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 アフガニスタンのカブール空港周辺で、タリバンの恐怖に怯え、助けを求めて泣き叫ぶ少女、自分の乳児だけでも助けたいと、今後一生会えないことを覚悟で、米兵に乳児を手渡す映像(実際は治療の上、父に返された)は世界を駆け巡り、世界中の人々が何もできないことを知りつつ、胸が潰れる思いで見つめています。

 9・11米同時多発テロで始まった21世紀は、東西冷戦を懐かしむほど無秩序で想定外な悲惨な状況が繰り返されており、今回は特に自由と民主主義、法による支配の価値観をもつ陣営で最も強力な存在だったアメリカが無力なことを世界に見せつける形となりました。

 専門家の中には、アフガン統治に乗り出したタリバンにとって経済が最も重要なことを考えれば、タリバンも人道に大きく外れるような残虐行為はできないだろうと呑気なことを言っている者もいますが、ならば、世界の国々の経済的依存度の高い中国で、新疆ウイグル族への恐ろしい弾圧は放置されたまま、どの国も関係を切ろうとはしていないのは説明は尽きません。

 アメリカおよび北大西洋条約機構(NATO)などの20年に渡る対アフガン政策の失敗を早急に分析する必要はありますが、世界の多くの人々は、自由と民主主義を望まない国、独裁国家でもいいという国、宗教の戒律が国家を支配することを是とする国は、それでいいという雰囲気が広がっています。

 アメリカは戦後の日本統治の成功体験がある一方、ベトナム戦争や今回のアフガン20年戦争は失敗に終わりました。敗戦前には自由と民主主義より天皇の絶対化と未成熟な議院内閣制しかなかった日本は、明治維新以降に欧米に学んだ素地があり、国民の倫理観も高かったことで連合軍側、とりわけアメリカは自らの価値観の定着がスムーズに行われました。

 しかし、民主主義を支える教育レベルや国民生活を支える一定の高い倫理観よりは、宗教の力が強かったり、近代化が遅れている国では、とりわけ民主主義の定着での成功例は多いとはいえません。アフリカ諸国がその好例で、インドや東南アジアも苦戦しています。

 アフガンでアメリカが国民教育に注力したのは正しい選択ですが、非常に長い時間が掛かる地味なもので、宗教などが教育に入ってくれば、あるいは歪んだナショナリズムが侵入するば、民主主義の定着にはなお多くの時間を要することはアフガンも例外ではありません。

 ある調査では、この20年間のアフガン駐留で昨年時点で2,436人の米国人が「不朽の自由作戦」で死亡し、約245兆円が費やされたとされています。にもかかわらず、圧倒的な軍事力と経済力を持つと思われたアメリカは、泣き叫ぶアフガン人を残し撤退し、不朽のはずの自由作戦は挫折してしまいました。

 日本の識者の中には、そもそも自由と民主主義の価値観を押し付けるべきではなかったという人もいます。裏を返せば、20年前、タリバンの統治下で起きていた恐ろしい人権弾圧、野蛮な大量処刑の繰り返しも、その国の国内問題なので放置すべきだったという論理になります。

 今、多国間主義の風潮の中で、確固たる揺るぎない信念より、柔軟性や多様性の受容があたかも先にあるかのような論調があることが懸念されます。文明は確固たる信念やヴィジョンなしに発展した例はありません。金銭的援助さえしていればいいというものでもありません。

 本来のアメリカの信念は、自由と平等、民主主義、法による支配にあり、その信念の普遍性ゆえに世界中からアメリカに移民が押し寄せているわけです。自分の身を守ることも危うい国、不平等が当たり前の国、自由に自分の意見がいえない国、権力者によって法が常に捻じ曲げられる国に住みたい人はいないはずです。だからこそ多くの人々がアメリカを目指しているわけです。

 ただ、歴史のないアメリカではそれが非常に短い歴史の中で実現できていたとしても、歴史の長い国では抵抗勢力もあり、時間の掛かる問題です。とはいえ普遍的価値観に合致する国づくりに取り組む勢力を応援するのは当然であり、道義的です。

 日本は今回も紛争には一切かかわらないスタンスで、アフガン難民の積極的受け入れも表明していません。これは移民受け入れの合理性の問題ではなく、国家の心の問題です。

 せっかく、インド・太平洋地域の平和と安定のために手を挙げた日本ですから、アフガン問題を高みの見物とはいきません。実際、日本も安全保障上、日米同盟を初め、価値観を共有する国々が共感できるような行動を決断すべきでしょう。

 放置すれば、独裁国家など権威主義の国々、テロや野蛮な虐殺も辞さないイスラム聖戦主義の勢力が、世界を席巻することで、自由や民主主義を守る国々は脅威に晒されるのは確実です。その意味でも信念を曲げるようなことはあってはならないことです。

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