Former_Taliban_fighters_return_arms

 本当の事情は現地にいないので正確には分かりませんが、結果的にアフガニスタンからの米軍撤退期限の8月31日時点で、出国を希望する日本人数百人を救出できなかったのは事実なようです。同時に日本政府の初動の遅さやその後の対応を見ながら、世界に散らばる日本人は不安と失望、怒りを感じているのも明らかです。

 日本国民の生命と財産を守るという政府の基本責務が果たされなかった結果については、深刻といわざるを得ません。同時に欧州諸国の初動の速さと運んだ人数を見ると、完ぺきといかないにしろ、ドイツでは5,000人以上、フランスでは2,500人以上の自国民とアフガン人協力者を救出しています。

 日本の報道では、「政府は週内にアフガニスタンからの邦人らの退避支援にあたっていた自衛隊を撤収させる方針だ。米軍が31日に首都カブールの空港から撤退するのを受け、最終判断する。茂木敏充外相が任務終了を依頼し、岸信夫防衛相が自衛隊に命令を出す」(日経30日付)。

 「自衛隊は26〜27日にかけ、共同通信の通信員の邦人女性1人とアフガン人14人を隣国パキスタンまで輸送した」「アフガン人の日本大使館職員や家族ら最大500人を輸送する想定だった。26日にはカブール空港周辺で発生した自爆テロに阻まれ、実現しなかった」としています。

 しかし、自爆テロが起きた後もドイツもフランスも救出活動を続行し、救出を続けていました。救出すべき邦人やアフガン人より、救出にあたる自衛隊員の人命を優先した可能性もあります。自衛隊派遣に関わる法的根拠を含む野党の追求を避けることも考慮されたのかもしれません。

 まず、日本政府の救出活動の遅さに驚かされ、それが相も変わらず、法的根拠で揉めていたとすると、日本は有事対応はできないことを世界に見せつけたことになります。同時に邦人の人命保護を最優先するアクションが即座に起こされなかったことは、多くの法人を危険に晒す結果になりました。

 さらに危機対応ということでは、状況分析の甘さが露呈したのも事実です。それとも日本は邦人を残しても日本と友好関係にあるアフガニスタンのことだから、タリバンが邦人を守ってくれると判断したのでしょうか。タリバンが主管できない過激派組織イスラム国(IS)も邦人に危害は加えないと分析しているのでしょうか。

 フランスやドイツはカブール空港を守る米軍から27日までに救出活動を終えるよう要請を受け、27日、28日に活動を終了させましたが、ミッションを完遂したとはいっていません。今後は国連も通じながらタリバンと交渉を続ける構えで、マクロン仏大統領は、カブールに「安全区域」を設定するよう国連安保理に提案しています。

 日本政治の対応で、もう一つ欠けていたのは、アフガン情勢の急変に対して明確なメッセージを発出できていなかったことです。アフガンがイスラム勢力タリバンに主権を奪われたことについて、明確な日本の立場や価値観(自由と民主主義、女性の人権重視)を明確にすることや、救出に関する強い意志を表明しなかったことです。

 リーダーシップとリーダーによるメッセージの発出というリスクマネジメントの基本原則は、新型コロナウイルスに対しても、日本政府はその欠陥が露呈し続けました。さらに最も深刻なのは人命よりも憲法との照合など原則優先の姿勢や有事対応ができない法の改正を怠ってきた事情が明らかになっていることです。

 血が通っているとは到底思えない心が不在下政治が、邦人とアフガン人協力者を地獄と化したアフガンに置き去りにする結果を生んだことは今後、非難されるべきでしょう。特に今後、世界中で起きる可能性があるカオスのような状況への準備は必須といえるはずです。

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