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 民主主義は選ばれた人物が民意を反映しているという理屈です。その意味で昨年暮れの米国の大統領選の結果は、紆余曲折がありましたがバイデン氏に決定し、世界に最も影響力を与える国のリーダーが選ばれたことで、世界もこの変化に呼応しているように見えます。

 しかし、それで世界はバイデン氏がいう「より良い再建へ」を実現できるのかは大いに疑問です。理由はコロナ禍の異常事態という極めて特殊な状況の中で国民が判断したことに危うさを感じるからです。

 米国第一主義のトランプ前政権は国内製品の購入を促進して製造業を中心に500万人の新たな雇用を生み、ラストベルトと呼ばれる工業地帯の労働者票に支えられていました。この労働者票を奪うことで当選したバイデン氏ですが、なぜを票を奪えたかといえば、コロナ禍に襲われたことで事態が一変したからです。

 それまでは、トランプ大統領は就任直後から法人税減税や所得税の最高税率の引き下げを実施し、「トリクルダウン」と呼ばれる経済理論で、企業や株式市場を刺激したことで、その恩恵は大企業だけでなく、経済界全般、さらに労働者にもいきわたっていました。

 最高値を繰り返す株価に連動するように、雇用環境は好調で、コロナ禍以前は全米の失業率は3.5%という半世紀ぶりの水準に改善したことで、黒人やヒスパニックの失業率も史上最も低い水準に改善されていました

 つまり、リベラル派が批判していたトランプ政権の金持ち寄りの政策は当たらず、経済活動が活性化すれば、その恩恵は労働者に広がっていたという事です。それに実はラストベルトでもコロナ禍で失業に陥った労働者の中に株価の運用でひと財産作ったような人も少なくありませんでした。

 トランプ政権は約束を守り、労働者らにも恩恵が広がっていましたが、コロナ禍の長期化で全ては破壊された時期に、大統領選挙が行われ、あたかもラストベルトの労働者は、トランプ政権時代に状況は改善しなかったようにリベラルメディアが報じ、票はバイデン氏に流れました。

 バイデン氏は当時、トランプ政権のコロナ対応を批判さえすれば、労働者の票を取り戻せたわけです。政治家には運がつきもので、2008年のリーマンショックも世界中の政治家が次の選挙で苦戦しました。フランスのサルコジ大統領もリーマンショックの影響で経済が悪化したことで再選はされませんでした。

 つまり、バイデン氏はコロナ特需も手伝って当選した(違法な手法も指摘されていますが)といっても言い過ぎではないでしょう。バイデン氏が打ち出す政策は、まったく米国らしくないものに覆われています。その一つがバイデン氏が先月、独禁強硬派リナ・カーン氏(32)を連邦取引委員会(FTC)の委員長に任命したことです。

 カーン氏は、反トラスト法の歴史的役割について公聴会で「米国の経済、米国の民主主義を野放しの独占的な力から守ることだ」と語っています。彼女の考えは根底として大きくなりすぎた企業は、その独占的地位を利用し、必ず消費者に不利益をもたらすという確信を持っていることです。

 この性悪説は、通常、法で取り締まるものですが、彼女は堂々と民主主義への脅威という政治的考えを持ち出しているわけです。米国の成長は健全な自由競争によって成り立ってきました。この「健全な」という部分を法が管理しているわけですが、それを政治力で管理する、つまり、社会主義的管理を中心に置く、民主党左派の典型的人物です。

 一見、正しいように見えて、自治は合理性に欠けるのが強者を嫌う民主党左派の考えです。実際、コロナ禍でも巨大IT企業の恩恵を消費者は受けていました。巣篭りでネットショッピングで多くの消費者はアマゾンを利用し、リモートワークで無料のズームサービスが利用されました。

 私は米国が自由競争の合理性を追求しなくなれば、弱体化するのは目に見えていると考えています。米ウォールストリートジャーナルは「米国のベビーブーム世代以上の高齢者は、数十年にわたり莫大な資金を蓄えてきた。米連邦準備制度理事会(FRB)のデータによると、2021年第1四半期(1-3月期)末時点で、70歳以上の米国人の純資産は35兆ドル(約3900兆円)近くに達している」と報じています。

 「これは、米国の全純資産の27%に相当し、30年前の20%から増加している。また、対米国内総生産(GDP)比では157%と、30年前の2倍以上に達している」と指摘しています。これも資本主義の自由競争原理の恩恵といえるでしょう。その競争を今、妨げる人物をバイデン氏は起用したことになります。

 中間選挙で民主党が多数派を維持すれば、民主党左派なさらに勢いづくでしょうが、それは米国の終わりの始まりになる可能性が高いといえるでしょう。コロナ禍という歴史上の超特殊状況の中で選択された政権は、国と世界をカオスに導く可能性が高いと私は見ています。

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