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 アフガニスタン情勢が急変し、かつて国際テロ組織アルカイダをかくまい、結果として米9・11同時多発テロに繋がった武装集団タリバンによる国の制圧が確実になる中、同国在住の外国人だけでなく、報復や弾圧、処刑を恐れたアフガン人の脱出が続いています。

 世界各国はアフガンを脱出する自国民やアフガン人についてリアルタイムで報道し、安否を心配しています。ところが、なぜか日本政府も報道機関も情報を出し渋っているのか、17日になって、ようやく日本大使館の日本人職員12人がドバイに脱出し、大使館で働いていたアフガン人とその家族は移動手段の確保が難しく、脱出できていないと報じられただけです。

 そんな中、マクロン仏大統領は、現地のフランス人およびフランスに協力したアフガン人とその家族の救出のため、軍用機2機と特殊部隊を現地に派遣したことを明らかにしました。

 マクロン仏大統領は16日、テレビ演説で「想定不可能な難民の重大な流れが予測される」として「欧州で率先して彼らの保護にあたる行動をとる」と強い意志を表明しました。「したがって、われわれは時間を置かず、ドイツおよび他の欧州諸国と連携して、堅固で協調的かつ団結した対応を構築するイニシアチブを実行する」と述べました。

 マクロン氏は「フランスの機関で働いていたアフガニスタン人とその家族600人以上を安全に輸送しフランスに受け入れている」「アフガニスタンからの国外退去を希望する現地で働く非政府組織(NGO)の全てのフランス人を保護し、支援している」と述べました。

 フランスは何年も前からフランスのために働いてきたアフガンの民間人の家族をフランスで受け入れていたわけですが、「われわれを助けてくれる人を守るのはわれわれの義務であり、使命だ。通訳、運転士、料理人など約800人がすでにフランスに到着している」と述べ、「われわれと価値観を共有する人たちと可能な限り共にあることが、フランスの道義だ」と強調しました。

 さらに、アフガニスタンで活動していたジャーナリストや文化活動を行っていた人々の保護にも努めるとして、欧州連合(EU)加盟国に先駆けてアフガンを脱出すことを希望する人々の保護でリーダーシップを発揮する姿勢を鮮明にしました。

 無論、タリバンが今、「報復行為は行わない」「女性の権利も尊重する」と融和の姿勢を見せていますが、今後どうなるかは誰にも分かりません。のんびり様子見をしている間に何が起きるかは予想できない状況です。特にタリバン自体が一枚岩ではなく、今は穏健派が表に出ていますが、過去に市民を弾圧した残虐なイスラム原理主義の過激派も健在です。

 EUは実は、この数年、難民認定されないアフガニスタンの本国送還を進めていました。EU統計機関ユーロスタットによる最新の調査で、2020年にアフガニスタン人のEU亡命希望者は全体の15.2%を占めるシリア人に次ぎ、10.6%の44,000件と2番目に多い数字でした。

 EUは2015年のシリアやイラクから押し寄せた難民、移民約100万人を受け入れた過去があります。フランスは難民に紛れ込んだイスラム過激派のテロリストによるテロが頻発した苦い経験もあります。そのため、フランスも他のEU主要国同様、亡命を拒否されたアフガニスタン難民の追放を行っていたわけですが、7月以降、追放は停止されており、今回は大きな方針転換に踏み切ったわけです。

 実は東日本大震災で福島原発事故が起きた時もフランスは自国民救出のため軍用機を飛ばしました。彼らはリスクマニュアルが定められ、その手順に従って迅速に行動する体制を整えていました。

 日本は今回、自国民及び大使館やJICAなど日本機関で働いていたアフガン人とその家族の救出ために強い決意を持って行動する姿勢を示していません。アフガニスタンのような不安定な国で、大した脱出マニュアルがないのも不思議ですが、菅首相も強いメッセージを出しておらず、救出報告も後手後手です。

 マクロン大統領が語った「われわれと価値観を共有する人たちと可能な限り共にあることが、フランスの道義だ」という点が重要です。無論、裏には来春の大統領選をにらんだ得点稼ぎもあるでしょう。しかし、これまで欧州で私がインタビューした政治家や大学教授、研究者、ビジネスリーダーが口を揃えて言うのは「日本は本当にわれわれと価値観を共有しているか疑問だ」という言葉でした。

 マクロン氏は、アフガニスタンへのフランスの過去の軍事介入を擁護し「最初に戦った人々、死んだか重傷を負った人々の家族」に対処したいと述べ、アフガニスタンのタリバンによる支配が確実になる中、同問題に深く関与する姿勢を鮮明にしました。

 自由と民主主義、法による支配という価値観は、「戦って勝ち取ったもの」であり、その価値観は「命がけで守る」という国際常識が日本には感じられないというのは問題です。敗戦でアメリカから押し付けられた価値観だから仕方ないでは済まされない国際的な信用問題です。

 フランスの専門家は、今後、タリバンが最も重視する外国勢力は中国だと断言しています。独裁国家をめざすという意味で、タリバンの国家建設の方向は穏健路線かもしれないといっても、われわれとは価値観を共有できないものです。すでに中国はアフガニスタンを一帯一路に組み込み、資源獲得のための拠点を構築しています。

 つまり、中国のめざす判図が今回、アフガニスタンに広がったともいえます。日本はインド太平洋地域の安全保障のため、日米豪印戦略対話(クアッド)に参加していますが、共有する価値観を命がけで守るつもりはあるのでしょうか。今回のアフガン救出劇にその姿勢が表れているのかもしれません。

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