sympathy-vs-empathy

 感染力の非常に強い新型コロナウイルスのデルタ株が世界的に猛威を振るう中、どの国でもワクチンを打ちたがらない若者への接種が政府の頭を悩ませています。欧州では英領ジャージー島で驚異的な高い接種率が実現できたことが注目され、米ハーバードビジネスレビュー(HBR)も取り上げています。
ワクチン接種に懐疑的な人をどうすれば説得できるか

 聞いてみれば当たり前のようなことですが、実は世界中ほとんどの政府が実行していない方法だということと、私が専門とするグローバルマネジメントの方法論の応用でもあることに気づかされます。それは何かといえば、ブリッジパーソンの起用、メッセージに「なぜなら/〜だから」という言葉を使うこと、そして相手の心情に訴える理由を提示することで当事者意識を喚起することです。

 たとえばグローバルマネジメントでは、文化の背景が違う相手を説得する場合、基本は合理性や論理性を駆使することです。なぜなら、文化の壁を超える唯一の道が論理性にあるため、ロジカルなメッセージの伝え方が重要というわけです。ところが落とし穴もあります。それは合理性自体が文化によって異なるという盲点に気づかないことです。

 米中対立はアメリカの合理性が中国には通じないことです。外交やグローバルビジネス交渉では、なるべく論理性を重視するようにといいますが、その論理さえ共有できないことは少なくありません。つまり、交渉にその国の常識(価値観や国民感情)が大きな影響を与えているからです。

 たとえば、慰安婦や徴用工の問題で、日本政府は国際条約の不可逆的合意という合理性を理由に韓国の要求をつき跳ねると、相手は今も日本政府は謝罪の心はあるのかと詰め寄るわけです。これでは国民感情が邪魔してかみ合いません。無論、政治利用されているのも事実ですが。

 そこでワクチン接種を拒否している人々を説得する方法として、専門知識を持つ専門家(合理性、科学性、論理性、豊富なデータ)が前面に出てきているわけですが、そもそも反権力的な考えを持つ人々は政府が起用する専門家の意見には耳を貸そうとはしません。さらに若者に対して経験豊富な恒例の専門家や政治家、役人のいうことには本能的に反発します。

 コロナ禍の長期化で政治不信は世界中で広がっており、ますます政府の方針に従わなくなり、緊急事態宣言が出されても人流は減りません。オオカミ少年の話と同じで「また、嘘に決まっている」と受け止められ、本当の危機に突入する可能性があります。

 そこでワクチン接種に懐疑的な人々に接種を受け入れてもらうために、拒否している人が耳を傾けやすいメッセンジャーが必要です。それは相手にとって身近な人です。若者であれば人気のお笑い芸人やユーチューバー、ミュージシャン、俳優、アニメーター、漫画家、ゲーム制作者などです。

 ジャージー島の場合は、もっと身近な職種の人々がメッセンジャーになったことが功を奏したとされています。これはグローバルマネジメントでは、ブリッジパーソンといいます。異なる文化の相手と自分の側の両方に通じている人間が橋渡しすることで相手を説得できるという方法です。

 もう一つは、メッセージに「なぜなら/〜だから」という言葉を使うこと、それも合理性のためではなく、相手の心情に訴える理由を提示することで当事者意識を喚起することです。これは相手が共感してくれる理由を見つけ、共感してもらうことで当事者意識が芽生えると方法です。

 ワクチン接種した介護士が拒否している仲間に、お世話をしている人たちがワクチン接種していない人に恐怖を感じていることを、自分が介護士になった動機を私を主語にした表現で話して、同じ仕事仲間として共感してもらった効果も報告されています。

 HBRは「リマインダーに”あなたの分のワクチンを取ってあります”という文章を含めると、インフルエンザワクチンを打って自分を守ろう」という標準的なメッセージより、11%も接種率が上昇した例を紹介しています。これは当事者意識を高めるために効果的だといいます。「行動科学者が「授かり効果」と呼ぶものが働いているからだ」とHBRは説明しています。

 これはグローバルマネジメントで要求されるチームワークで、文化の異なるメンバーのダイバーシティマネジメントで個別に「あなたがいないとチームが成り立たない」「このプロジェクトはあなたの参加が前提になっている」などとアプローチすることで当事者意識を喚起する方法とも似ています。

 「あくまで強制ではなく任意」という前提を強調しすぎると、人は様々な行動をとるものです。中には人と違う行動をとることで優位性を示そうとする人もいます。メッセージに込められる「なぜなら/〜だから」は科学的、合理的理由、同情ではなく、相手のコンテクストに寄り添った共感が大前提です。

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