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 アジアを中心とした新興国は、コロナ禍以前から人口増加と経済成長による都市化が急速に進んでいます。特に、ただ高層ビルを無秩序に乱立させるのではなく、中間層の増加により、質の高いインフラ・サービスに対する需要が高まっています。そこでスマートシティー計画が各国で推進されています。

 多くの可能性を秘めた新興国の町づくりは、ビジネス的にも各種産業の参加の余地が大きく、外国の力を借りたい国々では、地元のスタートアップを助けながらも、グローバル企業にもビジネスチャンスが広がっています。都市は国力を表す文明そのものなので、アジアの各新興国は力を入れています。

 いうまでもなく、今の時代のトレンドは、持続可能な開発目標(SDGs)を掲げることです。都市開発においても、人工知能(AI)、ビッグデータなど最先端技術を活用し、社会インフラを整備するスマートシティー開発への取り組みが、新興国でも進んでいます。

 行政のIT化ではバルト3国のエストニアが有名ですが、スマートシティー開発では国が投資しやすいエネルギーや行政サービス分野でアジアでは先行投資されています。IT技術を活用した都市電力などのエネルギーを賢く利用する「スマートグリッド(次世代送電網)」や、自治体が統合的なデータプラットフォーム上に電子政府を構築し、防災システムなどを展開する取り組みなどがあります。

 もともとアジアといえば停電が多く、日系企業の生産拠点である、タイやベトナムでは工場稼働の課題となっています。行政サービスも未整備な部分が多く、今回のコロナ禍でもその脆弱性が露呈したりしています。その一方で後発メリットとして未整備なものが多いために最先端の技術を容易に導入しやすい環境もあります。

 スマートシティー開発のメリットはそのトータルな取り組みにあります。中央政府や地方自治体だけでなく、産業界、住民などのステークホルダーの協業が不可欠です。上下水道のインフラ、モビリティ、利便性、安全性、衛生から美しい住みよい街並みまで、社会的課題の解決をトータルに行うことは大きな魅力です。

 スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)と、シンガポール工科デザイン大学が発表した2020年のスマートシティーランキング「IMD Smart City Index 2020」では、前回2019年に続きシンガポールが1位でした。一方、東京や大阪は、それぞれ前年の62、63位から、79、80位へと大きく順位を落としています。

 実はランキング上位がアジアというわけでもなく、上位では8位の台湾の台北、32位に香港、46位に韓国の釜山と、圧倒的に欧米諸国が上位を占めています。逆にいえばアジアはまだ、伸びしろが充分あるともいえます。

 スマートシティー開発では、国の事情によって大きく異なり、先進国は少子高齢化や健康、老朽化した基礎インフラの維持・更新、低炭素社会への移行などの課題がある一方、そのそも基本インフラの未成熟な新興国はその整備が喫緊の課題です。

 ただ、先進国の都市が生み出した弊害で今、新興国が急速な都市化で直面する人口集中、交通渋滞、環境、貧困、所得格差、治安悪化などの課題を解決するため、環境負荷の低いスマートシティー開発の主眼となっています。インドネシアは首都移転を含め、スマートシティー実現で既存の都市からの物理的脱却も議論しています。

 実は先進国の新興国、途上国への最新の援助形態は、資金援助ではなく、スマートシティー開発主体のコンサルタントや、ソリューション・機器・サービスの提供などにシフトしています。政治不安定などの理由で資金援助にはリスクがあるからです。

 コロナ禍からの教訓として、スマートシティー開発にはかなりの比重で公衆衛生が加わりました。この分野での技術提供もビジネスチャンスになっています。都市開発が生み出すビジネスチャンスは無限ともいえるものです。日系企業のさらなる参入を期待したいところです。

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