3つのことにしか気づかなかった人が30のことに気付けるようになるという話です。それは訓練のたまものです。その気づきの能力の向上が、状況をより正確に把握する能力を持つことに繋がるということです。

 もう一つは気づきには目的感も重要です。かつてSonyの創業者、盛田昭夫氏は若者の動向を観察し、音楽を外出時でも聞けるようにできるウォークマンを開発しました。社内の反対を押し切って製品化し、大成功した事例です。盛田氏には売れる製品を開発する目的意識から、何を若者が求めているかを知りたいという強い好奇心がありました。

 成長する製造業にとって、気づきは何よりも重要です。ディズニーはアトラクション開発で、天才的な人材10人に年間それぞれ1億円を渡し、アイディアを出すようにしてた話は有名です。これも気づきの天才に期待したものです。

 気づきはすべての分野にとって重要ですが、自分はその感性がないとあきらめる前に、地味な努力を積み重ねていくことも重要です。

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