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 英政府は今月20日、スポーツなど大規模イベントでの新型コロナウイルス感染リスクの調査結果を公表しました。それによると、延べ35万人以上が訪れた7月の自動車F1シリーズ英国グランプリ(GP)など37のイベントを調査した結果、開催中の会場外の地域感染率とおおむね同水準か、それを下回ったとしています。

 ダウデン文化・スポーツ相は「大規模なスポーツ・文化イベントを安全に再実施できることが示された」と述べ、ワクチン接種効果もあって深刻な問題になっていないという見解を英政府は示しました。

 一方、同調査報告では、6〜7月のサッカー欧州選手権で、計約6,400人の観客が感染したとみられるとも発表し、密状態で「ウイルスがいかに容易に広がるかが示された」とも指摘しています。

 今夏の長期ヴァカンス先で欧州では、多くの若者がハメを外し、大小の音楽コンサートなどにマスクなしで集まり、今後、彼らが持ち帰るウイルス拡散が懸念されています。実はフランスでは、1年前に感染対策が緩和された夏、ヴァカンス先でハメを外した多くの国民が帰宅後の9月に感染を拡大させ、10月にはロックダウンした経緯があります。

 ヴェラン仏保健省は「数日で新学年が始まり、現在、感染者の多いフランス南部と南西部地域で休暇を過ごしていたフランス人が今後、感染者の抑えられていた都市部に帰宅するため、昨年と同じように9月からの感染拡大を懸念している」と警鐘を鳴らしています。

 ワクチン接種と感染者数の増加による「集団免疫の獲得」は、フランスでもインド由来のデルタ株の感染拡大で、医療体制もひっ迫しています。それも今は医師や看護師が1か月のヴァカンスを取っており、人手不足も深刻です。

 ただ、公道でマスクを着用していない人は増えており、今後、政府や自治体がどんな対策を取るか注目されています。政府は少なくともワクチン2度接種者を8割まで伸ばすことを目標にしており、さらに専門家は3度目の接種の必要性にも言及しています。

 ヴェラン保健相は「遅くとも今週後半8月28日ごろまでには第4波のピークを迎え、減少に転じることを期待する」との見解を示しました。フランスでのデルタ株感染の第4波により、集中治療室で治療する患者は依然、約2,000人超で減っていないため、医療体制はひっ迫状態にあります。

 ただ、感染力の強いデルタ株については、専門家の意見として「新型コロナウイルスの変異能力は限定的」と指摘しており、今まで発生した変異種は単に「同じウイルスが遺伝子的に進化したもの」で、まったく新しいタイプのウイルスではないので、対処は可能だ」としています。

 さらに「現存する世界で最も感染力の強いウイルス」であることから、「これ以上感染力の強い変異種の登場は考えにくい」とも指摘されています。

 仏政府は今後、65歳以上のすべての人々に3回目の接種を行うよう要請するだろうと仏メディアは報じており、開始は9月上旬が予定され、「2回目と3回目の注射の間には少なくとも6ヶ月の間隔を置くべき」との認識を保健相は示しています。

 フランスでは、2020年12月末に開始された予防接種キャンペーンの開始以来、4,700万人以上の国民が少なくとも1回の注射を受けており、これは総人口の70.6%に相当します。約4200万人が2回目の接種を待っており、完了すると総人口の61.8%が2回接種を終えることになります。

 科学的な観点から、現時点では3回目の投与は必要でないというのが、世界保健機関(WHO)の見解ですが、米英の研究機関はデルタ株への抗体の力が2回接種後に徐々に弱まる傾向があり、3回目の接種は、より安全性を高めるとの指摘もあります。

 フランス当局は「今後、重症化リスクが減り、季節限定のインフルエンザや風邪のようになっていくシナリオに期待したい」といっていますが、それには3回目のワクチン接種は必要との考えのようです。

 新年度は、ヴァカンス帰りの小中高、大学生も学校に復帰します。彼らがヴァカンス先から持ち帰ってウイルスが学校で感染拡大する恐れもあります。

 そのため、仏政府は9月の新学年開始に向け、大学および高校での換気を十分にした上での対面授業、小中学校の義務教育課程は、対面と在宅授業の混合で行うコロナ対策「レベル2」の制限を適用するとしています。

 フランスでは12歳以上がワクチン接種対象とされており、教員や学校スタッフだけでなく、生徒も接種を進めています。ブランケール氏は「フランスのすべての大学と高校では、学生と学校スタッフが施設の近くの接種会場か、校内の接種会場でワクチンを接種できる」と述べました。

 さらに「状況に応じて、移動チームが各学校の校内で接種を行うようになるか、付近の予防接種会場に学生を誘導することも検討している」との見通しを示しています。フランスでは今夏、12〜17歳の青少年の約55%が、1回の接種を完了する予定です。

 ただ、政府の今後の方針に対して、接種場所や動員される人材が充分ではないとの懸念の声も上がっています。国民の6割以上が支持しているワクチン接種や抗体検査の陰性証明の「健康パス」の学校での提示については「望ましくない」との見解を示しています。

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