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 自由と民主主義の価値観を共有する国の投資家たちが今、重視し始めたのがESG(環境・社会・ガバナンス)です。従来の企業の評価指標(業績と財務状況)に加え、環境破壊、人権軽視、ガバナンスを疎かにし、不祥事を起こすブラック企業は長期的成長が望めないという新たな投資判断基準です。

 持続可能な開発目標(SDGs)が、すっかり定着しようとする中、個人的にはESGは具体的テーマに絞られ、SDGsのように行政から民間企業、あらゆる活動に広範囲に当てはまるのに対して、企業価値に特化し、内容も今の時代に合致しているのが注目点だと思います。

 たとえば、気候変動にまったく関心がなく、2酸化炭素を大量に排出する製品や自然界の破壊に繋がるプラスチック製品を大量に生産し続ける企業から投資家が撤退するのは、大いに歓迎すべきことです。さらに民族の強制的同化や宗教弾圧など西側が重視する自由と人権を無視する行為に間接的にでも加担する企業に対して、ESGの観点から投資家が引いていく動きも重要です。

 企業の目的は利潤追求にあることは変わらないにしても、利潤追求の目的は、より良い物やサービスを提供することにあるのは自明の理です。今では金儲けに心血を注ぐ多くの事業家にとって、社会貢献など公益性は収益を上げ、長く存続するためには必要不可欠なことが広く認識されています。

 しかし、ESGが求めている企業価値は、自由主義の価値観を共有する国では戦略的に導入されているものです。たとえば人権問題は、今までは政府が人権侵害している国に制裁を加える手法が主流でしたが、米国ではトランプ前政権時代、欧州連合(EU)では約10年前から、国益重視の観点から貿易規制にESGが影響を与えています。

 コロナ禍において日本企業もサプライチェーン問題が深刻な状況に陥ったわけですが、それは単に製造業だけの問題ではなく、安全保障に関連する物資供給にも影響を与え、政府は一部製品の国産化に切り替える動きを見せています。

 それとは別に欧州では、企業の国外のサプライチェーン(供給網)での人権侵害を監視する動きが強まっています。ドイツでは今年6月、供給網を構成する工場などでの人権侵害の定期的な調査や、通報制度の整備を義務付ける「サプライチェーン法」を承認しました。対象は独国内の従業員3000人超の企業で外国籍企業も含まれ、2023年に施行予定です。

 米国ではバイデン政権がトランプ前政権の方針を引き継ぎ、今年3月に発表した通商政策方針で、強制労働に基づく製品の輸入を認めない輸入規制を明確にしました。カリフォルニア州では、サプライチェーンにおける強制労働、人身売買に関するリスク評価・対応のための監査などを企業に義務付けるカリフォルニア州サプライチェーン透明法(CTSCA)が2013年に施行されています。

 CTSCAは、企業に対して自社のサプライチェーンから強制労働根絶への取り組みに関する情報を消費者に開示し、管理されたサプライチェーンで製造した商品であることを表示させるものです。

 欧米先進国はポストコロナに向かい、サプライチェーンと人権への取り組みを強化する流れにあります。ESGが注目する企業価値指標にも合致するものです。人権侵害や人身売買に目をつぶり、労働コストの低い途上国、新興国に生産拠点を移すグローバルビジネスモデルにメスが入れられる状況なのです。

 商売は綺麗ごとではいかないというのが商人の常識とされた時代は大きな挑戦を受けています。勘違いする人は、持続可能な開発目標やESGを重視すれば資金が集まり、儲かると受け止めるでしょうが、それは主客転倒です。しかし、ESG投資が呼び掛ける企業価値指標は今後、さらに大きな意味を持つでしょう。

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