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 日本は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的感染拡大)が起きる前から、働き方改革に取り組んできたわけですが、コロナ禍は予期せぬ方向に働き方改革を導いているようにも見えます。それはリモートワークがパンデミックの長期化で1次的なものではなくなりつつあることも確実に影響しています。

 最初からリモートワークがしやすく、なおかつ成果主義で個人個人のスキルが問われるIT業界は、リモートワークへの切り替えが容易でしたが、製造業などはそうはいきません。私の調査によると、日本では歴史のある元財閥系の大企業や古い働き方を頑なに信じている経営者がいる企業では、リモートワークは進んでいないのが現状です。

 特に社員の昇進、昇給に関係する勤務評価については、圧倒的にオフィス派が有利です。リモートワーク派や週に1度程度オフィスに行くハイブリッド型勤務の社員は、たとえ客観性を持った評価基準が定められていても上司も人間なので、対面の時間が少ない部下より、仕事以外でも接触の機会の多いオフィス派の方が有利という現状は、実はアメリカでもあることが報告されています。

 米ウォールストリートジャーナルは、米ペンシルベニア大学ウォートン校の経営学教授ピーター・キャペリ氏の指摘を掲載しており、「出社と在宅を組み合わせたハイブリッド型勤務制度の推進派が勝利した場合、職場が二層化し、昇進や昇給の大半をオフィスで働く社員が手にするようになるのはほぼ確実だ」と指摘しています。

 これは「人間のさがのようなもの」ともいい、遠くの優秀な人材より、近くで働く人材を高く評価する不公平感が拡がる可能性が高いというわけです。個人的にはそんな経験を、この30年間私もしてきました。保守的な某組織で仕事をしてきましたが、私自身は遠く離れた海外にいます。

 同じ仕事をしても、本社オフィスにいる社員はインセンティブも与えられ、昇進もしていくわけですが、私にはまったく関係ありません。仕事の評価は本社オフィスで働く社員と全く遜色ないことは数値化された情報で分かっていますが、そんなことは何も影響しません。

 これは日本の村社会のなせる業と長年思ってきましたが、リモートワークが拡がる中、欧米でも同じことが程度の差こそあれ広がっていることに驚きました。

 同時に人間心理が働くことにこれほど影響を与えていることを学びました。つまり、人間の想像力は大したものではなく、特に近くで上司の顔色を伺いながら、評価されるような行動をとる人間が得をするという現実は厳然としているということです。

 そのため、仕事の客観的評価は、昇給、昇進の1部でしかなく、人間関係の方が大きいということです。ある時、多くの社員が理解できない人物が突然、社長になり、後で聞けば、その人物は親会社との太いパイプがあるのが最大の強みだったことを知りました。よくある話ですが、経営者としての力量を人脈が上回ったという話です。

 個人的には、このような悪習は働き方改革、特にリモートワークの広がりで、ハイブリッド型勤務制度が定着することで、消えることを期待したいところですが、アメリカでも簡単でないとなると日本では期待薄かもしれません。

 遠くにいる有能な部下を正当に評価し、近くで胡麻をする部下についての評価で私情を排除する方法をリモートワークの定着では考える必要があるということでしょう。会議も画面越しとなると会議の前後の雑談に参加できず、空気を読むことが重要な日本社会では余計、一体感から遠ざけられてしまいます。

 キャペリ氏のアドバイスは、この劇的な働き方の変化を受け入れ、社員が働き方を選択する時代に突入している以上、最も意識転換が必要なのはリーダー自身ということになると書いています。これこそ最も大きな挑戦といえるでしょう。

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